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テレンス・ハワードにはまってます

 テレンス・ハワード(Terrence Howard)は、好きな俳優のひとりだ。どの作品を見ても、どんな役を演じても、彼の中にある「黒人であることの誇り」を感じる。決して媚びない、黒人であることを、一瞬たりともあきらめない。その頑なさ、揺るがない姿がたまらない。

 最初の作品は1992年、「ザ・ジャクソンズ(The Jackson's:An American Dream)」だ。マイケル・ジャクソンのお兄ちゃん、ジャッキーを演じている。その後、「ソウル・フード(Soul Food)」「クラッシュ(Crash)」「レイ(Ray)」、ものすごい数の映画や、ドラマに出演している。常に、気になる役者だった。けれども、
 「おーーーっ!これだーーーっ!」
と思ったのは、アカデミー主演男優賞にノミネートされた「ハッスル&フロウ(Hustle&Flow)」だ。ピンプ(ポン引き)役が、彼以外、考えられないくらいハマっていた。

 この映画を観た直後、Wikiで、テレンス・ハワードを調べた。
 1969年3月、シカゴ生まれ。私と同級生というだけじゃなく、”私の”シカゴ出身だ。これだけで、気になる度が劇上がりする。とはいえ、育ったのは、オハイオ州クリーヴランドだ。ものすご~く、治安の悪いエリアらしい。パパは、彼に暴力を振るい、ある日、彼の前で人を刺し、刑務所に入った。出所した直後に、パパとママは離婚をし、彼は祖父母に育てられた。
 Wikiに掲載されている内容だけなので、良いことも、悪いことも、語られていないストーリーは、まだまだあるはずだ。
 テレンス・ハワードは、黒人だけに与えられる、過酷な人生を知っている。そして、その人生が、俳優としてのテレンス・ハワードに反映されている気がする。

「俺、この年まで生きられると思ってなかったわ~」
「俺も~」
 ダンナと、ダンナの友人の会話だ。
 私は、地震や交通事故は経験したけれど、「死」を身近に感じながら、生きたことはない。したがって、これまでに、何を成し遂げたかを考えたとき、「うわー、なんもできてないやん!」と焦る。
 一方、ダンナや、彼の友人は、黒人という理由だけで、常に「死」と隣り合わせだ。家を一歩出た瞬間から、ギャングのシューティングや、警察の暴力を警戒しなければならない。彼らの人生のテーマは「死なない」だ。しかも、親が不在の環境だ。犯罪を冒さず、ギャングにもならず、今まで生き抜いた。想像しかできないけれど、これってすごい。これだけで合格だ。
「自分の人生、将来のために、もっとがんばったらええんちゃうのー?」
 こう思うこともある。けれども、彼らはすでに合格している。「死なない」ことが目標の人たちが、将来の夢を持つことは難しい。
 実際、ダンナのことも、彼の友人のことも、テレンス・ハワードのことも、なーんもわからない。わからないということだけは、わかる。そして、彼らには、共通する何かがある。どんなに蔑まれても、絶対に媚びない。黒人として生き抜く誇り、それと同時に、底知れぬ怒りも感じる。
「ハッスル&フロウ」の景色は、テレンスが見てきたものなのだろう。私の中では、見事にハマった。

 他にも好きな作品はある。2000年のテレビフィルム「キング・オヴ・ザ・ワールド(King Of The World)」だ。テレンスが、カシアス・クレイ(改名前のモハメド・アリ)を演じている。ウィル・スミスの「アリ(Ali)」が有名だけれど、テレンス・ハワードのアリは、必見です。
 「パーフェクト・ホリデー」は、クリスマスのコメディだ。主人公の恋愛を応援する、心優しい天使「ミセス・クリスマス」を、クウィーン・ラティファが演じている。一方、テレンスが演じる「バ・ハンバク(Bah Humbug)」は、恋が成就しないことを願う、いたずら好きの、意地悪天使だ。映画はともかく、テレンス・ハワードの意地悪天使はお気に入りです。
 2016年の「カードボード・ボクサー」も好きだ。主人公のホームレス、ウィリーは、金持ちの若者に持ち掛けられて、50ドルで仲間のホームレスと戦う。テレンスは、そんなウィリーを叱咤し、見守るタクシー運転手(ポープ)を演じている。荒んだ状況で、心の癒しを見つけていく、孤独なウィリーを、クールに見守るポープから、深い優しさを感じる。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                         

「寝袋を盗まれたんだ」
 と言うウィリーに、ポープが自分のブランケットを貸す。
「新しい物を手に入れたら、俺に返せ。そのとき、おしっこの臭いがしたら、神に誓って、俺は、お前をひき殺す」
 ん~、実に黒人っぽい。
 
 プライヴェートでは、結婚が4回。とってもハリウッドっぽい。嫁への暴力や、税金滞納など、ネガティヴな報道も少なくない。暴力に関しては、いかなる理由でも同意はできない。けれども、税金滞納は、ちょっと種類が違う。
 2010年から約7年間、約58万ドルの税金を払わなかったために、彼は合衆国政府から訴えられた。が、しかし、彼はそれも無視。最終的に滞納額もプラスされて、その額は100万ドル以上に膨れ上がった。
 これらの行動を、テレンス・ハワードは、次のように説明している。
「400年の強制労働の対価を支払っていないにも関わらず、奴隷の子孫に税金を課し、告発する。これは間違っている」「合衆国は元奴隷の所有物となるべきだ。私は不公平な財政的義務に屈するのではなく、この法廷で戦うことを選択する」
 税金拒否のための愚かな言い訳と捉える人もいるかもしれないけれど、彼がしようとしたことは、それほど短絡的なものではない(と思う)。

