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私たち、5ドルです。
私は、シアトルにある老人ホームのレストランでウェイトレスをしている。
ここのところ、アルバイトの学生をカヴァーして、ずーっと働いていた。彼らは、前夜に突然テキストを送ってくる。
「明日のディナー、代わりに働いてくれない?」
もちろん「ノー」だ。こちらは朝の6時半から、ノンストップで働いている。家に帰ったら、ほぼボロ雑巾だ。これでディナーまでこなしたら、本当のボロ雑巾になる。前夜に交代を頼むのだから、重要な予定ではないはずだ。
そもそも、ノンストップで働かなきゃならない理由のひとつは、夕方に働く、彼ら学生たちが、必要最小限の仕事しかしないからだ。テーブルクロスの交換、掃除機をかける、モップをかけることはもちろん、テーブルの上のコーヒークリームや、砂糖の補充すらしない。朝出勤すると、キッチンが泥のように汚れていることも少なくない。おばちゃんは、君たちのおかげで、十分忙しいのです。
「ディナーの後は、掃除機をかける」というルールはあるけれど、見事に無視だ。彼らが働く時間に、スーパーヴァイザーがいないことをいいことに、彼らは好き放題する。「住民に、食事だけ出しておけばいいだろう」という感じ。
ところが、食事を出すことすら、彼らは平気で放棄する。交代の相手が見つからなくても、「休む」と言ったら、彼らは絶対に休む。休まれたら、誰が住民に食事を出すんだ?住民のことを考えると、放ったらかしにはできない、ヴィッキーと私が、いつもカヴァーをすることになる。
父の日のことだ。受付のアンから、ヴィッキーと私にテキストが届いた。
「サーヴァーがいないので、明日の朝、早く出勤して、洗い物してください」
「サーヴァーがいないってどういうこと?」
ヴィッキーがただちに尋ねたけれど、アンの返事がない。ということは、アンがひとりでサーヴィスをしているに違いない。
「(アンを助けねば!)」
ヴィッキーに予定があることは知っていた。
「私が行くわ」
ただちに職場に駆けつけた。アンを助けたいこともあったけれど、翌早朝から出勤したくなかった。私の選択だ。
まぁ、こんなことが続いたせいか、翌日の朝、仕事中にぎっくり腰になりかけた
「やばい!」
ぎっくり腰も、二度ほど経験すると、その手前くらいで、阻止できる。とはいえ、まともに歩けない。途中で腰がくだけないよう、料理ののった皿を落とさないよう、ゆ~っくり歩く。老人は、誰も私の変化に気付かない。
老人ホームの素敵な点は、ナースが常勤していることだ。
「腰痛に効く、なんか頂戴!」
彼女たちは、ただちに鎮痛剤2錠を処方してくれた。長い間、鎮痛剤を飲んだことがなかったので、ものすごい効果を発揮した。さらに、メインテナンスのアミアが、腰痛ベルトを貸してくれた。鎮痛剤と腰痛ベルトのペアは最強で、スイスイと仕事ができた。
帰宅後、鎮痛剤の効果が消えたら、ボロ雑巾以下の物体となった。体を温め、ストレッチをし、腰中に鍼パッチを貼りまくり、早々に就寝する。
「休んでもええよ~」
ヴィッキーは言ったけれど、家で安静にしていて治るものでもない。翌日は、鎮痛剤1錠と、腰痛ベルトで乗り切る。今日は、出勤前に、赤ちゃん用の鎮痛剤2錠飲んだだけで、最後まで乗り切った。体を動かしているせいか、いつもより治りが早い。
人手不足、無責任な学生アルバイト、クックのアラーナとの戦い、などなど、我々ウェイトレスは、様々な問題に直面している。これら問題の根源は、会社が、これらを放置し続けることだ。時給は安く、昇給もなく、問題も放置する。とても従業員を大切にしているとは思えない。真面目に働く従業員がいなくなっても仕方がない。ヴィッキーも転職活動中だ。
話は少し変わって、先日、会社から、お誕生日のプレゼントを頂いた。バースデイカードと、スターバックスのギフトカードだ。バースデイカードを開けると、「Happy Birthday」という文字が、読めないくらい汚い字で書かれていた。しかも恐ろしく雑い。
家に帰って、ダンナに報告する。
「誕生日にスターバックスのギフトカードもらったで。いくら入ってると思う?50ドルかな?・・・あ~、でもセコイから20ドルかなぁ」
50ドルと推測したのは、前の職場がそうだったからだ。
カードを手に取ると、ダンナが、電話をかけ始めた。カードの残高が調べられるらしい。次のお休みに、二人でコーヒーとスウィーツを買って、ビーチへ行こう。ドキドキしながら待つ。
「・・・お客様のお持ちのカードの残高は・・・・・・・・・5ドルです」
「えーーーーー!!なんやて???5ドルって言った?」
二人で顔を見合わせた。聞き間違えかと思った。会社の買い間違えかとも思った。5ドルなんて、小さいサイズのコーヒーしか飲めない。しかも、フレーヴァーなしだ。店に行くまでのガソリン代、チップを入れたら、マイナスだ。
翌日、ヴィッキーと二人で、散々笑った。
「嘘やろーーー!かっこわるーーー!!!」
ハウスキーパーのオルガの話では、勤続1周年記念も、5ドルのギフトカードだったらしい。どうやら、聞き間違えじゃなかったようだ。
5ドルの価値しかない従業員・・・大笑いしたけど、微妙に笑いきれない。
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