映画:Sweetwater
2023年4月にリリースされた映画、ナット”スウィートウォーター”クリフトンの伝記です。
スウィートウォーターは、NBA(ナショナル・バスケットボール・アソシエーション)と契約をした、最初の黒人選手だ。
白人オンリーのNBAに、黒人のスウィートを迎えるため、ニューヨーク・ニックスCEO(最高経営責任者)のネッド・アイリッシュ、コーチで元NBAプレイヤーのジョー・ラプチックが立ち上がる。
NBAの人種の壁が破られる、歴史が変わる瞬間を描いた映画。
あらすじ
スウィートウォーター(本名:クリフトン・ナザニエル)は、1922年アーカンソー州で誕生した。
スウィートウォーターというニックネイムの由来は、子供の頃にママが作ってくれた、彼のお気に入りのドリンク(砂糖水)だ。
彼が8歳の時、ママは息子の将来を考え、パパと共にシカゴへ移住させる。
「あなたはより崇高な目的を持って生まれてきたのよ」
ママは息子に言った。
彼はママの言葉を信じた。
自分はなにかを変えるために生まれてきた。
スウィートは、この国で生き抜くために、アスリートとしての才能を与えられた。
14インチ(35.56㎝)もある、彼の大きな手は、バスケットボールを自由自在に操ることができた。
高校時代から、バスケットボールのスター選手として活躍した彼は、黒人プロバスケットボールチームを経て、1947年からハーレム・グローブトロッターズでプレイする。
*1926年、ハーレム・グローブトロッターズは、シカゴのサウスサイドで誕生した、黒人だけのバスケットボール・エキシビジョンチームだ。
現在も存在し、世界各地で、年間2万6千エキシビジョンゲームを行う。
コメディ的な要素を含めたパフォーマンスをするけれど、その実力は本物だ。
1958年の映像⇩イメージが沸くと思う。
スウィートウォーターは、このチームのスター選手だ。
1949年、ハーレム・トロッターズは、プロバスケットボールのベストチーム、ミネアポリス・レイカーズに勝利した。
この勝利は、トロッターズの実力が、全米一であることを意味した。
NBAの白人選手に、彼らのようなプレイ、動き、ゲーム展開はできない。
トロッターズの集客率はNBA以上だった。
それにも関わらず、選手の日当は雀の涙だ。
チームの創設者、オーナーのエイブ・サパーステイン(白人)は、選手を乗せたバスを自ら運転し、全米ツアーをする。
ビジネスマンのエイブは、黒人がNBAでプレイできないことを知っている。
バスケットボールで稼ぎたければ、トロッターズにいるしかない。
エイブは、彼の決めたゲームプランを実行するために、敵チーム(白人)に金を払う。
それは、黒人選手に与える日当よりも高かった。
そして、エイブがいくら稼いでいるかは、誰にもわからない。
この事実にスウィートが気付いた。
同じ頃、ニューヨーク・ニックスは、スウィート獲得のために動いていた。
コーチのジョーに説得された、CEOのネッドは、NBAのミーティングで、黒人選手採用を提案する。
ジョーの目的は人種統合だけではなかった。
スウィート入団により、これまでになかったパフォーマンス、ゲーム展開をNBAに導入できる。
NBAを変えることができる!
反対意見もあったけれど、黒人獲得を望むチームもあった。
NBAコミッショナーのモーリス・ポドロフも、人種統合にポジティヴだ。
集客率、興行収入の向上も魅力的だ。
ネッドは、各チームに1人の黒人選手採用を提案した。
こうして1950年、NBAに3人の黒人選手が入団した。
ニックスのスウィートウォーターに続き、ワシントン・キャピトルズはアール・ロイド、ボストン・セルティックスは、チャック・クーパーを獲得した。
けれども時代は1950年だ。
スウィートを襲ったり、ネッドやジョーを脅す輩もいた。
初ゲームでは、彼のパフォーマンスに対し、審判がことごとくファウルの判定を出した。
これまで見たことのない動きを、審判は受け入れない。
得点差は広がるばかりだ。
ジョーはスウィートに、派手なパフォーマンスを控えて、バスケットボールの基本の動きを重視した、勝つ試合を求めた。
けれども、それはスウィートのゲームではない。
「ジョー、あなたはNBAを変えると言った。
その言葉を俺は信じたのに。
今も信じてるのに。
ゲームを変えると言ったのに。
俺のゲームはNBAにはふさわしくない。
俺のゲームはストリートにしか属さない。
NBAは俺のいるところじゃない」
スウィートの言葉を聞いたネッドが言う。
「あーあ、エイブから1万2千5百ドルを返してもらえるかなぁ・・・」
ネッドがスウィート獲得のために、エイブに支払った金額だ。
「俺のために、1万2千5百ドルも払ったん!?!?」
「これは金の問題じゃないんだよ」
ネッドが言った。
高校時代の記憶がよみがえる。
「今回のようなパフォーマンスは二度とするな!
素晴らしいとわかっていても、君が今日したこと、君の派手なパフォーマンスは、誰も受け入れられない。嫌いなんや!
