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人工衛星観測で使われている電磁波、一番わかりやすい解説はこちらです。

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今回の記事では、人工衛星の観測で利用されている電波(電磁波)について解説します。私たちの身近で使われている電波と比較することで、人工衛星はどのように電波で観測しているのか、見ていきましょう。


1.身の回りにある電磁波

電磁波というとどのようなイメージをもたれるでしょうか。スマートフォンで送受信している電波?、電子レンジで使われているマイクロ波?、レントゲン検査のX線?
今挙げた例は、全て「電磁波」と呼ばれます。

(1)電磁波の種類

最も身近な「電磁波」は、「」。中でも「可視光線」と呼ばれるものです。太陽から降り注ぐ「可視光線」があることで、地球の昼は明るく照らされており、夜は照明器具から得られる「可視光線」で人間が活動することができます。

同じく「光」の一種である「紫外線」も太陽から降り注いでおり、地球周辺の大気であるオゾン層で吸収されますが、一部が透過して地上にも降り注いでいるため、私たちは日焼けをします。

もう一つ「光」の一種である「赤外線」は、テレビのリモコンに使われており、リモコンからの情報をテレビ本体に伝える際に活躍します。

一方、医療分野では「(電離)放射線」の一種である電磁波が使われています。レントゲン検査で使われる「X線」やガンの放射線治療で使われる「ガンマ線」です。これらの電磁波は、人間の体を透過したり、原子や分子を電離する力をもっています。

スマートフォンに表示されるアンテナの数が少なく、「あ~、ここは電波が弱いな〜」と言った経験、みなさんあるのではないのでしょうか。「電波」とは、日本の電波法で3THz(テラヘルツ)以下の電磁波のことを言います。実は、「電波」も「電磁波」であり、「光」や「(電離)放射線」の仲間ということです。
なお、携帯電話やWi-Fiが通信をする際に使われているのは「マイクロ波」の一部です。
マイクロ波」は電子レンジで飲食物を温めるのにも使われています。

その他の「電波」の例としては、ラジオ放送(AM・FM)、地上波テレビ放送、衛星放送(BS・CS)であり、「マイクロ波」やそれよりも低い周波数の電波が使われています。

このように見てみると、「電磁波」並びに「電波」が皆さんの生活に欠かせないことがお分かりいただけたと思います。
次に示す表のとおり、「電磁波」は波の特徴量である周波数並びに波長で分類がされており、それぞれの「電磁波」が持つ特徴ごとに様々な用途で利用されています。


電磁波の種類 出典:電磁界情報センター


<まとめ>
電磁波には、光・放射線・電波が含まれる
     ・光の例:太陽光、紫外線等
     ・放射線の例:レントゲン検査のX線等
     ・電波の例:携帯電話や電子レンジのマイクロ波等

(2)電磁波の透過

レントゲン検査で利用するX線は人間の体を透過しますが、透過しにくい骨が白く映り、透過しやすい皮膚・筋肉・臓器等は黒く映ります。
それでは電磁波の「透過」について詳しく見ていきましょう。

電磁波が物体に入射すると、電磁波は「物体に反射するもの」、「物体に吸収されるもの」、「物体を透過するもの」の3種類に分かれます。
電磁波・物体それぞれの特徴により、入射した電磁波の大半が反射してしまえば、電磁波は吸収・透過しません。例えば、可視光線が鏡に入射するとほぼ反射してしまうので、鏡の後ろに光が透過せず、何があるのか見ることができません。
一方で、マジックミラーでは鏡面の素材を工夫することで、入射した電磁波のうち反射するものと透過するものに分けます。そのため、鏡の後ろに何があるかを見ることができます。


光の場合の反射・吸収・透過のイメージ 出典:シーシーエス株式会社

このように、電磁波が物体を透過するか否かは、電磁波・物体それぞれの種類によって異なります
携帯電話で利用されているマイクロ波は、エレベーターや地下等コンクリートで密閉されている空間にいると、ほぼ透過しないので通信に利用できませんが、窓のある屋内にいると透過するので通信に利用できます
一方で、この後解説するとおり、人工衛星の観測においてもマイクロ波が利用されます。地表面から反射するマイクロ波を人工衛星のセンサで観測できますが、地下はマイクロ波が透過しないので観測できません

