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【宇野亞喜良展】90歳現役イラストレーターの軌跡【東京オペラシティアートギャラリー】

もう終了してしまいましたが、デザイナー・イラストレーター宇野亞喜良氏の大規模展覧会に行ってきました。
「そこまで混まないだろう」と最終日の午後のんびり行ったら、入場待ち列まで出来ており現場は大混乱。完全に油断してました。宇野先生、ファン多いんだな…!

事前にチケットを用意していたのに、何故かチケットの有無に関わらず同じ行列に一律で並びます。なんでだ?
そのまま特に前売りチケットを買った利点を感じぬまま、周囲の人と同じペースで入場しました。


東京オペラシティアートギャラリーは現代日本人作家によるアートを中心に収蔵、展示している美術館。展示内容が「濃い」のでオススメの施設です。

今回の企画展では御年90歳 現役のイラストレーター・宇野亞喜良氏の作品を総合的に紹介するとのこと。

今でこそ「イラストレーター」は良く知られた職業ですが、宇野氏が活動を開始した1950年代にはまだ一般に周知された名称ではなかったようです。当時は「デザイナー」と名乗った方が通りが良かった様子。
そんな状況を歯がゆく思ったのか、宇野氏は若き和田誠・横尾忠則らと共同で1964年東京イラストレーターズ・クラブを結成。「イラストレーション」「イラストレーター」という言葉を普及させていきます。
つまり宇野亞喜良氏は日本の始祖イラストレーターの一人なんですね(あがめよ)
宇野亞喜良アキラのサインがAKIRAではなく、AQUIRAXなところにフランスへの憧れが詰まっててエスプリですね。

※イラストレーションの歴史についてはWikipedia記事の「日本のイラストレーション」パートを見てね


展覧会を見る。

東京オペラシティアートギャラリーは天井が高く解放感のある造りですが、今回はミチィ…と圧迫感に満ちた展示風景。
それもそのはず、とにかく出展数が多い。展示作品リストはpdf27ページ! 個々の絵が小さいわけでもないので、良く詰め込んだなと感心します。
展示室は普段より壁が増え、至る所にパネルが設置されていましたが、圧倒的な物量の前にそうせざるを得なかったのでしょう。あえて出展数を減らさず、圧倒的活動量を見せつけていくスタイル、嫌いじゃないです。

以下、展示室で撮った写真を眺めながら、つらつら感想を書いていきます。


フリーランスではなく、企業所属のデザイナーとしてキャリアをスタートした宇野氏。こちらは国策パルプ工業(今の日本製紙ですね)の1965年カレンダー。絶妙に目付きの悪い女の子たちが個性的で、社会の同調圧力には迎合しないぜな気骨を感じます。年代を考えるとすごく進歩的。


化粧品広告をまとめたコーナーの展示風景。一番手前では白黒・低解像度ならではのテクニックでモデルさんを名画の中に立たせています。CGがなくとも、工夫しだいで表現は無限大だということを改めて認識させられます。


『新婦人』というのは1960年代に存在していた雑誌で、現在ググると出てくる冊子とは全くの別物です。調べてみると、↓のようなコンセプトだった模様。

華道の家元池坊のPR誌として文化実業社より発行された雑誌。生け花というトピックに限定せず、新しい女性の嗜みとして、アートや映画、ファッションにレジャーなどライフスタイル全般を広く取り上げた、総合文化雑誌的編集が今なお新鮮。1960年のカバーは奈良原一高が撮影を担当。山口洋子と宇野亞喜良のイラストによる扉にはじまり、星新一のショートショート…

誠光社HPより、https://seikosha.stores.jp/items/60fced54d2ac800194ce5141

富裕層の女性向け総合文化誌といったところですね。関わっている面子が凄い。
展示されていた実物表紙を見ると、宇野のサイケデリックデザインが写真と融合し、今の目で見ても素敵だなぁと思うのでした。

ところで、宇野氏の絵には繰り返し植物に変容する女が登場します。J・J・グランヴィルのペン画には花と女性、動物と人間が連想ゲームのように変転していく作品がありますが、宇野氏もフランスデザインを学ぶうちにグランヴィル風味を取り入れたのでしょうか


こちらはデザイン案検討中の資料。ちょっと大人向けの人魚姫ですね。トレーシングペーパーには細かく色指定が赤字で描き込まれています。今のデジタル環境ではレイヤーで処理するところでしょうが、1978年はトレペ使用。当時の仕事のスタイルが分かって興味深いですが、失くさないように気を付けるのは大変だったろうな…


宇野亞喜良氏は複数の画風を持っています。大人向けのエロス×アダルティーが有名ですが、子供向け絵本の作画もけっこう手掛けていて、温度差に風邪ひきそうです。
こちらは江戸時代の怪異譚『稲生物怪録』を子供向け絵本にした『ぼくはへいたろう』の挿絵コレクション。この絵本は複数バージョン出版されていて、毎度絵が違うのも見どころです。

※『稲生物怪録』は個人的に大好きな話なんですが、再話版なら稲垣足穂の『山ン本五郎左衛門只今退散仕る』が一押し。最後にすかさずBL風味を漂わせだすところがタルホ味


舞台などの各種ポスターを貼るとこの圧。ごく一部なのでしょうが、本当に良く仕事をされる方だと感動してしまいます。画風もさまざま。まさに広告デザインの申し子


宇野氏、近年は舞台芸術にハマっているそうで、舞台装置も作ったりしています。もともと寺山修司と組んでいた期間が長かったので、舞台スタッフとして参加するようになったのも自然な流れなのでしょう。これは舞台『星の王子さま』の装置だったかな? グラフィックとは違う味わいでありながら、まごうことなき宇野亞喜良デザインが楽しい一品です。

全体を眺めて思うのは「とんでもない仕事量だなぁ!」に尽きます。個々のクオリティもそうですが、高度経済成長時代を彩り、飾り続けたプロの仕事にひたすら圧倒されました。
現在でも普通に仕事をされていようで、そのバイタリティはどこから湧いてくるのか、何とも不思議です。


収蔵品展示も見る。

東京オペラシティアートギャラリー、実は二階構成になっていまして、下の階がメインの企画展示室、上の階は収蔵品展示若手発掘企画『project N』が開催されています。上階に行く人は少ないですが、けっこう見ごたえがあるのでオススメです。追加料金もないですし!

今回の収蔵品展は『No. 079 特別展示 没後50年 難波田史男』、project Nは『No. 094 大城夏紀』。

難波田史男という画家の名はこの時はじめて知ったのですが、鬼才としか言いようのない世界観に圧倒されました。凝集された緊張感と繊細で美しい水彩の柔らかさ。子供の絵のようなモチーフが頻繁に現れるものの、高い知性で統御している感覚もある、不思議な感触の絵です。三十代前半で夭逝した画家とのことですが、作品数は十分に多く、濃密な展示でした。


『無題』。色調と複雑な描線が美しい。
こちらも『無題』。何を表現した作品か不明だそう。


project N 大城夏紀氏の作品はパステルカラーと和歌の借景がキーワード。ファンシーな色調でまとめた立体造形を、和歌をイメージしたパターンを活用して引き締めているようでした。
実際に風景の中に入り込んで散歩していると、何だか楽しくなってくる展示です。お茶でも飲みながらのんびり鑑賞してみたい。


和歌をモチーフにしたオリジナルプリントが複雑な彩りを添える。
壁までパステルカラーに変化

大城夏紀氏の作品・展示風景については次の記事が写真豊富でオススメ


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