嘘つき社会で誠実な若者は育つのか?
私はシアトルにある老人ホームのレストランでウェイトレスをしている。
11月6日午前4時に起床し、出勤の準備をしながらパソコンを開く。『トランプ再選』というタイトルが目に入る。信じられない。もう一度、よーく見る。やっぱり『トランプ再選』だ。他のニュースの記事を読む。同じだ。記事を読むのに夢中で、やかんに水を入れるのを忘れていた。空焚きに気付き、やかんは救済できたけれど、指3本、火傷した。朝からつらい、痛い。
職場へ行くと、ジェイムスが「Make America Great Again」の帽子をかぶっていた。ジェイムスはそうだろうなぁと思っていたので、驚きはしないけれど、あの真っ赤な帽子には、底知れぬ恐怖を感じる。とはいえ、この選挙結果を喜んでいる住民は、ジェイムスだけではないはずだ。
他の住民や従業員が選挙の話を口にすることはなかった。誰も喜んでいないけれど、悲しんでいる様子もない。これがまた怖い。
今回の選挙は、政策以前の問題だ。
米国民は、ニューヨーク州で商売することすら許されていない男に、破産宣告を6回(4回という説もある)した男に、国の運営を任すのか?
大統領選の討論会で戦うことを拒否し、逃げた男が国の代表?
病歴、既往症を非公開にするような男に、これからの4年間、世界との交渉を任していいの?国民のために戦える肉体と精神を持っていることすら公表できない男を信用していいの?
34件もの重罪に問われている男、性的虐待が認められた男、罪を隠蔽しようとしている男が、本来なら刑務所に入っていてもいいはずの男が、自分たちの代表?自分たちの顔?
疑問はいっぱいある。というよりも、疑問しかない。
選挙結果も怖いけれど、新政権に向けての人事はもっと怖い。
「再建のために、経済を一度破壊する必要がある!」
このように話していた イーロン・マスク が政府効率化省の共同議長だ。誰のために破壊するのか?ビリオネアに対する減税、商品とサーヴィスの間税は20%になると言われている。これが実行されれば、お金持ち以外は、負債を抱えることになるんじゃないの?
さらに教育省を失くす計画もある。バイデン大統領 は、政府支援の奨学金を受けた人々に対し、一部の返済を免除した。学生ローンの負担は大きい。卒業後も返済で、中流階級の生活を手に入れることは難しい。免除により、所得格差縮小に機能するはずだった。もし、教育省、このシステムが廃止されれば、再び、富裕層だけが学歴社会で生き残れる世の中になるだろう。
ロバート・ケネディ・ジュニア が保険福祉省長官になるのも怖い。ケネディ・ジュニアは「反ワクチン運動家」として知られている。彼の主張は、ワクチン使用前の徹底的なテストと研究であり、ワクチン普及を闇雲に否定しているわけではない。ところが、トランプの支配下に入ると、少し意味合いが変わってくる。彼の研究や調査は隠蔽され、必要なワクチンまで廃止されるのではないか?と勝手に想像している。
もっと怖いのは、FOXニュースの週末のコメンテイター、ピート・ヘグセス が国防長官に指名されたことだ。9億円の予算を管理し、軍隊や州兵を含む200万の人々を統括する長に、月曜日ではなく、週末のコメンテイターが就任する。これは「できるかな?ゲーム」なのか?
ヘグセスは、同僚から白人至上主義者と呼ばれていた。2021年1月6日の議事堂襲撃事件について、彼は「左翼の悪事に対し、国民が目覚めた」と肯定し、襲撃した人々を擁護した。牢屋に入っている犯罪者の味方をする、そんな男が国防長官でいいのか???
司法長官には、フロリダ州下院議員のマット・ゲイツ が指名された。17歳の少女を薬物を使ってレイプした罪に問われている男だ。性的違法行為、違法薬物の使用、選挙資金の個人的利用、収賄罪など、犯罪行為山盛りの男が、この国の司法長官?