<まとめ>
・電磁波が物体に降り注ぐと、電磁波の反射・吸収・透過が起こる
・電磁波がどれだけ透過するかは、電磁波の種類と物体の種類による
  例)携帯電話で使われるマイクロ波は窓から透過するが、コンクリートに覆われた地下までは透過しない
  例)人工衛星から照射されるマイクロ波のうち地表面からの反射を観測できるが、地下は透過しないので観測できない

2.人工衛星の観測で使われる電磁波

(1)電磁波の種類

地球観測衛星では、どの電磁波が利用されているのでしょうか。
次図に示すとおり、地球観測衛星では「紫外線」「可視光線」「赤外線」「マイクロ波」が利用されています。前の章で説明した電磁波のうち、「光」と「電波」の一部が使われていることがわかります。


出典:JAXA 第一宇宙技術部門 地球観測衛星データサイト

<まとめ>
人工衛星の観測では、電磁波のうち、光・電波の一部が使われる

(2)電磁波による観測

それでは、地球観測衛星では電磁波を使ってどのように観測をしているのでしょうか。

紫外線」「可視光線」「(可視光線に波長の近い)近赤外線」は、太陽光に含まれる電磁波であるため、太陽光のうち地球で反射した電磁波に含まれます。このため、これらの電磁波は太陽が出ているときに、人工衛星のセンサで「紫外線」「可視光線」「近赤外線」の反射波を観測しています。これらの反射波の特徴から、土からの反射波か、水、植物からの反射波かの違いがわかるため、地表面に何があるのかを知ることができます。
太陽光を使っているため、太陽が出ていないときは反射波を観測できませんし、太陽は地表面を透過しないので、地下の様子は観測できません。

上記よりも波長の長い「中間赤外線」「遠赤外線あるいは熱赤外線」「マイクロ波」は、私たちの目には見えないものの、地球自身が放出している電磁波となります。人工衛星のセンサで「中間赤外線」「遠赤外線あるいは熱赤外線」「マイクロ波」を観測すると、地表面温度や地球周辺の大気の水蒸気量等を把握することが可能です。
太陽光を利用していないため、昼夜問わず観測できることが特徴です。
地表面における地球自身が放出している電磁波を観測しているため、地下の様子は観測できません。
人工衛星が搭載している一部のセンサでは、太陽光からの反射や地球自身が放出している電磁波を利用せずに、センサ自らが電磁波を放出し、地表面に照射することでその反射波を計測するものもあります。
これらのセンサをアクティブセンサと呼びますが、「可視光線」「近赤外線」「マイクロ波」等をセンサ自身が照射します。特に「マイクロ波」を使ったアクティブセンサで主要なものとして、SAR(合成開口レーダー)があります。
「マイクロ波」を利用しているSARは、地表面の陥没・隆起等の変化を把握するために利用されますが、地下には透過しないので地下の様子を観測するためには利用できません
これは、携帯電話の通信で使われている「マイクロ波」が土やコンクリートに囲まれている地下には透過しにくく、電話が通じないのと同じです。

<まとめ>
・人工衛星では、太陽光の反射を観測する場合と地球自身が放出する電磁波を観測する場合がある
・人工衛星に搭載したセンサ自らが電磁波を放出し、地表面からの反射を観測することもある
・いずれにしても、人工衛星では電磁波が地下まで透過しないので、地下のことを観測できない


(3)専門家による解説

天地人の取締役副社長 CSTO(チーフサテライトテクノロジーオフィサー)・第一級陸上無線技術士 百束に解説してもらいましょう。

今回は、衛星技術の専門家であるとともに、無線従事者という立場から解説させていただきます。前半部分とは少し切り口を変えて、「電波はどのように活用されているのか」という法律面・制度面からはじめたいと思います。

以降の内容は有料となります。
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