急速に発展・拡大する中国宇宙産業 中国の宇宙関連スタートアップの最新情報
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Tenchijin Tech Blogでは、宇宙に関連するさまざまな最新情報を、天地人のエンジニア、研究者、ビジネスリーダーが一歩踏み込んで解説します。
天地人noteでは、過去5回に渡り、アメリカ、欧州、日本、カナダ、インドの宇宙関連スタートアップを特集してきました。
今回はシリーズ第6回、中国編です。独自の開発を続ける中国において、宇宙市場で活躍するスタートアップを紹介します。
1.中国の宇宙市場
Euroconsultによるレポート「China Space Industry 2018」によると、中国の宇宙バリューチェーンは2017年時点で160億ドル以上の規模と推定されており、現在さらに成長を続けていると推測されます。
中国の宇宙開発は、2014年までは完全に国有企業のみで行われていました。
しかし、2014年に中国政府はロケットや衛星製造などの分野に民間投資を拡大させる政策を打ち出し、民間企業が参入し始めました。
当初は成長が鈍く、2015〜2016年に設立された民間宇宙企業はほんの一握りでしたが、その後中央政府による支援が発表され、投資家などが安心して新興企業に投資出来るようになりました。
下図のEuroconsultが発表したグラフによれば、2014年には0だった調達額が、2020年には約90億人民元(約1750億円)にまで増加しています。
その結果、中国では2021年までに200社以上の民間宇宙企業が設立されています。
ただ、中国における宇宙産業の民間企業の定義は曖昧であり、民間企業の数に関しても議論が分かれています。一般的には、民間企業は企業の所有権が全て国有で占められているわけではない企業のことを指します。
実際、殆どの民間企業にはある程度地方政府や国の資金が関与しており、資金の30〜50%が民間資金で運営されている企業が多くなっています。
地方政府による民間企業援助の方法として、例えば、ロケットや衛星の企業を誘致したい自治体が、土地や開発資金を提供する場合があります。
また、中国の科学技術分野の最高研究機関である中国科学院や、学術界による援助も多くなっています。
例えば、大学発のスタートアップが複数存在したり、衛星などの研究者を大学が支援し、その研究者が起業する例もあります。その場合、大学がその企業の株主となり、大学が資金と技術の両面で支援する体制を整えているようです。
このようにして、中国の民間宇宙産業全体では2014〜2021年の7年間で総額約400億人民元(約7800億円)を調達していますが、これは国営宇宙企業大手の年間売上高約2150人民元(約4兆1900億円)と比較して小さいのが現状です(Euroconsultより)。
国有企業の中でも、中国航天科技集団(CASC)と中国航天科工集団(CASIC)が、多くの子会社を抱える2大国有企業です。
しかし、200社以上の民間企業と、数十万人を雇用する国有企業を擁する中国の宇宙産業は、アメリカに次ぎ、欧州にも匹敵する大きな宇宙産業市場と言えます。
中国の宇宙産業は急速に発展しており、今や世界で最も総合的な能力を持つ宇宙産業の1つとなっています。
2.中国の宇宙スタートアップ
下の左図は2021年時点の各国の宇宙関連スタートアップ数です。中国の企業数は536となっており、恐らく国有・民間合わせた企業数であると思われます。中国の企業数はアメリカ(6477)、イギリス(793)、カナダ(610)に次ぐ第4位です。
一方、右の宇宙関連スタートアップへの投資額のグラフでは、中国はアメリカの84億ドルに次ぐ第2位で、32億ドルとなっています。前述のとおり、中国は民間資本だけでなく地方政府や国からの資金援助が多いため、イギリスやカナダに比べると多くの企業で資金調達に成功していることが推測できます。
また、Euroconsultのアフィリエイト・シニア・コンサルタントでOrbital Gateway Consultingの創設者であり、中国の宇宙産業に精通しているBlaine Curcio氏のインタビューによると、近年、「中国の民間宇宙産業は裾野が広がっている」といいます。
記事でCurcio氏は、「以前はシステムレベルは全て国有企業、サブレベルの多くは国有企業系列の子会社が担っていました。しかし、近年は供給基盤が、民間企業まで広範囲に及ぶようになっている」と述べています。
また、今後の宇宙産業については、「航空宇宙や自動車産業向けに供給している精密機械メーカーなどの、さらに上流のサプライヤーが宇宙分野に参入するようになるでしょう」との見解も示しています。
中国の宇宙分野では、競争力のあるスタートアップがいくつも誕生しています。今後も、政府の手厚い支援が追い風となり、こうした企業がますます増えていくと考えられます。
3.中国の注目宇宙関連スタートアップの紹介・解説
ここからは、急速に発展する中国宇宙スタートアップ企業の中でも注目すべき4社について、天地人の技術的な視点を交えてご紹介します。
①Landspace :メタンエンジン開発
Landspaceは2015年に創業された、小型ロケットの開発・製造・打ち上げを行う企業です。特に、独自のメタン燃料エンジンの開発が注目を浴びています。
UchuBizの記事によれば、Landspaceは2022年12月14日、世界初のメタン燃料を利用した「朱鷺2号」ロケットの打ち上げを実施しましたが、失敗しました。
しかし、もし打ち上げが成功していた場合、世界で初めてメタンエンジン搭載ロケットによる地球低軌道への打ち上げ能力を示す、記念すべきミッションでした。そのため、結果は失敗でしたが、この打ち上げは中国の民間宇宙産業にとって重要な到達点となりました。
なお、昨日テストフライトが行われたSpaceXの巨大ロケットStarshipも、メタン燃料エンジンを利用しています。フライト時間は4分程度と短いものでしたが、今後の開発が期待されます。
メタンエンジンは、燃料に液化メタン、酸化剤には液体酸素を使用するエンジンです。液化メタンは、従来使われてきたケロシンや液体水素などの燃料に比べて、以下のような利点があります。
①小型化が可能
液体水素に比べて単位密度当たりの推進力が大きいため、燃料タンクを小型化でき、機体システム全体も小型化が可能です。
②すすが発生しない
ケロシンなどの炭化水素燃料では大量に発生するすすが、メタン燃料では発生しないため、すすでエンジンの流路が詰まることがありません。
③長期運用が可能
同様にすすが出ない液体水素と比較すると蒸発しにくく、長期保管が可能。そのため、軌道上での長期運用に適しています。
④安全性が高い
液体水素と比較して分子量が大きいため、漏れて爆発するリスクが低いです。
⑤ 低コスト化が可能
液化メタンは酸化剤の液体酸素と温度(液化メタン:-161℃、液化酸素:-183℃)や必要量が同程度なため、タンクなどの機器や取り扱いを液体酸素と共通化することが可能であり、製造・開発・運用面において低コスト化が可能です。
現在、ロケットの再使用化、長寿命化、低コスト化、さらに機体の小型化が目指されているため、以上のような利点を持つメタンエンジンの将来性に注目が集まっています。
また現在、ISS(国際宇宙ステーション)に加えて、中国の宇宙ステーション天宮が完成しているほか、ISS引退後には月周回有人拠点(Gateway)や民間企業による軌道上宇宙基地も計画されています。
これらを拠点とする次世代の輸送サービス事業が展開されていくことを想定すると、今後メタンエンジンは宇宙輸送サービス事業のインフラとして有望であり、ますます研究が進められていくでしょう。
次に紹介する企業から、天地人の専門家による技術的な視点を交えた解説を記載していきます。
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