【シリーズ第4回:36歳でアメリカへ移住した女の話】
このストーリーは、
「音楽が暮らしに溶け込んだ町で暮らした~い!!」
と言って、36歳でシカゴへ移り住んだ女の話だ。
前回の話はこちら↓
エッセンス・ミュージック・フェスティヴァル
歩くブラックミュージック図鑑のような友人や、黒人ビックアーティストと仲良くなる才能を持つ友達のおかげで、ひとりでは絶対に見つけられないライヴやコンサートに連れて行ってもらえた。
ソウルバーで出会う人は皆、ソウルミュージックに詳しい人ばかりだった。
画面のモニターから、ソウル・トレインのビデオが流れると、
「あ~、この映像は、1975年前後だよね~」
と、日本では放送されていない番組の年代までわかる人たちである。
レコードがかかると、英語のタイトル、歌詞、アーティストや曲の歴史、なんならコンポーザーや、バンドのメンバーまで知っている人たちだ。
「すっご~い・・・」
と感心するばかり。
感心はするけれど、私は相変わらず、
「気持ちいい~」
と感じるだけで大満足してしまい、次のステップに進まない。
作詞作曲、バンドのメンバーが誰なのか?という欲求に至らないのである。
ソウルを追求する方々からすると、実に不真面目なリスナーだ。
そんな不真面目な私がである。
1998年7月、アメリカ南部のニューオーリンズで開催される、アメリカ最大の音楽の祭典、「エッセンス・ミュージック・フェスティヴァル」へ来てしまった。
音楽に詳しい彼らに、連れてきていただいた、という方が正しい。
このフェスティバルは、エッセンス・マガジンの出版25周年を記念して行われたイヴェントだ。
このマガジンは、アフリカンアメリカンの女性をターゲットにている。
当初の予定では、一度限りのイヴェントだったけれど、2020年と2021年をのぞいて、毎年行われている。
週末の3日間、大御所アーティストから若手アーティストまで、素晴らしい黒人シンガー、ミュージシャンが、スーパードームに集まり、パフォーマンスをする。
↓ は、2018年のラインナップの宣伝だ。
ちなみに、ここに出てくるアーティストはほんの一部である。
実際には、週末の3日間で、40組近いアーティストがパフォーマンスをする。
まず、フィールドがある場所には、メインステージが設置される。
1日に3ショウが行われたと記憶する。
ここでは、アース・ウィンド&ファイアー、プリンス、ビヨンセのようなビッグアーティスト、売れっ子アーティストがパフォーマンスをする。
そして観客席の外側をぐるりと囲む通路、通常はポップコーンなどの売店がある場所にも、ラウンジと呼ばれるステージが設置される。
しかも4ステージ。
ラウンジでは、私にとっては十分ビッグアーティストだけれど、メインステージのパフォーマーに比べると、コンサートのチケットも低価格のアーティストが出演する。
メインステージがコンサートなら、ラウンジはライヴという感じかな。
ステージと観客との距離も近い。
ラウンジの各ステージで、1時間のショウが、ひと晩に3つ・・・4つだったかな?ちょっと自信がない。
4ステージで同時に演奏が始まるので、見たいステージが2つあった場合は、1つのステージを30分見た後、猛ダッシュで次のステージへ移動する。
3つ以上の場合は、泣く泣くどれかをあきらめる羽目になる。
2日間出演するアーティストもいるけれど、全員がそうだとは限らない。
このように、スーパードームでは、一晩に15近いコンサートが、3夜連続開催される。
しかも、ただのコンサートではない。
15組のアーティストのうち、半分も観れるか観れないか・・・という拷問のようなコンサートだ。
メインステージで記憶に残っているのは、ルーサー・ヴァンドロス、メイズ・フューチャーリング・フランキー・ビヴァリー、ザ・ウィスパーズ、ザ・オージェイズも良かったなぁ。
それでも、私はラウンジが好きだったかな。
ブルー・マジック、アヴェレージ・ホワイト・バンド、ソロモン・バーク、タワー・オヴ・パワー、ザ・デルズ、ボビー・ブルー・ブランド、エタ・ジェイムズを間近で見ることができた。
ボビー・ブルー・ブランドに握手をしてもらったのは、このときだ。
コンサートは午後7時から夜中の12時まで続く。
しかし、フェスティヴァルの3日間は、日中も様々なイヴェントが開催されている。
私は行ったことないけれど、ダウンタウンのコンヴェンションセンターでは、様々な展示会、フィルム・フェスティヴァル、セレブリティを招いてインタヴュー、活動家のフォーラムや健康セミナー、そして黒人シェフによるライヴクッキングも開かれている。
マニアによると、ものすごい数のイヴェントが開催されているので、すべてに参加することは絶対不可能!現地に着く前に、綿密な計画を立てる必要がある!ということだ。
会場ではローカルのミュージシャンや、高校のブラスバンドが演奏し、展示会の袋をぶらさげた観光客がリズムに合わせて踊っている。
この週末の3日間、町には音楽があふれている。
個人的には、黒人のファッションを見るのも楽しみだった。
赤、青、黄、オレンジ、緑など、目が覚めるような明るい色のスーツに、同じ色の帽子と靴を合わせて、本当にカッコいい。
女性は美容院で髪をセットして、ドレスに合わせて、バッグや靴をトータルコーディネート。
このスペシャルな日に、みんな精一杯おしゃれをする。
ムチムチのおばさんが、シースルーのワンピースを着て、軽やかに踊っている姿は、とっても素敵だった。
この頃は、黒人の歴史はもちろん、現在も続いている人種差別のことなど、ほとんど理解していなかったので、
「豪華!贅沢!わ~い!」
というイヴェントだと思っていた。
今は、彼ら黒人にとって、このイヴェントは、彼らの誇りだと理解している。
このイヴェントは、彼らにしかクリエイトできない。
だから、1回だけのイヴェントで終わらなかったのかな。
このイヴェントを続けることにより、彼らの才能、パワー、カルチャーを多くの人に示すことができる。
7月の第一週の週末、ニューオーリンズのスーパードームに全国から黒人がやってくる。
その数は、年々増えている。
観るためではなく、このイヴェントに参加するためだ。
今さらながら、彼らの才能とパワーに感動している。
このフェスティヴァルには5回くらい行ったと思う。
彼らのカルチャー、タレント、ヒストリーを祝う、この素晴らしいイヴェントに行けたこと、その瞬間を体験できたことは、私にとって人生の宝物なのだ。