「17歳の少女を薬物を使ってレイプするような男を議会に受け入れることはできない!」
インタヴューで、ゲイツを批判していた共和党員の ケヴィン・マッカーシー は、彼が司法長官に指名された途端、コロリと態度を変えた。
「トランプの決定を全面的に信頼し、支持する!」
テキサス州の トロイ・ネルズ はもっとすごい。
「我々はトランプの言うことならなんでも聞く。彼が3フィート(約91センチ)飛べと言えば、俺たちは3フィート飛ぶんだ!」
・・・バックボーンのある共和党員はおらんのか?
現在の司法長官 メリック・ガーランド は、今回の選挙までにトランプの選挙介入裁判を行わなかった。裁判遅延の罪は大きい。結果、来月2日で、トランプの選挙介入裁判は、政権が終了するまで保留になる。マッカーシーが司法長官になれば、トランプが法を逃れることは目に見えている。政権に有利な富裕層、白人層の重犯罪、詐欺に対して司法が機能しないとなれば、道徳が廃退し、不誠実、嘘が蔓延する社会になっても不思議はない。
第1期トランプ政権の政策担当顧問を務めた スティーブン・ミラー も復活する予定だ。彼は、極右で反移民で知られている。難民を削除し、難民の子供を親から引き裂く政策立案に大きく関わった男が、次は国土安全保障顧問として戻って来る。
アメリカはこれからどうなるのか?トランプが、自分の都合の良い人事で固めることは目に見えている。
アラバマ上院議員の トミー・チューヴァービル は言った。
「トランプが選んだ人事に反対する議員は全員辞めてもらう」
これじゃ、本当にジム・クロウ時代に逆戻りだ。
ジェイムスはいい人だと思う。他にも、今回の結果を喜んでいると思われる住民はいる。彼らも皆、思いやりのあるいい人たちだ。トランプ支持者が全員、トランプのような人間ではないことだけは確かだ。トランプを支持するからといって、1月6日の議事堂襲撃事件も支持しているわけではないと思う。彼らが支持をする理由は知らない。けれども、トランプが政権を握ることで、人種差別、性差別、女性蔑視、外国人嫌いのトップで固められることは、予想できることだった。
「あかんやーん!」と素直に思う。
彼らに対する態度が変わるわけではない。彼らを嫌いになるわけでもないけれど、なんとも相容れない、どうしようもない壁ができたことは否めない。元気だけれど、私の中の何かが変わった1週間だった。
同じタイミングで仕事のパートナーも変わった。これまで一緒に働いていたジャネットは、夜の勤務に代わり、大学生のブルックリンがパートナーになった。ブルックリンが休憩時間を誤魔化すことは、以前から気付いていた。その日も、30分の休憩時間を誤魔化し、1時間以上経っても職場に戻ってこなかった。常習犯だけれど、今回は現行犯だ。注意をするのは楽しいことではないけれど、注意をしないわけにはいかない。
「タイムカードは何分休憩になってるん?」
「20分。休憩終了してから、家に戻っててん」
「なんで?仕事に戻ってない間は休憩やん」
「???」
「休憩終了した時点で、会社はブルックリンにお金を払ってることになるやろ?この会社だけじゃなくて、他のどこの会社に行っても、時間を盗んだらクビになるねんで」
「???」
「家に帰ってもええけど、帰る前にひと言、言うてよ。おらんかったら心配やし」
「ユミの問題はそこなん?言うていけばええの?」
「そうではなく・・・他の人はルールを守ってるのに、ブルックリンだけ働いてないのにお金もらってたらフェアじゃないやん」
「???」
「暇な時間にゆっくりするのと、休憩時間を誤魔化すのはちゃうやん?タイムカードはちゃんと押さなあかんやろ?私もブルックリンのために嘘つくわけにはいかんねん」
「???」
「要するに、正直に申告すればええねん。わかった?」
「・・・ふーん」
時間を誤魔化すことが悪いことだと思っていないことはわかった。わかったけれど、なんで悪いと思わないのかはわからない。けれども、トップが嘘つきで、犯罪から逃れる社会だ。
「休憩時間を誤魔化すことなど、どうでもええんちゃうの?」
ブルックリンがこう思っても仕方がない。
一緒に働く若者が、正しいことをする大人になることを願い、引き続き、頑張って働こう😁