長髪女顔の病に侵された儚い優男(三十路)がヒロインしてる話が読みたいから書いた小説「オフィーリアの花輪」メイキング

◆初めて自分の思考の様子を書いてみました

 イラストは「メイキング」というのがありますし、文章も「プロット」なる設計図を基にしてお話を書きますが、プロットを立てる暇もなかった即興の場合や、短いお話が長くなるときに自分がどういう思考をしているのか、周りの方がやっているのを見て自分もやってみたくなりました。

 今回は拙作「オフィーリアの花輪」を題材にお話してみようと思います。
元々はTwitterの140字小説だったのですが、設定と描写を加えて6000字程度まで伸ばしました。
 ※メイキングなので、お話のネタバレ作品語りなどしておりますので、ネタバレ回避したい方はよろしければ上のリンクから本編をどうぞ。ネタバレ平気だったりメイキングだけ興味のある人はそのままどうぞ。
 ※メイキングとはいいますが、文章技法よりも私の思考回路の記録のようなものです

すごく簡単に作品の説明をすると

長髪女顔の病に侵された儚い優男(三十路)がヒロインしてる話が!! 書きたい!!! 読みたい!!!!!

 です。よろしくお願いします。

◆最初

 ノベルちゃん三題のお題を見て「長髪」とあったのがきっかけです。(服部は長髪の優男キャラが好きだからです)
 水葬、からミレーのオフィーリアの絵を連想し、夏至は時間を示すだけで使うことを決める。
 長髪の優男が絵を見ているらしい→絵を見て彼はどう思ったのだろう?→儚い感じにしたいなあ→死にそうだな……よし自殺願望、水葬にしてくれっていう儚い優男だな!→髪の毛が長いことを書くには……触ってくれる人を登場させねば→そしてこの儚さを儚い・危ういと本人以外が言わないと表現できないな→髪を触るくらいなら恋人だろうな。死なせたくはないだろうな→慌ててオフィーリアについて調べる→「己を不幸を~」の一文を見て、死なせたくないという決意の意味で使おう→字数も少ないからこれがラストで!
 と考えて作ったのがこちら↓

#ノベルちゃん三題  2019年6月21日のお題「夏至、水葬、長髪」
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 夏至の昼も終わる時。この絵の題名は、と指さす彼の肩へ、軽く纏められていた長髪がほつれて流れた。柔らかな髪の毛を梳きつつ、歌いながら沈んだという絵の謂れを語る。水葬みたいでいいなと彼は儚く笑う。 己の不幸が分からぬまま沈む真似はさせまい。髪に触れる指に力がこもる。
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◆ちょうどそのとき、描写と文字数の話題があった

 短い字数ながらも長髪儚い優男書けて満足~って思っていたら「長編が書けない・字数を増やす方法OR減らす方法」という悩みに関してのコラムが話題になっていたので。

monokaki掲載コラム「vol.2 Q. 思うように文字数が増やせません
藍間真珠さんコラム「長編が書けない人のつまずきを探る
※ちなみに、藍間さんは「短くまとめるためのヒントと描写の削り方」もあります。

 せっかくだからこの長髪女顔優男お兄さんをもっと描写してあげたいな、という欲が湧く。
 死にそうな人が絵を見たいというシチュエーションってなんぞや?→病気なのでは?→病室での中の出来事なのかな→取り急ぎ病室に見舞いに来る場面から行こう→絵を見せるって……なんで絵見せたんだろう? お見舞い?→髪触っていちゃいちゃさせてみたけど……結局お前どんな病気やねん!!
 場面の細かい描写と、登場人物の性格や言動、やりとりを重ね、文字数を増やしてますね。

◆ここで本格的に悩み始める

 そう。なんとなーく「薄幸な長髪童顔の三十路が病院にいる」から始めてしまったので「なんの病気で、どうしてそうなった」がまったく考えてなかったのです!! オチをどうするの服部??? ってなったときに、苦し紛れに医者を登場させました。
 そしてひらめいた。なんかカッコイイ病名にすればいいと。キャラ小説じゃないし! 雰囲気が大事なの!
 そこで生まれたのが「オフィーリア症候群」でした。おやおや、最終稿では「オフィーリア病」じゃないですかと思ったそこのあなた、あとで説明します(といっても、賢明かつ、服部のうっかり具合をご存じの人はもう分かってますね……)
 よっしゃ架空の原因不明の病を使ってしまえ! ここで「絵を見せる」というアクションを、衝動のトリガーとして使うことにしよう、と思い立ちます。なんかこう、平坦な場面だったし……。
 そして彼の職業を「作家」にしました。ほら、儚いから……(単純)
 ここまで彼を支える相手を「恋人」と仮定して書いてきましたが、入院していてケアに尽力している以上、配偶者だろうと思い配偶者に変更しました。実は、最初は男女(ヘテロ)でも、男男(BL)でも読めるように「配偶者」の性別は設定していませんでした。台詞もなるべくどちらでも違和感がないように。
 なぜかというと、私の中で優男たる彼の姿ははっきりと浮かんだのですが、相手役の人物が女性か男性かは決めたくなかったというただの趣味です。しかし後述する描写で、性別を決めた方がわかりやすいなと思って「彼女」(女性)に決めました。それはまた後ほど。
 で、初稿は医者の冷たさと病の完治が絶望的、袋小路な部分を描いて終わってるんです。
 この時点での初稿がこちら。3000字程度でした。

