映画:Life Of A King
2013年にリリースされた映画です。
刑務所から出所した男、ユージーン・ブラウン(Eugene Brown)が、ビック・チェアー・チェス・クラブ(Big Chair Chess Club)を始めるまでのストーリー、実話です。
舞台はワシントンDCのインナーシティ(低所得者層が暮らすエリア)だ。
大都市に隣接するインナーシティにあるものは、ブラックコミュニティと、麻薬、銃、犯罪に関わるサブカルチャーだ。
ユージーンは、刑務所で覚えたチェスを通して、子供たちが彼と同じ過ちを犯さないよう教育する。
主役を演じるキューバ・グッディン・ジュニア(Cuba Gooding Jr.)と、生徒のタヒーン役を演じるマルコム・メイズ(Malcolm Mays)が良い😊
あらすじ
ユージーンは、20歳のときに銀行強盗で逮捕される。
服役中、ユージーンは、彼の人生を変える人物と出会う。
チェスマンだ。
彼はチェスマンとチェスをしていくうちに、インナーシティのサブカルチャーに潜む本質を深く理解する。
インナーシティには、ドラッグやアルコール中毒の親を持つ子供はもちろん、父親が刑務所にいる子供も少なくない。
両親ともいない子供もいる。
”家庭”、”家族”を持たない子供たちの多くは、ギャングがはびこるストリートに自分の居場所を求める。
子供たちは、そのような環境の被害者だ。
17年間の服役を終えるときがきた。
ユージーンは外の世界に戻ることを恐れた。
塀の外に、彼の仲間はいない。
チェスマンはユージーンに、彼が作った木彫りのキングを贈った。
「常にエンドゲーム(終盤)を考えろ。
そうすれば、すべてがうまくいく。
外に出たら、ここにおる俺や、他のブラザーのことを忘れるな。
二度と娑婆に出られへん、俺らのために、お前は外におる。
このキングを大事にしろ。
あとのことはすべて付いてくる」
キングは、己の命、人生を意味した。
出所したユージーンは、真っ当な仕事を求めた。
娘や息子のためにも、更生しなければならない。
けれども、長女のカトリーナに会いに行ったユージーンは、次男のマルコが少年院に入っていることを知る。
マルコもまた、インナーシティの被害者だった。
弁護士を目指すカトリーナからの信用も失われていた。
唯一、彼を迎えてくれたのは、以前のギャング仲間だ。
「金でも女でも、困ったときはいつでも俺のところへ来てくれ」
18年前はユージーンの下で働いていたペリーはボスに昇進していた。
ペリーを頼ることは簡単だ。
けれども頼ったが最後、ペリーは彼を利用する。
ペリーと関わらないためにも、彼は仕事を見つけなければならない。
けれども、仕事は見つからない。
行き詰ったユージーンは、犯罪歴を偽り、高校の用務員の職を得る。
ある日ユージーンは、校長のミス・キングから、ディテンション(放課後の居残り時間)の監督が戻ってくるまでの数分間、クラスを見て欲しいと頼まれる。
クラスには、悪ガキが集まっていた。
その中には、教室でドラッグを販売するクリフトンがいた。
席に着くよう促すユージーンを、クリフトンが脅した。
けれども、ユージーンはただの用務員のおじさんではない。
睨み合いに負けたクリフトンが席に着く。
クラスをコントロールしたことで、ユージーンは、ディテンションの監視役をさせてもらえることになる。
彼にはアイデアがあった。
その時間を使い、子供たちにチェスを教えることだ。
ユージーンは、ボードに向かう子供たちに言い続ける。
「考えろ。問題に直面したとき、その解決策は限られてる。行動を起こす前(チェスを動かす前)によーく考えるんや」
「キングはお前の人生や!ミステイクはジェイル、車椅子、時には死につながるぞ!考えるんや!」
彼はチェスを介して、行動の先に潜む問題を見極める力、正しい方向へ進む力を育てようとした。
決断は、自分の行動に対する責任感と自尊心を培うことにつながる。
インナーシティに犯罪が多い理由のひとつは、責任感と自尊心の欠落だ。
この問題は、両親の不在と深く関わっている。
生徒たちは、次第にユージーンに心を開き、チェスに興味を持ち始める。
ある日、ユージーンはクリントンに忠告する。
「お前はキング・ペリーを守ろうとしてる。
