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APA_高齢の誤嚥性肺炎患者に経鼻胃管を行っても、経口摂取で元の居住地に退院できる可能性は低い


Kitamura M, Nishizawa T, Yanai A, Taguchi M, Matsumoto N, Hayashi K, et al. Association between nasogastric tube feeding and discharge outcomes in patients aged 80 and older with aspiration pneumonia: A propensity score-matched retrospective cohort study. J Gen Fam Med. 2024; 00: 1–5.
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/jgf2.745


研究背景

  • 誤嚥による嚥下障害が原因で、入院後48時間以内に経口摂取ができない患者に対して、経鼻胃管栄養(NGF)で栄養を補給する方法がある。

  • ICU患者での有効性は示されているが、高齢者、特に重度認知症患者への有効性は不明。


方法

  • 研究デザイン:2012年~2022年の期間に東京の三次医療機関に入院した80歳以上の誤嚥性肺炎患者を対象にした後ろ向きコホート研究。

  • 対象患者

    1. 入院後48時間以内に経口摂取ができなかった

    2. 言語聴覚士(ST)が初回に誤嚥リスクありと判断した

    3. 医師が病歴・リスク・画像検査で誤嚥性肺炎と診断した

  • 除外基準

    1. 誤嚥性肺炎2回目

    2. 状態不安定で嚥下訓練ができない

    3. ICUに入院した

    4. 入院前に胃瘻・中心静脈栄養あり

    5. 他院からの転院、他院への転院

  • 主要評価項目:経口摂取能力を持ったままの、元の住居への退院率(嚥下ピラミッドレベル3以上の嚥下食)


嚥下ピラミッド


結果

  • 患者背景(256名→129名→43:86名)

    • 10の潜在的交絡因子に対して傾向スコアマッチングPSMを使用してバランスを取り(年齢、性別、病前居住地、ADL、JCS、A-DROP、CCI、FILS、認知症、入院年)、129名を経鼻胃管43名 対 経鼻胃管 86名の1:2にマッチングした。

  • 退院率:経鼻胃管群では元の住居に経口摂取可能な状態で退院する割合が低かった(9.3% vs. 40.7%、p < 0.001)。

  • オッズ比:経鼻胃管の使用は、経口摂取可能な状態での退院率が低いことと関連(オッズ比: 0.15、95%信頼区間: 0.05-0.46)。

  • 入院期間:経鼻胃管群で平均入院期間が長く、退院時の経口摂取可能率が低い傾向にあった。

患者背景・結果

考察

  • 高齢患者、特に認知症患者への経鼻胃管は栄養状態を改善せず、退院時の機能改善には結びつかない可能性がある。過去のメタアナリシスでも、特に進行した認知症の高齢患者において、経鼻胃管は栄養状態を改善しないことが示されている。

  • エンドオブライフケアの重要性:退院後の生活を考慮し、患者と家族に対して終末期ケアに関する話し合いが必要。

限界

  • NGF適用の理由が不明確であり、家庭のサポート状況などが考慮されていない点。

  • カロリー摂取量や中心静脈栄養の使用は評価されておらず、交絡因子評価のばらつきが影響する可能性がある。

結論

  • 80歳以上の誤嚥性肺炎患者において、経鼻胃管栄養の使用は元の住居に経口摂取可能な状態で退院する割合を低下させる結果と関連している。


読後感想

  • 高齢者が誤嚥性肺炎を起こした時点で5割は経口摂取困難・元の場所への退院困難。かつ経鼻胃管を使用するとさらにその可能性は下がる、という結論。

  • 私も誤嚥性肺炎に経鼻胃管を入れるか、よく迷う。

    1. 誤嚥性肺炎を起こすレベルでの廃用が進行している場合、経鼻胃管を入れることで栄養が改善し、嚥下機能が良くなるか?改善見込みが読めない

    2. 経鼻胃管の抜去リスクがあるため、身体拘束によるさらなる廃用リスクがある。認知症患者はもちろんのこと、高齢者なら経鼻胃管によるせん妄リスクも高まる。

    3. 上記の結果、私の所属チーム・病棟では、経鼻胃管を入れる文化はほとんどない。どちらかというと中心静脈栄養(PICC)を入れる機会が圧倒的に多い。経鼻胃管は胃瘻への短期間のつなぎとして稀に使用する、くらいか。

  • 経鼻胃管は確かに使いにくい。ただ全く栄養を使わないのもどうかと思うので、逆にどのような状況なら経鼻胃管を使いやすいか、もし使わない場合の代替栄養(TPN、PICC、末梢静脈栄養を含む)を使うか否か、タイミング、ACPなど、考えることは山ほどある。

  • 誤嚥性肺炎の栄養はいつも悩む。論文、寿司本、誤嚥性肺炎の本を読みながら、定期的に自分の診療を見直していきたい。




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