浅草ロック座体験記 2023年6月

 ストリップショーの殿堂こと浅草ロック座に行って来た。観て来た。凄かった!
 これはフォロワーさんに連れられて未知の世界を覗き込んだオタクの体験レポートです。note初投稿。六千字オーバー、やや長め。公演の感想のみ見たい方は2023年6月講演 REBIRTHをご覧ください。


前置き

 正直なところ「ストリップ」という言葉に対してあまり良いイメージは持っていなかったのです。ストリップショーと聞くと「ああ、あの繁華街の裏手にある怪しげな店の……舞台の上でお客さんと●●が始まっちゃういかがわしいやつ」と思っていたものでした。一応弁解しておくと、現実に私の生活圏内にはそんな店(改めて確認してみるとストリップ劇場の看板すらない。本当に何の店なんだろう)が存在しており、時折警察が立ち入って閉鎖されたりするもので、まぁ環境が悪かったのですが。
 いっぽうで、世界には芸術的なヌードショーがあることも知っていました。実見の経験はありませんが、パリはシャンゼリゼ通りにあるという名店クレイジーホースのショーには大変興味がありますし、ロンドンのストリップは脱がないという話も聞いたことがありました。それでも、似たショーが日本にあるとは考えてもみなかったのです。

 さて、そんな私の認識を変えたのは、Twitterのフォロワーさん方によるストリップ劇場レポートでした。どうもこれは思っているのと違う。サブカルに詳しく、審美眼に信頼がおける方々が絶賛しているのだから、本当に面白いのかも知れない……。というわけでホイホイと認識を改めて、フォロワーさんの好意に甘え、かくして浅草ロック座ストリップショーなるものに案内して頂いた次第です。
 前置きが長くなりました。それでは、体験レポートをどうぞ。

浅草ロック座にゆく

 現地を訪れたのは本格的な酷暑が始まる前、六月の少し汗ばむ陽気な午後。
 浅草ロック座は浅草観光の中心・雷門通りより西側に位置する。最寄り駅はなぜかつくばエクスプレスの浅草駅。周辺は複雑な角度をなして混じり合う道、江戸の下町風情を演出する和風の建物、観光客目当てのNIPPONなお土産の数々、人力車が行き交い、オープンスペースで日も高いうちから乾杯している一団、…とたいへんに賑やか。その一角、ちょっぴり古めかしいバブル風の装飾のある建物が目的地だ。

 ビルの看板には昭和レトロを感じさせるフォントで「ファッションヌードショー」とある。なるほど、確かにファッション+ヌードのショーではあるなと妙に納得。
 ファンからのバルーンアートの数々で飾られた入口を目指し、大勢の人間が押しかけていた。100名を超えるだろうか。ストリップショーの主要観客層は中年男性だと思っていたが、実際に来ていたのはバリエーション豊かな人々だった。男女比は75:25ぐらいで、思ったより女性が多い。年齢も十八歳の階段を上がったばかりと思える若者から、この道二十年オーバーのベテラン観客まで、まさに老若男女。観光客なのか一見さん風の人も多いが、ちょっと見に来たご町内の人的な顔ぶれまで十人十色。地元に愛されている劇場と聞いてはいたが、なるほど、本当に馴染んでいるのやも。

 同行してくれたフォロワーさんに観劇のルールをレクチャー頂く。曰く、

  • カメラのついているもの(スマホとか)を出すのはNG。時間確認は腕時計で。

  • 途中退席可能だが、暗いので足元注意

  • 何かあればスタッフに相談すること。

 中には素性を隠して出演している人もいるストリップショーの性質上、スマホを取り出すと映画館とは比べ物にならないぐらい厳重に取り締まられるらしい。そして館内には熱烈なファンが大勢押しかけている。ここは一種の聖地、大人しくルールに従って観劇しよう。

