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夏から秋へ、琳派とめぐる季節の美【根津美術館】

根津美術館に行ってきました。ブランド店舗の立ち並ぶ青山表参道エリアの一角に位置しており、ハイセンスな気分になれるスポットです。手土産洋菓子の定番・ヨックモックの本店も近所にあります。

今回の企画展『夏と秋の美学 鈴木其一と伊年印の優品とともに』は、夏から秋への季節の変化を琳派の作品を交えて味わう試み。暑い夏もようやく過ぎ去り、秋らしい日々も増えてきた昨今の気分にぴったりですね。視覚で涼しさを感じたいと思います。


展覧会の概要

根津美術館は日時指定予約が基本。当日券もありますが、混み合っていると待たなくてはならないので、休日の午後などは予約を入れておくのが安心。

企画展はいつものように展示室1・2を使用。ホールと隣接する小部屋の展示室3は常設の仏像、上階の展示室4・5・6にもまとまった量の展示があるのでお見逃しなく。


夏と秋の美学 鈴木其一と伊年印の優品とともに

展示は「夏のおとずれ」「真夏の情趣」と題して夏らしい雰囲気の作品群からスタート。見どころは琳派代表である尾形光琳『夏草図屏風』。二曲一双、総金箔貼りのゴージャスな屏風は左右の画面が連続していて、左雙の左下から右雙の右上に向かってダイナミックに夏の花々が咲き乱れていきます。その線上以外はすっきりとした空白。光琳らしい華やかなデザインにうっとり。

『夏草図屏風』 尾形光琳 美術展ナビのレポートより。
https://artexhibition.jp/topics/news/20240913-AEJ2350573/


続く「夏から秋へ」には今回の目玉となる屏風二点が並んでいます。
初めて見る『夏秋草図屏風』、説明によると作者は『伊年印』。伊年印って誰? と確認すると、「伊年」という印が付いた一連の作品のことを表す名で、特定個人のことではないそうです。伊年は俵屋宗達の工房の屋号なので、俵屋工房で作りました、という意味みたい。
さて、この屏風は夏草と秋草を六曲一双で描き上げているもので、灰色の墨で描いた植物の上に淡く色を重ねて儚い美を表現しています。枯淡の雰囲気が見事で、腕の良い画家が音頭を取って作成したものなのでしょう。飾ってじっくり観たくなるような優品。

『夏秋草図屏風』伊年印 六曲一双の屏風
https://artexhibition.jp/topics/news/20240913-AEJ2350573/


もうひとつの主役は重文『夏秋渓流図屏風』、作者は鈴木其一
鈴木其一作品といえば、淡い色彩と理論派の気配をにじませる構図でまとめられた花鳥図だと思っていたので、原色を派手に広げたダイナミックな作品に驚きました。こういう方面の絵も描いたんですね…!

『夏秋渓流図屏風』鈴木其一、夏をあらわす右雙
同じく左雙では秋をあらわす。

山中の谷川を連続した画面で描き上げた六曲一双の屏風で、背景は明るい総金箔。川は深い青、地面は緑で塗りつぶし、杉の木の葉は一見のっぺり見えますが、近付いて拡大すると一枚一枚手書きしているのが分かる、手の凝った品です。
面白かったのは、屏風を山谷のジグザグに折って展示しているので、谷川の流れが平面状態よりもなお速く、ダイナミックな躍動感を感じさせたこと。千円札の肖像画部分を折って変顔作った人には分かりやすいかも。こんな効果も出せるのだと驚きました。屏風の折り方を変えて、どんな変化が見えるか確認してみたいですね。


涼秋の候」「秋の叢」では、清朝の宮廷画家・銭維城の手になる『秋草図巻』が美しい。約30cm幅の巻物に秋の植物を連ねたボタニカルアートで、一見すると日本の草花図とよく似ていますが、植物を斜めがちに描いたり、赤色へのこだわりが強いなど、少し違った雰囲気もあります。会場には中国の方も多く、この作品の前で盛り上がっていました。

『秋草図巻』銭維城
https://x.com/nezumuseum/status/1174178020413845504


企画展は二部屋30点の展示で終了。文化財もそうでないものも優品が多く、妙なる美しさ。さらりと眺めても十分に楽しめる展示でした。

さて、根津美術館はホールの仏教美術と上階の展示も楽しめます。現在、展示室5は「やきものにみる白の彩り」ということで、白磁や白釉で作った乳白色磁器を堪能できます。中国、朝鮮、日本へ――時代とともに場所とともに変化していく技法、土などを比べると面白い。そして単純に見た目がきれいでした。
展示室6はお茶道具と茶室を並べています。
展示室4はいつもの中国古代青銅器。饕餮とうてつ文見放題。どの作品も漢字が難しすぎて読めません! 古代青銅器ブックを読んで復習せねば。

おみやげに『秋草図巻』クリアファイルと琳派ミニブックを購入。根津美術館の企画展は毎度なぜか図録がないんですよね。それでも、琳派のコレクションを紹介した冊子で今回見た素敵な屏風は網羅出来るのでヨシ。

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