野又穣作品をオススメするnote
野又穣作品は良いぞ。
個人的に大好きな画家・野又穫氏。ここ数年評価が上がってきたとはいえ、まだまだ『知る人ぞ知る画家』の感が強い。
でも、朽ちた廃墟の写真やイラストが流行っている昨今、野又作品が刺さる人も沢山いるはず! と思い立ち、ネットの片隅に推薦怪文書を上げてみることにした、それがこのnoteです。
まずは一枚。
野又穫という画家を知るために、まずは彼の作品を一枚紹介してみよう。(撮影:自分)
いかがだろうか?
「良い!」と思った方は他の作品もきっと好みに合うと思う。
つまらんと思った方、もしかしたら見方が変わるかもしれないので、時間があればもう少しお付き合いください。
野又穫という画家を一言で表すなら、廃墟の画家だ。
もう少し表現を足せば、空想建築の廃墟を緻密なタッチで描き上げる画家といえる。
デビュー以来、彼はほぼ一貫して現実にはありえない架空建物の廃墟を描き続けている。それも、概ね白を基調とした建造物を真正面から建築図面に似た技法で描き上げている。パースは正確そうに見えて、おそらく敢えてゆがめている。定規で引いた線ばかりではなく、多少ゆらいだフリーハンドを思わせる部分が柔らかさを生み出している。
空は仄暗く、何やら世界の終わりを思わせる気配がある。
ただ、廃墟廃墟と言うが、生命の気配が全くないわけではない。
先程の『Alternative Sights-2』にしても、建物の中には水があり、魚が住み、周囲を取り囲む木々がある。
たぶん、世界の終わりの直後の風景というのが近い。まだ文明の残滓は消え去っていないし、廃墟というには手入れされているが、人口は少なそう。
この世界の黄昏の風景には、存外暗さはない。ただ夢のように穏やかな行き止まり。文明の静かな終焉。
幻想建築の画家という意味ではピラネージの遠い子孫、エッシャーの孫と言えるかもしれない。
或いは、形而上絵画の代表者・ジョルジョ・デ・キリコに近しい雰囲気を感じることもあるだろう。
どこかで見た懐かしい風景。それにも関わらず、唯一無二の世界観。それが野又穫の魅力だと自分は思っている。
Who is 野又穫?
野又穫の活動歴は決して短くない。
東京藝術大学卒業後、1980年代から画家としてのキャリアを積み、数々の個展を開催。
1995年から10年のあいだ雑誌『文學界』の表紙画を担当。
すでに何冊も画集が出版されている。(なお、すべて絶版)
Wikipediaにも個人記事がちゃんとある。
とまぁ、決して無名とはいえない経歴なのに、何故か妙に知名度が低く、長年知る人ぞ知る画家の地位に留まり続けていた。
このあたりは美術界でも意識されているようで、2023年の展覧会図録(後述)にも不思議だよねとコメントされている。なんでも、権威ある美術展ではなく、デパートでの版画販売の期間が長かったのが一因ではないかということらしい。
ところがそんな野又穫氏、日本を飛び越えて一気に世界のNomataになってしまった。
2020年、イギリスはロンドンを拠点とする現代アートの有力ギャラリー・White Cubeに日本人初の所属が決定したのだ。以来、White Cube主催で個展を何度か開いている。
世界での活躍の凱旋展示なのか、2023年夏には東京オペラシティアートギャラリーにて『野又穫 Continuum 想像の語彙』なる大規模企画展が開催された。
この展覧会で初めて野又穫を知った方も多いのではなかろうか。noteにもそんな雰囲気の記事がいくつかあった。
ちなみに自分は以前、書店で画集『ALTERNATIVE SIGHTS - もうひとつの場所』に一目惚れしたのが野又穫を知ったきっかけ。露出機会が増えて新規ファンが来てくれると嬉しいなと思う。
『野又穫 Continuum 想像の語彙』
2023年夏、新宿に近い東京オペラシティアートギャラリーにて野又穫の大規模展覧会が開催された。
東京オペラシティはコンサートホールや劇場を含む複合芸術施設。そのアートギャラリーは階段を登ったところにある現代アートの美術館だ。
自分も知らなかったのだが、この美術館のコレクションの元となった『寺田コレクション』の主である故・寺田小太郎氏が以前から野又穫に注目し作品を購入していたらしい。その縁でここは約40点の野又作品を収蔵する、国内有数の施設になっているのだそう。アーティストとパトロンだね。
自分も展示を観に行ったが、撮影とSNSでの掲載可ということで、当時の雰囲気をここで少しだけ紹介してみる。
展覧会で実物を見て、一番驚いたのはやはり細密技巧を凝らした画面だった。画集で見て知ってはいたが、顔を近付けてみると想像よりまだ細かく描き込まれていて、凄まじい。
絵の前に立てば、全体的なパースの取り方やテーマの不思議さに感心する。
そして遠くから見ると、細部に気を取られることがなくなり、構図そのものを堪能できる。
これも意外なことだったが、野又穣作品は三度美味しかった。
おまけ
野又氏、グラフィックデザイン界の巨匠・佐藤卓さんと同期だったとのことで、佐藤氏によるエッセイがある。貴重な証言。