 さて、ビルの入口には各出演者のためのフラワースタンドならぬバルーンスタンドが並んでいる。すわんさんという演者のために白鳥を模したバルーンが飾られていて、ちょっと愛を感じる。全体のつくりや色はギランギラン。こういう雰囲気は夜の歓楽街っぽいなと思う。
 正面入口は狭く、建物の中に入るとすぐに階段。密集した人の列に並んで、前の人に追突しないよう気を付けながら上っていく。二階の入口にはガラスケースで覆われた初代浅草ロック座の模型が置かれている。戦後すぐのものなのだろうか。闇市の香りが漂う。
 係員のチェックを受けドアをくぐれば、あまり広くはない空間に立ち並ぶ背の高い円形テーブル、壁やテーブルにもたれかかる男性陣、奥には軽食のスタンド。いかにも劇場ロビーといった雰囲気。結構混み合っており、人の間をすり抜けるようにしてホールに入った。
 ホールは奥にメインの舞台があり、そこから中央へ一本道が伸びている。客席に半島のようにせりだした円形の小舞台はストリップの最後、ポーズを取る時に使うのだそうな。全部で120席程度あるらしいが、我々が入った時にはほぼ満席。今回は立ち見にしようということになった。ずっと立ち続けるのは少しばかり辛いが、舞台全体が良く見えるのでこれはこれで悪くなさそう。

2023年6月講演 REBIRTH

 この月の公演テーマはREBIRTH、つまり新生。ファン投票を行い、人気が高かった過去公演の舞台を詰め合わせたベストアルバムというような位置付けのものらしい。
 以下では個別の舞台について感想を書いていく。

一景 「ハートの女王」 橋下まこ

 開幕と共に鳴り響く軽快なBGM。舞台上を女性陣がハイヒールで跳ねる、はねるのポップダンス。こりゃ凄い。ヒールで踊るのは見かけ以上に難易度が高く、特に飛び跳ねるのは鍛えていないと出来ない。ぐらつく足元を支えるバランス感覚がないとこなせるものじゃない。
 ショーのテーマは「不思議の国のアリス」よりハートの女王とのこと。バックダンサーがトランプ兵に扮して派手に立ち回る。女王様はディズニー版のイメージよりも大分可愛らしく、コケティッシュ。尊大でありながらもキュートに観客を煽る。
 ストリップショーはストリップをしなくてはならない、つまり最初は着衣。そんな当たり前のことを今更ながらに実感する。着衣状態のダンスはかなり長く、クオリティにも妥協がない。
 踊る姿を見ていると、舞台上の彼女たちは素人ではなくプロだと感じる。ヒールで踏むステップ、移動と回転を挟んでの激しい動き、柔軟な立ち回りは一朝一夕で出来るものじゃない。

 さて、最初の踊りが終わると、次は脱ぎのターン。いかにもといったピンク色のムーディーなベッドが登場、その上でくねりながら脱いでいく。ストッキングを脱いで噛んでみせたりと煽情的な演出。ははぁ、エロだな!と思うものの胸焼けはしない。たぶん、あくまで演技としてのエロであって、実物の生っぽさがないからじゃないかな。大人の見る夢のようななにか。

 概ね脱ぎ終わると第三パート。自動回転する会場中央の円形部分でくるくる回りながら、局部まで見える大胆なポーズで観客を挑発していく。一応、一糸まとわぬ~ではなく、セクシーランジェリーを申し訳程度に引っ掛けている。余計エロいわ。
 観客の手拍子が響き、ファンの方がリボンを器用に操って盛り上げるなか、くねくねとポーズを変えて肢体を見せつけるダンサーさん。セクシーだしエロくはあるのだが、スラリと細い足を筋肉がしっかりと支えているのに気付くとそっちが気になってしまう。ややふくよかだが、アスリートの如きムキムキの筋肉。
 最初の舞台からして、今までストリップショーに対して抱いていたイメージが崩れてしまった。ちなみに全体を通してみると、この人の踊りが一番らしいエロスだった気がしなくもない。

二景 「酒呑童子」 白鳥すわん

 不思議の国のアリスをイメージした前作から打って変わり、今度は和風テイストからスタート。髪を振り乱した鬼が現れ、そこへ武人たちが駆け込んでくる。入り乱れる妖と武士。鬼は強力で緊迫した戦いが続くが、多対一では難しかったらしい。次第に追い詰められた鬼がついに討ち取られる。その一連の場面を殺陣で表現している。演劇としてもレベルの高い演出。前回公演時の設定を知らないので、最初のうち鬼は茨木童子、武人は渡邊綱かと思ったが、どうも酒呑童子の方らしい。となると、相対した美人は源頼光か。

