神宮外苑再開発への意見〜⑤風致地区の環境を破壊する大規模開発
2022年4月15日。「神宮外苑地区市街地再開発事業」環境アセスメントに
対して「都民の意見を聴く会」が開かれました。
17人の公述人からは、この再開発計画に対し様々な角度の問題提起があり、「緑豊かな歴史ある景観を守るべきだ」と提案を含めた計画見直しを求める声が相次ぎました。どの意見も多様で知見に富んだ素晴らしいものでした。公述人の声を、多くの皆さんに知っていただきたいと思います。
以下に、
若山徹さんの意見を紹介いたします。
風致地区とは正反対の大規模開発を可能にする規制緩和
私は、50年近く都市計画コンサルタントの仕事を続け、現在は退職していますが、神宮外苑再開発が都市計画の視点から見て、あまりにもひどい内容であることから、公述を思い立った次第です。
基本的な問題は、都市の貴重な自然景観を維持し、建築物は規制する風致地区において、これと正反対である規制緩和により大規模開発を促進する、再開発等促進区を適用し、市街地再開発事業をおこなうことです。
評価書案11頁の事業の目的で、スポーツ拠点とし既存スポーツ施設の更新は理解できますが、なぜ土地の高度利用化を促進し、業務・商業等都市機能の導入しなけらばならないのか、何の説明もありません。さらに、緑の充実とオープンスペースの形成を図るとしていますが、現在風致地区の指定に
より、緑は充実しオープンスペースも確保されており、再開発等促進区に
基づく市街地再開発事業が、現在の緑とオープンスペースを減少させることが危惧され、これまでの都民の意見は、そのことを心配しています。
さらに問題なのは、当地区の再開発は公園まちづくり制度と一体に行うことにより、都市計画公園から除外する区域をつくり、除外した区域に80mと185mの複合棟を建てる計画になっています。しかし、評価書案及び見解書ではこのことの記述はありません。
評価書案16頁、見解書7頁の建築計画の概要では、オフィス、商業、宿泊
施設及びこれらに係る駐車場が床面積の80%近くを占め、スポーツ施設は
ラグビー場、野球場の2施設のみで、野球場を東京ドームの建築面積
約47,000㎡程度とすると、スポーツ施設は全体床面積の20%程度に過ぎません。なぜ、風致地区において、スポーツ施設とは関係のないオフィス、
商業、宿泊施設等が大半を占める計画を行うのか、事業者に明確な説明を求めたいと思います。
環境影響評価手続きの軽視と不整合
次に、事業者及び東京都都市整備局は、環境影響評価手続きを軽視していることです。事業者は、令和3年7月に環境影響評価書案、令和4年2月に見解書を提出しています。この間に、事業者と都市計画担当部局は、都市計画手続きを先行し、令年4年3月10日に当地区の再開発等促進区に係る地区計画の変更を告示しました。
環境影響評価手続きの途中にも拘わらず、地区計画の変更を行うことは、
計画の枠組みを決めてしまうことであり、環境影響評価の反映が難しいことが出てくることが考えられます。
見解書に示されたテニス場を反映していない偽りのイメージ図
テニス場とテニス棟が配された実際の計画完成イメージ図
このような手続きの不整合は、今回の評価書案、見解書にも表れています。評価書案21頁、見解書12頁の完成イメージは、何の説明もなく、絵画館前
広場は5面の軟式野球場、バッティングドーム、屋内球技場、フットサルコートなどの既存施設が掲載されています。しかし、評価書案から見解書提出までの間に行われた、関係区の都市計画審議会では、絵画館前広場は、両側にテニスコート及びテニス棟、中央部が広場になる完成イメージ図を示して
説明を行い、地区計画を変更しています。
評価書案及び見解書の全体イメージを見た都民は、絵画館前広場は、既存のスポーツ施設及び樹木が残ると考えるでしょう。しかし、地区計画の変更では、テニス場及び関連施設整備のために、既存の軟式野球場などのスポーツ施設は消滅し、既存樹木の伐採など、現在のスポーツ・自然環境を大きく改変しています。全体イメージは全くそれを反映しておらず、偽りのイメージといっても過言ではありません。(イメージ図説明)
絵画館前広場は、今回の環境影響評価の対象外というかもしれませんが、
テニス場は、環境影響評価の対象区域にあった施設であり、それが絵画館前広場に移転し、既存のスポーツ施設や緑地に多大な影響を及ぼしていることから、一体の区域として考えるべきです。
さらに、事務所棟、複合棟は、低容積の銀杏並木などの容積率を移転し割り増して、高容積の超高層ビルを計画していることからも、一体の区域として考えるべきです。事業者及び東京都都市計画関係部局は、審議会に正確な全体イメージと計画内容を示し、審議会での協議を深めていただきたいと思います。また環境影響評価を担当する環境局はこの間、審議会の議論や都民の意見を、関係部局間でどのように調整してきたのか、審議会で明らかにしていただきたいと思います。
地区計画変更の手続き中に入札公告する事業者のモラルを問う
次に、事業者に関わる問題です。日本スポーツ振興センターは、令和4年1月7日にラグビー場に係る入札公告を行いました。これは、新秩父宮ラグビー場の整備運営事業に係る入札で、参加意思表明は1月7日から2月21日、提案期間は5月27日から6月1日、開札は8月22日となっています。
環境影響評価及び地区計画変更の手続き中にもかかわらず、このような事業に係る業務を行うことは、先の地区計画変更の決定と同様、環境影響評価手続きを軽視しているといわざるを得ません。
都環境影響評価条例では、環境影響評価書の告示までは、事業を実施してはならないことになっていますが、環境影響評価手続き中でも、事業者が再開発の事業認可申請を行い、東京都が事業を認可することは可能です。
しかし、事業者及び東京都のモラルの問題として、環境影響評価書の告示までは、再開発の事業認可申請及び認可手続きを進めないようにしていただきたいと考えます。
特に、見解書では景観について、事業者自ら「今後、景観行政団体である港区や新宿区との協議を行い、各区の景観計画やガイドラインに示される基本理念との整合を図る」としていることからも、再開発の事業認可申請を行う段階ではなく、各区が納得いくよう協議を進めていただきたいと思います。さらに、事業者及び東京都は、審議会審議に積極的に対応し資料を提供するとともに、審議会委員の皆さまには、都民が納得できるよう、一層の審議を期待いたします。