でもキングにとって、お前はただの歩兵や。
お前のことなんて考えてないぞ」
けれども、この忠告が原因で、ユージーンが犯罪歴を偽ったことがばれてしまう。
ペリーの仕業だった。
彼は職も、子供たちの信頼も失った。
けれども、ピーナッツだけは彼を許した。
ピーナッツはチェスに興味を持ち、ユージーンを慕っていた生徒だ。
チェスを教える場所を失ったユージーンは、廃家を購入し、無料のチェスクラブを設立する。
彼はピーナッツをクラブの会長に任命し、チェスマンから贈られた木製のキングを与える。
ある日、クリフトンとタヒーンが、チェスクラブにピーナッツを迎えに来る。
この日、クリフトンは、銃でディーラーを脅し、金をまきあげる計画をしていた。
クリフトンに誘われたタヒーンは、積極的ではないけれど、計画に加わった。
そして、ピーナッツはタヒーンのために、一緒に行動する約束をしていた。
タヒーンはピーナッツの幼馴染だ。
父親不在、母親はドラッグ中毒で、彼女のボーイフレンドは、タヒーンに暴力をふるった。
ピーナッツは、彼の闇を理解していた。
「ピーナッツは俺と一緒におるんや」
ユージーンはピーナッツを守ろうとした。
けれども、ユージーンとクリフトンがもめることを懸念したピーナッツは、彼らとともに出ていく。
クリフトンの計画は失敗した。
そしてピーナッツは撃たれ、命を落とした。
彼の手には、木製のキングが握られていた。
この日、警察から戻ったユージーンが目にしたものは、破壊されたチェスクラブだった。
ペリーの仕業だった。
ピーナッツを守ることができず、チェスクラブを破壊されたユージーンは、更生をあきらめかけた。
そんな彼を励まし、再スタートを促したのが、タヒーンとカトリーナだ。
生徒たちも戻ってきた。
ミス・キングも彼をサポートした。
皆が修理に協力し、チェスクラブは復活した。
ある日、ユージーンは、子供たちをトーナメントへ連れていく。
彼は、タヒーンの類まれな才能を見抜いていた。
けれども、タヒーンには、その言葉が信じられない。
彼の家庭には、可能性や希望など存在しない。
母親は、チェスが、才能が人生を変えることなど信じていない。
チャレンジなんて、無駄なだけだ。
彼女は息子のトーナメントの申込書にサインをしなかった。
タヒーンはトーナメントに出場するために、自分でサインをする。
彼は見事優勝するけれど、偽のサインがばれてしまう。
「これは子供の字じゃないか!出生証明書も添付されてないぞ!」
主催者はユージーンに詰め寄る。
「子供たちの中には出生証明書を持たない者もいるんです」
「誰でも出生証明書は持っています!」
「俺らが生まれ育った場所は違う!」
ユージーンは真実を伝えようとしたけれど、白人の主催者には理解できない。
タヒーンの優勝は取り消された。
憤るタヒーンにユージーンは言った。
「俺たちはルールに従わなかった。
俺たちにルールを変えることはできない。
勝利はルールに従ってこそある。
チェスの目的はチャンピオンシップじゃなくて、人生を学ぶことや。
チャンピオンシップは、エンドゲームじゃなくて、その副産物や」
しかし、タヒーンには納得できない。
彼はユージーンの前から姿を消し、再び、クリフトンと行動を共にするようになる。
しばらくの間、ユージーンの前から姿を消していたタヒーンが、ある日、チェスクラブに戻ってくる。
その手には、母親のサインが記入された、次のトーナメント出場の申し込み用紙が握られていた。
「クリフトンと一緒にいたけど、行動を起こす前に考えて、車から降りてん。
俺は、俺とピーナッツのために、次のトーナメントに出場する」
タヒーンが去った後、クリフトンは警察に逮捕された。
そして、逮捕されたクリフトンを、ペリーは助けなかった。
タヒーンは正しい選択をした。
タヒーンが出場するイースタンチャンピオンシップは、2400人が出場するビッグトーナメントだ。
ユージーンとミス・キングは、タヒーンのために出生証明書を手に入れた。
試合当日、ファイナルまで進んだタヒーンの対戦相手は、合衆国チャンピオン、ベストプレイヤーのJ.トーマス・ゲインだ。
激戦の末、タヒーンは試合に敗れる。
静まり返った会場に、突然拍手が起こった。
タヒーンの母親だった。
彼女は息子の試合を見に来ていた!