 衣を落とすように脱いでいくストリップ、これも凄かった。深手を負った瀕死の鬼がのたうち回りながら過去を回想する断末魔の姿を不安定な足取りの舞で表現している。表情はひたすら悲痛で、己が幼少の頃に人の手で育てられていたことを思い返しているのか、狂おしい憧憬に溺れるようにもがく。
 確かに脱いでいってはいる。けれど、自分が何を見ているのか分からなくなった。フォロワーさんのレポートから予想していたとはいえ、思っていたストリップとは全然違っている。奥の深い世界だ…。

 円形舞台でのポージングは圧巻の一言。目を見開いて床に転がり、断末魔の苦しみにのたうち回る様子を表現している。背を最大限に反らせてのブリッジなど、むき出しの胸が大胆に晒されているのだが、どうしてもホラー作品にしか見えない。これ、エロ目的で来た人は怒るんじゃないだろうか。自分は表現の面白さに感動した。
 全演目を通して、これが一番好きかもしれない。
 なお余談だが、FGOプレーヤー的には酒呑童子が女の子でちょっぴり嬉しかった。

三景 「銀河鉄道の夜」 ののか

 二景・壮絶な鬼の断末魔が終わり、三景に移る。背景に二人の人間が向かい合って座るボックス席が映し出される。タタン、タタンと列車の音。星めぐりの列車、ジョバンニとカンパネルラの車窓だ。
 最初は朗読劇。銀河鉄道の夜の一節が詠じられる。次にダンス。モールを長く垂らしたふさふさの衣服をまとった二人が対になって踊り始める。金のモールと銀のモール。これは主役の少年二人だろうか、それとも双子のお星様? あるいは、車窓に揺れるススキ野原のイメージかもしれない。二人は舞台上をくるくると軽やかに飛び回る。不思議な振り付け、踊りにくそうな衣装なのに動きは確か。きちんとダンスの訓練を積んだ人の動きだなぁとクオリティに感動する。

 円形舞台でのポージングは、二景とは違った意味でエロ目線で見ることはできなかった。何だか人間というよりも西洋の近代彫刻を見ているようなのだ。タイトル「嘆き」の像を作ったら、こんな感じかもしれない。透ける紺色のガウンに七色のジェムストーンが散りばめられ、緩やかな動きと共にキラキラと光を弾く。祈るような仕草は生々しさからは遠いところにあって、総じて美しいと思った。こんなに綺麗なものが出てくるとは思わなかった。ただただ驚きながら見入ってしまった。

四景 「きつねの嫁入り」 ゆきな

 再び、和風の演目に戻る。和風幻想を全身で体現する狐面の一行が現れ、花嫁衣装の狐を中心に踊り始める。繰り返しになってしまうけれども、演技が上手い。指先を器用に丸めて狐の仕草。長い着物の裾を器用にさばきながら踊る。遠目に見ても重そうな衣装だが、小刻みに跳ねる足取りはあくまでも軽快で、舞台上を駆け回る。

 演目は婚礼の夜を模して進む。花嫁がゆっくりと重い衣装を脱ぎ捨てていく。円形舞台でのポージングは、嬉し恥ずかしな初夜のイメージ。一糸まとわぬ白い肌をあらわに膝を折って座る。着物を抱いて漠然と前を隠しつつも、時折誘うような目線を向けてくる。かつらなのだろうが、重い日本髪の下、素肌の娘の白く華奢な姿が恥ずかしそうに、時には意外と大胆に体をくねらせる。上品なエロティシズム。匂い立つような演技が素敵な一幕だった。こういう直球なものもいいなと思う。