 さすがにこれはまずい。オチがないじゃないか。と悩んだ自分。そのときご縁があり、なつみかんさんに初稿を読んでいただく機会がありました。
 そのときに「即興で書いてしまったので、オチが浮かびません」「フィクションでの病の描写やリアリティラインがわかりません」と素直に困りごとを書きました。
 ありがたいことに読んで頂き「病気ものなら『死ぬ(治らない)/死なない(治る)』『だれが死ぬか/死なないか』『ハッピーエンドかバッドエンドか』など、オチの選択肢としてありますよ」「なぜ彼が死んだのか、をミステリっぽく書くことも、ホラーとして書くこともできますよ」と、いろいろな方向性を言ってもらったり、おまけに「繊細で美しい話です」というプラスの印象を言っていただけたことがあり、なんとかだれが死ぬか生きるかハッピーかバッドか、と考えよう! と思いました。
 改めてなつみかんさん、ありがとうございました!

◆そして考えた結果

 死んでしまうのは昔男女ものの話でやった(「紅い女」という似非大正時代書生×お嬢様もの)ので、さすがに今度は生き残ってもらおう、と腹をくくりました。
 ここで「彼」視点の語りを考えました。というか、そうしないと「彼」がどんな気持ちなのか分からなかったからです。
 そして先述した「配偶者」の性別をこの時点で「女性」に決定しました。なぜかというと、彼の一人称にすると、配偶者のことをどう呼称するのかという問題が起こったからです。もう一つは「オフィーリア症候群」になっている男性は世界で「彼」だけという設定(彼の特異性ヒロイン性を際立たせる目的がありますが結局これも私の趣味です)があるので、登場人物も対になっていたほうが際立つだろう、と思ったからです。
 
 話は戻ります。彼女は病の衝動が出ているときは意識が曖昧だと言っていたけど、さすがに子どもじゃないのだから、自分である程度調べれば病気の特徴もわかるだろうし、自覚はあるなと考えると、彼に「罪の意識」があるのが見えてきました。他人、しかも愛する相手を傷つけないと苦しみから解放されない暴力性があるのに、やめることの出来ない悲しさと未熟さ、優しさの裏側にある身勝手さがあるだろうと考えました。というより私がそういう要素が好きなので……。
 じゃあそれを他人にぶつけるだけではなにも変わらない。さてどうやって「昇華」させようかな、と考えているうちに、彼の趣味を「テレビ見ない、本や物語を読む」ことから、職業は作家にしてあったので、作品を書く事で解決させようと思う訳です。(さすがに「三十路」の設定なので、社会的な立ち位置はどうなんだろう、と考えた結果でもあります)
 作家ならば、思考を形を変えて物語に出来るのでは、と考え、完治の方向を「苦しみを物語の形に変えて昇華させる」ことに決めました。
 ここで「病気が物語を書くことで治るはずねーだろ」というリアルな問題が持ち上がりかけましたが、そもそも「オフィーリア症候群」が架空の病なのです。だったら治るのは「フィクションの力」でないと、それこそリアリティラインの崩壊なのでは? と思ったので、今回は無視しました。
(本来は精神疾患のことを資料として調べるのが筋なのでしょう。ただそれをしていると私は「終わらせられない」し、今回はキャラ立てをしっかりして長く付き合ってもらうお話(長編)じゃないので、今回は割愛しました。この辺り資料の当たり方は自分のウィークポイントなので、克服したほうがいいと思ってる部分です)

 オチが決まったので、あとは途中で少し彼と彼女を離れるというドラマを作ろうと思い、彼女との面会を拒絶させました。離れていても手紙(=文章)で繋がっていること、彼が彼女を信頼し、愛していると彼から伝えることで、彼女だけが必死で救おうとがんばっているだけではないことを描いたつもりでした。
 作家なので「本が世に出た=病気が回復に向かう」というラストが浮かぶ。冒頭の「花輪を取ろうとして沈むような男~」なので、ラストの演出として花輪を流す(=自分は流されない。苦しみという花を集めて流す=物語・本にする)、が決まります。
 その後、伸ばした髪の毛の行く末(=手入れをすることで彼のそばにいたいという彼女の欲望を表す)など、細かい部分の描写を入れて、一度完成させます。