さらに、試合を見たトーナメントの主催者が、タヒーンの大学進学サポートを申し出た。
自分自身の人生と命を守るために、次に起こることを考えろ。
常に、最後がどうなるかを考えて行動すれば、すべてのことが、おさまるべき場所におさまっていく。
チェスクラブに、カトリーナとマルコが訪ねて来た。
タヒーンの人生が、ユージーンの人生が、少しずつ少しずつ、正しい方向へ進んでいく。
チェスマンの言葉に間違いはなかった。
お気に入り場面
小さいお気に入り場面はあるのですが、やはり実話であること、そして俳優陣の演技が好きです。
ちょっとだけピックアップしてみました😊
♖♖♖
ユージーンとクリフトンが教室でにらみ合う場面。
キューバ・グッディン・ジュニアの表情が大好きです。
♖♖♖
チェスクラブを訪れたミス・キングが、ユージーンに向って、
「あなたを誇りに思うわよ」
と言うシーン。
ミス・キングを演じる、リサ・ゲイ・ハミルトン(Lisa Gay Hamilton)の演技に胸が熱くなる。
♖♖♖
タヒーンが敗れた時に、母親の拍手が会場に響き渡る場面。
毎回、泣けます。
ドラッグ中毒でボロボロになった母親役を演じる、ポーラ・ジャイ・パーカー(Paula Jai Parker)に拍手です。
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試合終了後、アメリカチャンピオンのJ.トーマスが、
「初めて怖いと思ったよ」
とタヒーンのプレイを賞賛する場面。
黒人選手と握手を交わさない選手もいる中、J.トーマスの言葉は嬉しかった。
♖♖♖
試合に臨むタヒーンに向って、受付の男性が、
「グッドラック」
と声をかける。
黒白のチェックの帽子をかぶったその人物こそ、ユージン・ブラウン本人でーす。
キューバ・グッディン・ジュニア
キューバ・グッディン・ジュニアは、シリアスな映画も出ているけれど、童顔のせいか、ザ・ファイティング・テンプテーションズ(The Fighting Temptations)や、ジェリー・マグアイア(Jerry Maguire)など、コメディの印象が強かった。
年齢を重ねて、この映画で見せる彼の演技が大好きです。
マルコム・メイズ
やはり、この映画の一等賞はタヒーン役を演じたマルコム・メイズ(Malcolm Mays)だ。
当時23歳だった彼は、誰も信用しない、希望を持たない、そして誰にも心を開かない、タヒーンの心の闇、底知れない暗さを見事に演じた。
マルコム・メイズが育ったのは、ギャングの巣窟、LAのサウスセントラルだ。
彼が一緒に育った子供たちのほとんどは、すでに亡くなっている。
彼にはタヒーンの闇が理解できた。
ちなみに彼のおじさんは、ギャングメンバー”Crips(クリップス)”の創始者、スタンリー”トゥーキー”ウィリアムズ(Stanley ”Tookie”Williams)だ。
おじさんはCripsだけれど、彼が育った場所は、Cripsと対抗するBloods(ブラッズ)のテリトリーだった。
Bloodsのリーダーは、父親のいない彼を可愛がってくれた。
彼のメンターだ。
現在彼は、俳優やラッパーとしてはもちろん、ディレクターやプロデューサーとしても活躍している。
Cripsの血を持ち、Bloodsに育てられた彼には壁がない。
ビジネスパートナーは、彼のパッションに共感し、彼を「人」としてリスペクトしてくれる、様々な人種の若者たちだ。
彼が作る作品には、メッセージがある。
今後が楽しみな俳優、アーティストです。
ユージーン・ブラウン
ユージーンが設立した、非営利団体「Big Chair Chess Club」は、その後7つの学校とパートナーシップを結んだ。
都市トーナメントでタイトルを獲得し、ナショナルチャンピオンシップに出場するなど、その活躍が認められ、ワシントンDCは6月15日を「The Big Chair Chess Club Day」に制定した。
現在クラブは、DCから、ユージーンがワイフと共に暮らすノースキャロライナ州に移転した。
ユージーンは現在闘病中でお休みしているけれど、各学校やコミュニティで講演を行い、子供たちに、行動に移す前に、次のことを考える大切さを伝え続けている。
この映画は・・・
犯罪歴を持つ人間が、再び犯罪に関わらずに生きていく難しさや、インナーシティの現実を理解できる映画です。
そして、子供たちをナヴィゲートする大人の存在の重要性に気付かされる。
私は大好きで、5回以上は観ているけれど、この映画の公開は、国内でしか公開されていない。
評価もそれほど高くない。
けれども、実話は心に響きます。
機会があれば観て欲しい映画でーす😊
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