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天罰は続く。痒いよ~

 8月のはじめだ。ものすごい汗疹ができた。ぎっくり腰予防のために、タンクトップの上に、腰痛ベルトをし、その上に制服のポロシャツを着て、仕事をしていた。日本ほどではないけれど、しばらく暑い日が続いた。しかも、キッチンには冷房がない。朝6時半から、午後2時半まで、ほぼノンストップだ。気が付かなかったけれど、体は蒸れていたのだろう。ある日、ちょうどタンクトップの下あたりに、胸から腹にかけて、ドバーッと汗疹ができた。子供みたい。
 仕方がない。まずは汗疹を治そう。腰痛ベルトをあきらめて、ポロシャツ1枚になる。お友達のドクターにも相談した。ワインとギターとフランスを愛する彼は、ホメオパシーや漢方に詳しい。かれこれ25年以上の付き合いだ。アメリカで極力、病院へ行きたくない私にとって、彼は心の支えだ。
「先生、出世払いで!」
 こう言い続けて、未だにご馳走になり続けている。そろそろ出世してもいい頃だ。
 話は戻る。彼が紹介してくれた漢方やお茶の中から、アメリカでも入手可能なドクダミ茶をオーダーする。ドクダミ茶の到着を待ちながら、清潔を心がける。ところが、この汗疹が全然治らない。治るどころか、広がっている。インターネットでは、2週間ほどで治ると書かれていたのに、えらい時間がかかる。
 改めて、調べてみる。なるほど、見た目は、汗疹ではなく、汗かぶれだ。さらなる清潔を心掛け、せっせとシャワーを浴び、完治を目指す。残念ながら、治る気配はない。こりゃいかん。市販のかゆみ止めを購入する。
 ・・・悪化した。
 もしかして、とびひ?・・・いやいや、痒いけど掻いてないし、とびひの要素はない・・・と思う。とはいえ、感染性のものだったら大変だ。真面目に治さなきゃ。夜も遅かったので、インターネット上の「ヴァーチャルドクター」に相談する。まず、写真を撮影して送信する。その写真を観たヴァーチャルドクターが、画面に登場する。
「これは真菌性皮膚炎っぽいね。薬を出しとくよ」
 ・・・真菌?カビ?水虫?凹みそう。とはいえ、原因がわかれば、あとは治すだけだ。翌日、処方された飲み薬を摂取する。けれども、なんだか効いている感じがしない。友人に、ヴァーチャルドクターの診断と、処方された薬を報告する。
「リスクが大きすぎる」
 なるほど、診断が間違っている可能性もある。薬の摂取はやめて、ドクダミ茶の到着を待つことにした。

 ところが、ドクダミ茶の到着を前に、暢気でいられる限界がやってきた。痒すぎる!気持ち悪すぎる!湿疹は、体幹にぐんぐん広がるだけではなく、サイズもどんどん大きくなる。
 醜いぞー!
 仕事の合い間に、数件の皮膚科に電話をする。残念ながら、ここはアメリカだ。当日、予約なしで行けるような病院はない。ここ数年、病院にすら行っていないので、主治医もいない。一番早い予約で、10月半ばだ。
 仕方がない。私の保険で行けるクリニックを紹介してもらう。
「受付で、キャンセルが出るまで待っとく以外ないね。キャンセルが出ないこともあるけど」
 こう言われた。う~ん・・・キャンセルが出なければ、数時間を無駄にすることになる。とはいえ、10月までは待てない。

 1時間早く仕事を終え、クリニックへ向かう。家の近所だな、とは思っていたけれど、到着したら、道を挟んだ反対側にある病院だった。存在は知っていたけれど、クリニックを想像していたので、まったく思いつかなかった。
 中に入ると、ものすごい人だ。これじゃ、キャンセルは出そうにない。とりあえず、受付へ行って、手続きをする。家待機が可能かどうか聞こうと思ったら、
「ここで、待ち続けてください」
 受付のヒスパニックのお姉ちゃんに、釘を刺された。仕方がない。椅子に座り、本を取り出したところで、私を呼ぶ声が聞こえた。
「ユミコ~!!!」
 顔をあげると、受付の彼女が、満面の笑みで手を振っている。キャンセルが出たようだ。

 診察室に現れた、美しい、白人のショート先生は、私の体を見ると、
「私には、ピティライシス・ロージア(Pitiriasis rosia)に見えるわね。念のために、もうひとりの先生の意見も聞いてみましょう」
 こう言って、隣の部屋から、アジア人のおじさんドクターを連れて来た。おじさんドクターは、私の体を見て、ショート先生に言った。
「私から見ても、ピティライシス・ロージアに見えるね」
 
 ピティライシス・ロージアは、日本名「ジベルバラ色粃糠疹」だ。原因は不明、治療は不要。数か月すると勝手に完治するらしい。再発の心配もなし。とはいえ、見た目がめちゃめちゃ怖い。醜い。勇気のある人は、調べてみてください。とっても気持ち悪いです。
 色々調べていると、症状は様々。痒みのある人もいれば、ない人もいる。数週間で治る人もいれば、完全に跡が消えるまでに1年以上かかる人もいるらしい。
 けれども、この病気になった人の多くは、同じ不安を抱える羽目になる。
「本当にジベルバラ色粃糠疹?」
「本当に治るの?」
「このまま、体中に広がるんじゃないの?」
「診断ミスじゃないの?」
 こう考えてしまうほど、一向に治る気配がない。

 あまりよろしくないことや、思うようにいかないことは多々ある。そういう時は、天罰だと潔く受け入れている。5年で帰国すると言って、アメリカに住みついていることもひとつ。両親に黙って結婚したこともひとつ。あんなことも、こんなことも、思い浮かぶことはいくつかある。
 今回のジベルバラ色粃糠疹も、醜い体も、天罰と受け入れて、文句を言わずに仕事へ行く。けれども、帰宅したら、さらなる試練が待っている。ダンナはばい菌恐怖症、ウィルス恐怖症だ。

 なんで、私より不安で、不幸やねんーーー!?

 自分の行いに対する罰は、潔く受け入れようと思うけれど、ダンナからばい菌として扱われ、罰を与えられる覚えはない!毎日のことなので、ばい菌ライフにも疲れてくる。イライラも爆発する。
「腰痛にはなるし、白髪は増えるし、ぶつぶつはできるし。真面目に仕事へ行ってる私が、なんでこんな目に遭わなあかんねん!」
「さぁな。わからんわ」

 くっそーーーーーーーー!!!

 
と思ったけれど、「わからんわ」という返事が、あまりにも静かだったので、ふと思った。
「なんで、俺らだけ、こんな目に遭わなあかんねん!」
 黒人は、ずーっと、こう思いながら、生きてるんだろうなぁ。
 彼らと比べたら、ブツブツの方がマシだ。シリアスな病気じゃないし、仕事にも行けるし、そのうち治るし。冷静になると、それほど悪くない天罰だ。潔く、受け入れよう。痒いよ~。

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