◆その後の軽い推敲

 今までテキストファイルで編集してたのをワードの二段組みに移し(推敲などのチェック時は形式を変えるので。毎回やるわけではないですが、今回は他の人に下読みをしていただいたこともあり、なるべく整えて出したいと思ったため)PDFにしてスマホ等でチェック。
 すると、疑問が浮かびます。
「オフィーリア症候群」って、病名じゃないですよね……。素人の認識ですが、あくまで病名に準じた病状のことであり、これを「病」とは呼ばないから「オフィーリア病」に統一しようと。
 あと、兆候と「対処療法」のことが前半にうまく示唆されてないな、とここで前半に手を加えました。
 あとは軽く手直しと誤字脱字(あったら教えてください。クールに直します)がないか見て、タイトルも「症候群」ではなくなったので、オチの「花輪」に変更し「オフィーリアの花輪」に改題。
 ……という流れで、おおよそ140字だったツイノベは3000字の掌編→6000字の掌編へと姿を変えたという訳でした。

◆おまけ。ジャンル分けとタグ付けについて

 というわけで完成させた小説。せっかくなのでオンラインノベルのメイン投稿サイトであるカクヨムで公開したわけですが、その際のキャッチコピーとあらすじ、タグがすっと浮かびませんでした。
 というのも、即興から生まれたお話なので「どういう読者に向け、どんなものが欲しい人に向けて書かれたものか」とは考えずに書いたからです。私が「長髪の女顔の優男がヒロインの話欲しい」ので書いたのですが、ただ「書いた」だけでは、読まれないのは身をもって知っていますし、私は自分が書いたから満足! というタイプではなく「こんなの作ったのねえママパパ見てみて~おもしろかったら褒めて~」というタイプの書き手なので「こんなの」というのが「どんなものか」を改めて考える作業が発生したわけです。
 
 まずは物語の筋通りの文字通り「あらすじ」を考えました。お話の圧縮です。でも公募でもないので、最後までは書かなくてもいいやと思い、彼が面会を拒絶します、まで書きました。拒絶しちゃったよ、どうなるの? と思ってもらうのが目的ではありますが、上手くいってるかどうかは怪しいです。

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語り手である「彼女」は、病に伏せる伴侶の元をいつもどおりに訪れる。溺死・入水を渇望し苦しむ奇病「オフィーリア病」に侵された彼を労わるが、同時に痛みや苦しさにも耐える日々を過ごしている。しかし突然、彼は面会を拒否。彼女は小説家である彼からの便りをよすがに、ただひたすら待つことになるが――。

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 次にキャッチコピー。カクヨムはこれがあります。この文言で読むか読まないかをまず直感的に決められてしまう確率が高いので、なるべく分かりやすいものを……と考えたのが「入水」「病」「儚い人」などのワードを入れること。この時点で「病気もので自殺願望があるキャラの出てくる話を読みたい人」に向けようと決めました。私は文章に艶のあるタイプではないので、印象的な文言や華やかな言い回しは考えても陳腐になるだけだと思ってるので若干不得意分野なのですが……。
 そこでできあがったのがこれ

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入水を望むオフィーリア病に侵された、優しく儚い三十路小説家の出した答は

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 ……語り手は「彼女」だけど、私が見せたかったのは「彼」の儚さであり綺麗さでありヒロイン感なので、彼のことを使いました。
 先ほど書いたあらすじの他に「だれがどこでなにをしている・どんな関係性でどんな話なのか」という感じのもう少し短い文も作りました。

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入水自殺への抗えぬ衝動の苦しさを抱え、物語と愛する人に縋ってしまう儚い美貌の三十路小説家と、それを受け止めざるを得ない配偶者たる「彼女」の行く末を描いた純文学風掌編。
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 純文学風、とあるのは、先述したなつみかんさんの評に「純文学的」だという言葉が出てきたので、それを拝借させていただきました。

 タグは今回、掌編ということもあり要素も少ないので「」くらいしか思いつかず、あとは引っかかるかもわかんないけど「三十路」(若い人の話じゃないという意味で)「優男」(こういうのが好きですという主張の意味で)「掌編」(おまじない程度)で4つ。他になにを入れたらいいんだろ、ホントにわかんないです。

◆最後に

 今回はプロットを作らない即興からのメイキングになってしまいましたが、たぶん一貫してたのは

長髪女顔の儚い優男(三十路)がヒロインしてる話が!!書きたい!!!

 だったんですよね……欲望に忠実。
 途中で自分以外の人に読んでいただけたのは幸運でした。本来ならば自分だけで書ければいいのですけど、ここ1カ月ほどまた「物語が書けない」と悩んでいたので、とても勇気づけられました。
 このメイキングも実は「書けない」というモヤモヤを払拭するための自己満足ではあるのですが、こんなことが好きです、という主張でもあります。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。 

 

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