・・・でもな、皆が批判をやめた時、君に対する誤解が解けたとき、その時が来たら、世間は君のしていることを見てくれるぞ」
コートに戻ったスウィートは、観客や審判が知っているバスケットボールをする。
得点を2点差まで挽回する。
最後の10秒、観客がカウントダウンをはじめた。
パスが出せないスウィートは、自らガードをやぶり、ダンクシュートをする。
逆転勝利と、彼の美しいパフォーマンスに、会場にいるすべての人々が拍手を送った。
お気に入り場面
🏀エイブが、ネッドから金を受け取り、スウィートをNBAに譲る場面。
「2千5百ドルの月給をスウィートにあげてくれ。それが最後の俺からの要求や・・・
NBAが、彼の素晴らしさを理解できるだけの十分な時間を、彼に与えてくれ。
そのために、スウィートのために、NBAと戦ってくれ」
選手を安い日給で使っていたエイブだけれど、悪人という印象はなかった。
最後のこの言葉で、エイブの選手に対する思いやりが感じられて、ちょっぴり嬉しかった。
🏀同じく、エイブがスウィートを譲る場面。
エイブが自分のアイデアをネッドに話す
「もしも、すごい離れた場所から、普通では考えられないくらい遠い場所からシュートをしたら、選手は2ポイント以上を獲得するべきやん。
その選手は”3ポイントシューター”て呼ばれるねん。
どう思う?」
1961年、エイブはアメリカン・バスケットボール・アソシエーションに3ポイント制を導入した。
NBAに続き、国際ルールで3ポイントが認められたのは1985年だ。
3ポイントの導入により、背の低い選手も活躍できる可能性が広がり、ゲームがさらに盛り上がるようになった。
歴史を感じるエイブの言葉に感動です。
🏀NBAのミーティングの場面。
「なんでスウィートウォーターに、そこまでこだわるねん!」
「彼は俺たちのために戦ったんだよ」
スウィートは大学卒業後、3年間軍に入隊し、第二次世界大戦で、アメリカのために戦った。
この事実を聞いて、黒人入団に反対していたCEOが口を閉ざした。
黒人の多くは、彼らと、彼ら子孫の自由と平等のために、戦争で戦った。
命を懸けて戦ったことが、報われたような気がして、ジーンとした。
🏀2人の白人の男が、クラブから出て来たスウィートを襲った時、クラブのキッチンで働く白人のおじいさんが、
「お前ら、ケダモノか!」
と叫んで、彼を助ける場面。
スウィートとは顔見知りのおじいさんだけれど、こういう風に助けてくれる人がいたことが嬉しい。
🏀スウィートに体当たりしたり、嫌がらせをするプレイヤーがフリースローをする場面。
彼の横に立つスウィートが、囁きかける。
「失敗するはずないよな・・・。フリーやで・・・」
・・・大好きです。
🏀マディソンスクエアガーデンの警備員が、NBAでの初ゲームの後、スウィートに、
「いい試合だったね」
と声をかける場面。
毎日顔を合わせていても、これまで一度も声をかけなかった警備員だ。
NBAに入る前から声をかけろ!と思うけれど、やっぱり嬉しい。
キャスト
エヴァレット・オズボーン
主役のスウィートウォーターを演じた彼は、プロのバスケットボールプレイヤーとして、数年間、ヨーロッパで活躍した経歴がある。
俳優業は4歳の頃からしているだけあり、甘いマスクでとってもカッコいい。
今回の役にピッタリだった。
ゲイリー・クラーク・ジュニア
ブルースギターリスト、”Tボーン・ウォーカー”役で出演している。
なんてことはないけれど、好きなアーティストなので嬉しかった。
エメリン
白人女性シンガーのジェーン・ステイプル役。
彼女のソウルフルなブルースを聞いたスウィートが、Tボーンに紹介し、ツアーに参加できることになる。
彼女は黒人のフィールドで、スウィートウォーターは白人のフィールドで勝負をする。
互いの成功を願う、同志のような関係・・・と思っている。
役がどうこうよりも、歌が素敵だったので聞いて欲しい。
彼女の初EPです⇩
ナット”スウィートウォーター”クリフトン
1950年、ニューヨーク・ニックス入団の年、チームはファイナルのゲーム7まで進んだ。
すでに27歳だった彼は、ニックスで7年間、デトロイト・ピストンズで1年間、計8シーズン戦い、引退した。
1957年のオールスターゲームでは、23分間で8ポイントを獲得した。
引退後、67歳で亡くなるまで、シカゴでタクシードライバーをして暮らした。
この映画は、スウィートが運転するタクシーに、スポーツライターの男が乗車する場面から始まる。
乗客をオヘア空港に送り届けるまでの時間、スウィートが、彼の人生を回想し、乗客に話をしているという設定だ。
現在活躍する黒人プレイヤーのために、NBAの扉を開くことに貢献した、スウィートウォーターの素晴らしいプレイはこちら⇩
この映画は・・・
ジョー役のジェレミー・ピヴェン、エイブ役のケヴィン・ポラック、ネッド役のケイリー・エルウィスなど、サポーティング・アクターが良い。
スウィートウォーターやネッドが襲われる場面もあるけれど、黒人に好意的な人の方が多かった。
この時代の黒人を描く映画にしては、とってもマイルドです。
彼らがNBAに入るまでに、もっと様々なトラブルがあったはずだけれど、2時間の映画で収まらなかった感じがする。
ジェーンをTボーン・ウォーカーがプレイするクラブへ連れて行く場面など、黒人のクラブの雰囲気も感じられて良かったけれど、特に広がりもないので、この場面はいらなかったかも・・・と思わないでもない。
実話というだけでオッケーだけど、もう少し踏み込んで欲しかった。
ちょーっと満足しきれない映画だった。
スウィートウォーターの伝記が本で出ているので、こちらも読んでみたい。
こちらは映画のトレイラー。なんだかんだ言ってもカッコいい。⇩