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19歳のジャネットに操られる56歳の私

 私は、シアトルにある、老人ホームのレストランでウェイトレスをしている。1か月前、パートナーのヴィッキーが転職した。ヴィッキーの後釜は、彼女の娘で、大学1年生のジャネットだ。頭の良いジャネットは、すぐに仕事を覚え、テキパキと仕事をしている。パワフルなパーソナリティを持つヴィッキーとは違い、真面目にきちんと出勤するし、仕事中にいなくなることもない。

 当初、ヴィッキーは、週末だけ、アクティヴィティ部で働くことが決まっていたけれど、この話はなくなった。フルタイムの人が見つかったからだ。
 退職から数週間後、ジャネットを送ってきたヴィッキーが、ダイニングルームに入って来た。
「おはよう~」
 朝食をとっていた住民の間を通り抜け、歩みを緩めることなく、まっすぐキッチンへ向かう。
「ユミ~、住民は私のことを愛してるねん。私が辞めることで、みんな悲しんでる。つらいよ~」
 退職の日まで、来る日も来る日も、こんなことを言って、涙を浮かべていた人だとは思えない。しかも、ダナの前も素通りだ。ヴィッキーは、ダナのことを「母親のような存在」と言っていた。「ダナが死んだら、私は耐えられない」とも言っていた。
 注文を出すためにキッチンへ入ると、ディレクターのリンジーと抱き合うヴィッキーがいた。リンジーが就任したその日から、二人はものすごく気が合ったのだろう。ケミストリーだ。長~い抱擁が終わると、彼女はリンジーの傍から離れず、新しい職場の話を、機関銃のように話していた。そして、いつの間にかいなくなった。
 ダイニングルームへ行くと、住民のひとり、アンジーが言った。
「ヴィッキーは、立ち寄ってもくれんかった」
「うん。竜巻みたいに消え去ったなぁ」
 アンジーも私も、二人のケミストリーには叶わない。
 彼女は、リンジーと新しい仕事に夢中だ。住民が悲しんでいるかどうかなんて、綺麗さっぱり忘れたのだろう。さすがはヴィッキー。これでいいと思う。彼女は、振り返ることなく、力強く前進していくだろう。

 ジャネットは、明るく、前向きで、とても可愛らしい。自信満々なところはママにそっくりだ。大学が休みの12月末まで、ここでアルバイトをする。ヴィッキーを知らない人は、この施設にいない。ジャネットは、入った当初から人気者だ。そして、彼女もリンジーに夢中だ。
「リンジー!リンジー!」
 子犬のように、まとわりついている。
 彼女は長女で、仕事をするママに代わって、妹や弟の面倒をみていたのだろう。ちゃかちゃか仕事をし、他のティーンエイジャーに、どんどん指示を出す。ボーイズは、美しいジャネットが大好きだ。ニコニコ喜んで、言うことを聞く。おもしろい。
「君はリーダーになれるね」
 同僚のトーマスに言われて、さらにリーダー気質を発揮中だ。
「ユミ、大丈夫?」
 私のことまで心配してくれる。けれども、おそらく私は、彼女以上に大丈夫だ。
「ユミ、これが終わったら、洗い終わった食器、片付けてあげるね」
 皿洗いをしている私に、こう言ってくれる。実は、彼女は皿洗い、掃除やモップがけが嫌いだ。これらの仕事を避けるために、私の手伝いを申し出ている。おばちゃんにはお見通しだ。
 お見通しだけれど、気付かないフリをしている。嫌いなことは避けているけれど、彼女は常に仕事をしているし、他のティーンエイジャーの数倍役に立っている。12月末までの期間限定だし、掃除やモップがけは、パートナーの私が担当する。楽しく働いて、お小遣いをためて、大学に戻ってくれればいい。

「ユミ~」
 先日のことだ。近付いて来たジャネットが、両手で💛のマークを作っていた。
 おばちゃんは、ジャネットにメロメロになった。
 彼女の方が、私の扱いを知っているのかもしれない。

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