転職業界が持てはやされるのが気持ち悪すぎる
現在転職業界は大いに栄えているように見える。大量の広告をSNSに(youtubeとtwitterでは確認。恐らく他でも)出し、登録者キャンペーンやアンケート回答キャンペーンでかなりの額のお金を求職者にバラまいている。他にも新卒採用では一定の基準を満たした人への「就活準備金」や「就職祝い金」と称したものまでバラまいている。
なので転職予定者にとって今の社会は転職しやすいように見え、何となくでも登録する気持ちはわかる。SNSの広告も「今の職場に不満はないか」「登録しているのが当然」「自分の相場を知っておこう」と言って登録を促すよう勧めてくるのをよく目にする。
だが、これは欺瞞の上に成り立った商売であるように思う。そもそも構造が歪であるからだ。この業界が作る歪みと、それによって引き起こされる社会の問題について考えてみたいと思う。
転職業界の歪みの原点 求職者から手数料を原則取ってはいけない
求人サイトを利用したことがある人は多いだろうが、意外と気にしていないポイントかもしれない。この点は実際に法律で決まっており、原則手数料の徴収はできない。理由としては職業選択の自由が挙げられているようだ。
転職サイトがどのような経緯で発達したのか知らないのでなぜこのルールがあるのかわからないが、ハローワークの流れでできたからだろうかと想像してはいる。取り敢えず、「民間でも転職サービスを行ってもよいが、求職者から金をとってはならない」ということになっている。この原則により、必然的に「求職者に非常に良い顔をするサービス」になる。利用料無料の上に、上に書いたように「逆にお金を出しますよ」とまで言っているのだから、どれだけいい顔をしているのかよく分かるものだ。しかしいくら転職屋が求職者に有利な条件を提示しても、求職者も回りまわって損をしている。
ここからはもう少し具体的にどういう構造になっているのかを書いていく。
企業側が大きな負担をしている
では転職サービス会社はどこから利益を得ているかというと、勿論もう一つの利用者である企業である。※1
※1 企業と労働者は対立しているとされがちだが、それはナンセンスな考えであるとここでは考える。何故なら企業に利益が出て初めて給料が出るというのが道理だからだ。「労働者から搾取している」企業も存在するだろうが、労働者と経営者が「契約」の意味を理解している合理的な会社であればそうではないだろう。
企業に利益が出て初めて給料に還元される。つまり転職サイトを用いて新たな会社に入社すると、その会社はかなりの額を損金としたことになる。※2
これは「会社が儲かっていない」方向に力を加えるので、「給料が上がりにくい」という意味で入社後の自分の首を絞めることになる。
※2転職サイトの相場は最低でも20万ほど、転職エージェントは転職者の年収の30~35%程度(数百万は使いそう)だそうだ。大手でなければナビ型のサイトで多く閲覧、応募があるとは考えられないため、エージェントを頼ることになるだろう。そうすると、転職者がそれだけの利益を出してくれるまで企業は損を返済することができず、返済前に退職されると大損である。まるで半年で別キャリアに乗り換えられる携帯キャリアのようだ。(あれは乗り換えを面倒がった客から多くとる事で結果的に成功しているのかもしれないが。あれはあれで残念なシステムだと思う)
また転職業界の羽振りの良さを冒頭で紹介したが、それを行ってもよいと経営判断を行うほど企業からお金を取っているのである。これは労働者の給料が上がらない一要因と言えるだろう。(なので「人材の流動性を高めて生産性を向上させ、国を盛り上げよう」という思想は絶対的に上手くいかないと考えている。何故なら転職業界という「摩擦産業」がその他企業の利益にフリーライドする形で業績をかすめ取るからである。企業の業績が上がらなければ給料が上がらないのは道理である)
マッチポンプ構造
転職屋はあたかも企業の味方かのように「貴社に合う優秀な人材を紹介します」とやってくる。(想像だがそう外れてないだろう)
しかし転職屋はそれと同時に「優秀な社員の皆さん、より良い給与の場所に転職しませんか?費用は一切必要ありません」という誘いもしてくる。彼らの儲けは「人材の流動」によって生じるため当然の営業ではあるのが、あまりにもマッチポンプではないだろうか。ある問題(人材不足)がありそれを解決するためにサービス会社(転職屋)を利用したら、サービス会社(転職屋)が次の問題(人材不足)を引き起こすのだ。
転職屋の利用者が消えない
転職屋を利用する企業が間抜けという話はあるが、現在はそれを利用しないともはや人材にアプローチできないのだろう。何故なら求職側は一切費用を要求されない「サービス満点」の転職屋に飛び込むからである。正直、買い占めて高く売るという手法が転売ヤーと同じ構造だと思う。ただし法規制により求職者から料金を取ることができないので、この手法に対抗する戦略が現れない。(求職者から後払いでお金を取る代わりに「条件のいい企業」を必死に探すエージェントなど)
よって、判断は労働者側に委ねられていることになるが、現状で仲介会社を利用しないで転職する人がどれくらいいるだろうか。
人材価値・職場の価値を保証をしない
結婚相談所やマッチングアプリもそうだが、人と人とをつなぐ人間紹介サービスは「自由競争」が常識となった現在では非常に需要の高い仕事である。何故なら自由な世界は非常に不安なので、少しでも「信用」を得たいと思い仲介者の存在するサービスを利用する。その一方、人間紹介サービスは需要が高すぎるため「どれほどサービスの質が低くても儲けが出る」という極悪な構造もある。
