見出し画像

忍び寄る変化。気になるトランプ政権。

「妹が、軍隊に入ることに決めてん」
 フィリピン人の友人は、大家族で暮らしている。母親、夫、子供たち、いとこ、いとこの子供、おじさん、おばさん・・・何人で暮らしているのかはわからないけれど、全員が働き、全員が交代で子供たちの面倒をみる。皆の収入をかき集めて生計を立てている。その中で、妹だけは学校へも行かず、就職もせず、ただ飯を食っていると、時々文句を言っていた。
「トランプは、女性やトランスジェンダーの入隊は禁止するって言うてるから、早い方がええんやろなぁ」
「そうなん?」
「実行できるかどうかは知らんけど、そうしたいんやろ」
「知らんかった。言うてるだけで、そんなことは起こらんでしょ」
 隣に座っていた友人も、フィリピン人の彼女の意見に賛成だ。
 彼女たちの言うとおり、何も起こらないかもしれない。けれども、相手はトランプだ。「えぇっ!嘘!」と思うようなことでも、平気でやりそうな気がして仕方がない。トランプが勝利した日から、なんとなく底知れない怖さを感じている。

 11月25日、アメリカの大企業、世界最大のスーパーマーケット、多くの従業員を雇用するウォルマートが、DEIの施策の一部を撤廃すると発表した。
 DEIとは、組織内での問題解決、意思決定を行うときに基盤とする規則、思想だ。その目的は、組織内での偏見や差別をなくすことだ。

 D(ディヴァーシティ:多様性)性別、民族性、性的思考、障害、年齢、宗教など、様々な人々が存在することを意味する。
 E(エクイティ:公平性)報酬を含む平等な扱い。歴史的な社会的格差をなくすための努力、将来的な平等を目標に調整することも含まれる。
 I(インクルージョン:包括性)ひとりひとりの発言に耳を傾け、それぞれの意見を取り入れる。多様性の中でひとつのチームを構築する。

 ざっくり言うと、差別や偏見はやめましょう。過去の差別により、貧しい生活を強いられている人々に、奨学金や支援金を援助する積極的格差是正措置を導入して、その格差を縮めましょう、という感じ。
 
 以前、働いていた職場は、ビデオによるDEIトレーニングを導入していた。従業員は皆、数週間毎に、その研修を受けなければならない。「差別をしない」なんて、当たり前のことすぎて、面倒くさく感じていた。
 今回、ウォルマートは、この研修を撤廃する。知っていて当たり前の研修に時間を割くことがムダ、という理由ではない。これは、DEIの思想、規則を重要視しないという決定だ。
 WOKE(ウォーク)のキャンペーンにも、企業として参加しない。
 WOKEは、「社会的不平等に対する目覚め」を表す俗語だ。人種差別、性差別、LGBTQ差別などに対する平等を求める運動、例えば、ブラック・ライヴス・マター運動などに、企業として参加しないということだ。
 2020年、ジョージ・フロイド氏が、警察官のリンチにより亡くなった際、ウォルマートは、人種平等のために1億ドルを支援し、その活動を5年間行うと発表した。こちらも中止される。
 LGBTQ、性的少数派のイヴェント「プライド」への支援も見直す。さらに、これらWOKEに関する子供向け商品も撤去される予定だ。
 サプライヤー(納入業者)の評価を見直し、多様性を基本とした優遇措置も行わない。

 極端に言うと、白人のビジネスオーナーは、白人の男性だけを雇用し、白人の納入業者だけと取引をする、そのような社会に向かおうとしている、ということだ。
 これらは保守派の取り組みだ。トランプを恐れたウォルマートは、「差別撤廃」という正しいことを放棄して、これまでの主義をコロリと変えて、保守派の政策を受け入れた。
 保守派の活動家、ロビー・スターバック(Robbie Starbuck)は、SNSに投稿した。
「アメリカの企業が『WOKE』の活動を廃止する。政治的活動における大勝利だ!」
「米国は、正常に戻ることを求めている。『WOKE』の時代は終わり、企業の状況は、健全、且つ中立の状態に速やかに転換している」

 事実、ウォルマートに続き、DEIを撤廃する企業は出てきている。けれども、これら企業に対する抗議や行進、ボイコットは行われていない。行動を起こさなければ、「人種格差、社会的不平等を考慮しません」と言う企業を受け入れることになる。とはいえ、サンクス・ギヴィングやクリスマスなどのホリデーシーズンで、皆、それどころじゃないのだろう。不買運動をしたくても、できない人も多いに違いない。
 ジョージ・フロイド氏の事件には、世界を揺るがすインパクトがあった。けれども、マイノリティの富、財産、権利を奪い取る保守派の政策は、そ~っと忍び寄ってくる。職場や生活で、これまでとは違う「差別」を、ダイレクトに感じなければ、その変化にも気付きにくい。これまでと変わらず、暮らせそうな気もする。
 とはいえ、黒人がこれまで進めてきた公民権運動は、どう考えても後退している。そして、ロビー・スターバックスのように、それを大喜びしている国民が、少なからずいることも事実だ。アメリカ南部や、貧しい黒人コミュニティで暮らす人々は、私たちが想像している以上に、恐怖を感じているのではないだろうか?

 トランプ政権はまだ始まっていない。にも関わらず、すでに社会は変わり始めている。次の4年間で、何が起こるのか?忍び寄る変化が、妙に気持ち悪い。比較的貧乏なので、不買運動には自動的に参加できるけれど、他にできることが浮かばない。偉そうなことは言えないけれど、自分の中にある正義だけは貫きたい。

いいなと思ったら応援しよう!

るるゆみこ
最後まで読んでくださってありがとうございます!頂いたサポートで、本を読みまくり、新たな情報を発信していきまーす!