 ここ数年間、アメリカでは、元奴隷に対する賠償について、討議を続けている。カリフォルニア州が推定した賠償額は、ひとりにつき、120 万ドル(約1億7千万円)だ。
「今さら、過去の賠償をする必要はないでしょ」
「奴隷制はなくなったし、法律で平等が保障されてるでしょ」
「必死で働いてる私たちが、どうして払わなきゃいけないの?」
 こう思う人は多い。けれども、賠償の定義は、
『与えられるべき権利を侵害し、損害を与えた者が、その損害の埋め合わせをし、損害がなかった状態に戻すこと』
である。
 私たち一般人が目にする黒人のほとんどは、全米のほんの一部、お金持ちになった人たちだ。実際には、貧困から抜け出せないままの黒人も、大勢いる。さらに言うと、あらゆる面において、現在も黒人差別は存在する。
 アメリカ合衆国は、黒人に賠償金を支払う義務がある。ここ数年間、討議は行われている。けれども、実際に賠償を開始したのは、イリノイ州エヴァンストン市のみだ。
 テレンス・ハワードは、高額な延滞税が発生することも、裁判で戦ったところで、勝てないこともわかっていたはずだ。彼は、己の知名度を利用して、合衆国がするべきことを訴えたのではないだろうか?
 ⇩賠償について書いています⇩

 さて、テレンス・ハワードのことを書き始めた理由は他にある。
 ここ最近、俳優の仕事を減らしていた彼だけれど、俳優以外の分野、物理学ですごいことになっていた。著書も10冊以上出していた。なんと、オックスフォード・ユニオン(オックスフォード大学から会員を集める弁論団体)で、講演までしていた。テーマは「フラワー・オヴ・ライフ」「隠された古代数学」「ループする数学」「DNAと音」「DNAと周波数」だ。
 さっぱりわからん。講演を聞いても、物理や数学、スピリチュアルな内容なので、ほぼチンプンカンプンだ。
⇩⇩講演から重要な部分を抜粋し、さらに解説を加えた動画が、日本語吹き替えで出てました。8分までがテレンス自身のスピーチです⇩⇩

 本題は難しすぎたけれど、つかみや質疑応答はおもしろかった。残念ながら、本題じゃないので、抜粋された動画には入っていない。
「俺が育ったのは、ものすごい治安の悪い場所だ。着るものもなかった。ここから抜け出すために、俺は「嘘」からスタートした。
 俳優ビジネスを始めたとき、エージェントもいなければ、レジュメに記載できる経験もない。誰も俺のことなど相手にもしてくれない。そこで、俺は3ページにわたる、嘘のレジュメを書いた。そして、俳優のドアは開かれた。35年間かけて、俺はそのレジュメの内容を埋めていった。俺のレジュメは、嘘じゃなくなった。つまり、20年前の成功が、今日の成功なんだ」
「俳優というビジネスに興味があるなら、このビジネスに「入る」のではなく、「侵入」しなければならない。皆、君の仕事を狙っている。誰も、君を歓迎しない。何が必要か?策略?暴力?攻略?必要かもしれない。つまり、パッションが君を突き進める。
 ステージというリングは、殴り合いの喧嘩じゃない。それは生か死の戦いだ。俺は、君を支えている偽りを、真実でぶち壊す。もし、ただの喧嘩だと思っているなら、生死の戦いの準備ができていないなら、君はこのゲームで命を落とす」
「最終的に、自己喪失、自己矛盾に陥る俳優は少なくない。演技に自分を捧げることにより、自分自身が、そのキャラクターの一部になってしまう。自分が何者かわからなくなる以上に、恐ろしいことはない。本当の自分を知らなければ、家族ですら、私のことを理解できない。大切なことは、何をしようとも、自分が何者であるかを覚えていることだ」
「とはいえ、今回のこの人生でパニックになる必要はない。このプラネットのエネルギーは永遠で、継続的にリサイクルされる。3億5千年前、あなたは、このユニヴァースの一部だった。すべての人類に、これらエネルギーが存在する。思慮深く、賢明に、自分自身を自覚した瞬間を記憶しておく。そうすれば、次の人生につなげることができる」
 現実と、スピリチュアルな部分が繋がっていく。
「1×1=2で、1×5=6、1×0=1だ。1×0=0だったら、物理学のルールを変えなきゃいけない。0はどこへ消える?0×何か=0だったら、自然界の範例、宇宙の現象はどうなる?数学の原則は、真実が基盤じゃない」
 数字はわからないけれど、「法律や数学は、人間の都合で作られたものだ」という話は、同意できる。社会を冷静に見つめれば、この答えにたどり着きそうだ。

 私の好きな俳優、テレンス・ハワードのパッションは物理学だった。俳優の仕事は、彼のできること。イエス・キリストが水の上を歩くことと同じことらしい。
「俳優は、好きなことだ。感情でつながっている。けれども精神的につながっていたのは、物理学、ユニヴァースだ。6歳のとき、俺はフラワー・オヴ・ライフに夢中になったんだ」

 テレンス・ハワード、やっぱり好きです。

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るるゆみこ
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