五景 「Talking Flower」 桜庭うれあ

 さて、ここからは後半の演目。雰囲気を変えて、まずは華やかなショータイムからスタート。七人の踊り子がフリルの傘を持ってくるくる回す。たぶん上半身裸なんだろう。傘で巧みに隠しているので見えそうで見えない。この演出にはちょっと嬉しくなった。戦前の白黒映画(マレーネ・ディートリッヒがドイツで活躍した時代のもの)に描かれていた歓楽街にこんな感じのシーンがあった。大人が楽しむダンスショーの場面、舞台後方から強い光を当ててボディラインのシルエットを浮かび上がらせ、観客を沸かせる、まさにあれだ。

 この演目は華やかな演出が素晴らしい。白い傘にプロジェクターで花模様を投影していく。一人に一つの花が咲く。やがて主役のところまで来ると、一か所に集めた傘全体に大きな大輪のバラが浮かび上がる。お見事。ちなみにラストで傘をたたんだ時、露になった上半身の胸元には、きわどいところを隠すシールが貼りついていたというオチ付き。
 こんな調子なので、円形舞台でのポージングは明るくお客さんに笑いかけて、誘ったり煽ったり、局部をチラチラ見せる正統派。今回の公演ではこういうオーソドックスなものの方が珍しい。楽しくて明るいエロでした。

六景 「チャップリンの演説」 空まこと

 今回のモチーフは多分、チャップリンの名作「独裁者」のワンシーンなのだろう。ヒトラーを模した支配者の空虚な姿を思い出す。沈んだカーキ色の軍服風衣装。独裁者の作り出す回路に飲み込まれ、個性をはぎ取られた人々を象徴するように。硬い人工関節がきしむのに似たカクカクとしたウォーク。ストリップの意味は「はぎ取る」。個性を奪うそれもまた暴力的な負のストリップかもしれない。

 脱ぎの場面は一転して極楽鳥の装い。細い紐状の端切れをつないだ七色の服をラフにつっかけ、両手を大きく広げて南国の鳥のように踊る。そういえば、チャップリンは自然回帰を崇拝していた。「モダンタイムズ」のラストは都会を捨て自然へ続く道をゆく。そのイメージと重なる、無秩序で熱狂的な自由への憧れが発露するような動き。前半の型にはめ込まれた動きとは対照的。
 円形舞台のポージングでも、この細い紐状の布が体にまとわりついて、見えるような見えないような、良い味を出していた。対比の妙が楽しい演目だった。

七景 「巴御前」 真白希実

 トリの演目は、中世の武士を思わせる姿の人々が入り乱れる合戦場面からスタート。薙刀を振り回し、敵味方が討ち合う圧巻の風景。激しい殺陣に思わず見入る。いくら演技道具といえどけっこう重いだろうに、自在に操る技はさすが。
 ちなみに見ている最中は、中世の武士としか分からなかった。途中で刃を睨んで自害しようとする風な演出があったので義経かと思っていたが、聞けば巴御前だそうである。なるほど、木曾義仲の都落ちね。

 円形舞台でのポージングは、きらめく白刃を胸に抱え、絶望のうちに自ら命を絶とうとするものの躊躇うような仕草が続く。露出度は高いが、胸の間でキラキラ光る小刀が物騒すぎてエロいとか言ってる場合ではない。やたらと緊迫感あふれる演出に息を呑む。最後は何かを悟ったように去っていく巴御前で幕。伝説では遠くへ逃げのびて出家したとあるから、そのイメージなのかな。
 この方のショーはとにかく動きが良かった。さすが大トリ。

観劇を終えて

 こうして、初めての浅草ロック座ストリップショー観劇は終わったのでした。最初に思い描いていたものとはまったく方向性の違う内容で、控えめに言って満足でした。これは大人の方にオススメできる。
 もちろん、長い歴史があれば幅も広いストリップショーのこと、今でもとても見ていられないような過激なものも存在するのでしょう。しかし、ここ浅草に限って言えば、真摯にストリップショーの表現の幅を広げようと努力していると感じました。
 女性の局部をチラチラ見るなんてけしからんというご意見もあるでしょうが、まあその辺は構わないよ、という方であれば、見応えのある演出を楽しめると思います。百聞は一見にしかず。浅草にお越しの際には、一度体験されてはいかがでしょうか。

※ストリップショーの魅力を教えてくださった同行者さん、興味深い東京レポートを書いてくださったフォロワーさんには感謝しかありません。ありがとうございました。


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