何なら、転職屋はもう一度転職をしてくれた方が儲かるのだから「わざと合わない会社を紹介するインセンティブがある」といえる。この状況で転職屋を利用しないといけない企業側に同情を禁じ得ない。その他のルートだと縁故採用になるのだが、これが使えるほど人脈を大切にする人はだいぶ減ってしまった印象だ。
もう一つの諸悪の根源
そもそもの話、自由競争という思想が悪いともいえる。この思想がなければ転職はこれほど繁栄しなかっただろう。
自由競争によりナビサイトでは上位数パーセントの企業に大量の求職が集まり、当然一企業の人事部門でその大量のエントリーシートを捌くのは不可能であり、学歴やテストで「足きり」を行う必要が出てくる。逆に、下位の企業はナビサイトでは殆ど見られないだろう。下位の会社では人事採用者がどれほど誠実に評価を行おうと思っていたとしても、人が来ないなら何もできない。「全てにおいて能力の高い人」以外誰も得をしていない。
なら「全てにおいて能力の高い人」以外は自由競争を否定すればいいとも言えるが、そうはならない。なぜ多くの人にとって不利で非効率な思想が称揚されるのかというと、ヒトは自分の能力を過大評価するように設計されているからだ。なので「自分ならば自由競争によりもう少し上のランクの企業に就職できるはず」と考えてしまう。
ヒトの特性が自由競争を推奨する
有名なものとしてダニングクルーガー曲線というものもある。簡単に説明しると、最初に知恵がついてきたときには大きな自信をつけるが、一定のところで先人の偉大さや自分の課題などを見つめることができるようになり、自信が大幅に失われる。それでも努力を続けると少しずつ努力の結果として「本物の自信」がついてくる、というものだ。
この曲線の極大値当たりの人物はさぞ「自由競争」に積極的に参加していくことだろう。何故なら自由競争で勝てる見込みがあると思っているからだ。そして理想の企業に出会えず、「自由競争」に身を置き続け、その人を採用した企業は転職業界にお金を払い続けることになる。転職屋にとって、バカは企業から何度でも金を掘り出すことのできる「頑丈なピッケル」といえる。
人はこの生物的な性質を理解し、自由競争に過剰に期待するのは止めるべきである。昔ながらの「伝手で紹介する」、「研究室推薦」とかをやっていた時代の方が採用費用は圧倒的に低かったはずだ。ここで費用削減をできるなら、今よりも本業で売り上げを出さなくても利益が出ることになる。これは現代社会が過去に比べて技術発展したにもかかわらず生活が豊かにならない理由の一つであると思われる。
解決策
エージェントを通さず会社のサイトに赴き、直接求人情報を調べる
エージェントの費用は(上の相場を参考に年収の33%と考えて)年収300万円でも100万円となる(年収が上がれば当然もっと高くなる)のだから、これを通さずに転職すれば企業はお金に猶予を持つことができる。大体の企業のホームページには採用のコーナーがある。ここから直に応募してしまえば企業がエージェントにお金を払う必要が無くなり、回りまわって自分の為になる。人不足と言われる時代であるため、邪険に扱われることは少ないのではないだろうか。企業を探すのにはナビサイトの力を借りるのもいいかもしれない。
企業の資金繰りが良くなれば業績が上向くかもしれない。(自分の価値のメタ認知がしっかりしていることが前提だが)エージェントを挟まないことで浮く費用を見積もり、それより少し低めのボーナスを交渉するのもいいかもしれない。
と、こんな案を考えてみたが、自分で試したわけでもないので、実行するときは自己責任でお願いします。
まとめ
転職屋は労働者には徹底的に甘い顔をするが味方ではなく、企業・労働者双方の利益を毟り取る敵でもある。
求職者に甘い顔をして買い占め、企業に高く売りつけることで儲けを出す転売ヤーのような性質がある。
エージェントの使用を控え、企業のホームページから採用ページに直接向かうべき。
自己評価が盛られてしまう本能と自由競争の思想により、無謀な競争に参加してしまい損をする人が多い。(転職に限らないことだが)
転職業界は、ある程度は仕事として存在していると有意義だろうが、今ほど膨れ上がっている現状は寧ろ社会を蝕んでいるといっても過言ではないだろう。
参考文献
「ヒトは自分の能力を過大評価するように設計されている」というのは橘玲著『バカと無知』ではそのあたりについて多くの具体例が引用されていた。
余談 OfferBoxについて
自分が就活に使ったOfferBoxという逆求人型のサービスがあるのだが、これは案外自由競争の煽りを受けにくく良いものに感じた。逆求人型ということで、企業から学生へのオファーがやってくる仕組みだ。オファーを貰うというのは人間嬉しいもなので、小さな企業も閲覧されやすいようだ。(オファー開封率89%らしい)
採用のプロが求職者側の評価をするのが前提であるため高望みによる勘違いも起きにくく、(少なくとも自分の経験では)過剰な競争は確認されなかった。
あいにくと新卒採用でしか使えないようだが、他にも逆求人型サービスはあるため、この時代にはあっているのではないかと感じた。それなりの量の文章を打ち込む必要があるため、求職者にはある程度のハードルがあるのがまた良いのではないだろうか。
一つだけケチをつけるとすれば、冒頭にあげたような「就職祝い金」を行っている事だ。OfferBoxは何一つ生産的な活動をしていないのだから、この金の原資は就職予定の企業から出ている計算になる。いうなれば「会社から1万円もらってきましたよ、うちのサービスはいいでしょう?」とやっているのと同義だ。アパホテルがQUOカード付宿泊プランを用意し、出張サラリーマンに選ばれていたのと同じ構図のずるさを感じてしまう。
まあ企業としても全く利益のない話ではない(採用プールの母数が増える)と考えられるので些細な問題かもしれない。
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