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衛星「だいち」シリーズを徹底解説!〜1号から4号でどれくらい変化した?〜

天地人は、2050年にも持続可能な地球環境を目指して活動するJAXA認定ベンチャーです。宇宙ビッグデータをWebGISサービス「天地人コンパス」で解析・可視化することで、まだ誰も気付いていない土地の価値や地球の資源を明らかにするサービスを提供しています。

『今日から使える宇宙豆知識 by JAXAベンチャー天地人』では、宇宙に関連するさまざまな最新情報を、天地人のエンジニア、研究者、ビジネスリーダーが一歩踏み込んで解説します。

本記事では、JAXAが運用している衛星である、だいち(ALOS: Advanced Land Observing Satellite)シリーズを取り上げます。どんな経緯でだいちシリーズは作られることとなったのか、それぞれどのようなアップデートがあったのかなど、比較表も用いながら詳しく解説していきます。


1.だいち(ALOS)シリーズの概要

だいち(ALOS: Advanced Land Observing Satellite)シリーズは、日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発・運用している地球観測衛星です。このシリーズは、地球の詳細な観測データを提供することで、災害対策、資源管理、環境監視など多岐にわたる分野で活用されています。

まずは大まかな特徴を捉えるため、以下に各衛星のミッション、製造メーカー、打ち上げ年・ロケット、運用年数、軌道(種類・高度)、大きさ、重さ等について整理した一覧表を作成しました。これを用いてそれぞれの衛星に関しての解説を進めていきます。

JAXAホームページの情報を用いて天地人作成

だいち

「だいち」(ALOS)は、2006年に打ち上げられた地球観測衛星です。2つの光学センサAVNIR-2とPRISM、およびSARセンサであるPALSARの合計3つのセンサを搭載しています。主な目的は、地図作成、環境観測、災害状況の把握、資源探査など多岐にわたります。高解像度の観測装置を搭載し、災害予測地図の作成や災害後の被害評価に役立ちました。

また、国際的な災害対応においても重要な役割を果たし、世界中の地形データを提供しました。
こちらのAW3D全世界デジタル3D地図はだいちによって撮影された約300万枚の衛星画像を用いて整備されたもので、世界で初めて5m解像度と5mの高さ精度で世界中の陸地の起伏を表現した世界最高精度の全世界デジタル3D地図になります。

だいち2号

だいち2号(ALOS-2)は、2014年に打ち上げられた日本の地球観測衛星で、前任のだいち1号の後継機です。主に災害監視、森林分布の把握、地殻変動の解析などに使用されています。

搭載されたLバンド合成開口レーダ(だいち1号のPALSARの後継であるPALSAR-2、SARセンサ)は、昼夜や天候を問わず観測が可能で、災害時の迅速な被害状況把握に貢献しています。また、森林減少や違法伐採の監視にも活用され、世界中の環境保全にも寄与しています。

だいち3号

だいち3号(ALOS-3)は、高解像度の光学観測を行うことを目的とした衛星で、H3ロケットによって打ち上げが予定されていましたが、H3ロケットの失敗により消失しました。だいち3号は、だいち1号の光学センサの実質的な後継である高解像度の光学センサーを搭載し、広範囲の高精度な地表観測を行うことを目的としていました。特に、災害発生時の詳細な地形変化の把握や環境監視において大きな期待が寄せられていましたが、打ち上げ失敗により計画は中断されています。

だいち4号

だいち4号(ALOS-4)は、だいち2号PALSAR-2の後継であるLバンド合成開口レーダ(SARセンサ)を搭載した地球観測衛星で、2024年の7月に打ち上げられました。主な目的は、災害監視、地殻変動の解析、森林・農業・海洋の観測など、多岐にわたります。

だいち2号の後継機として、より高い分解能と広範囲の観測が可能となっており、昼夜や天候を問わず、安定した観測データを提供できるようになりました。

だいちシリーズ全体を通して

現在運用中のだいちシリーズの衛星は、だいち2号(ALOS-2)とだいち4号(ALOS-4)の2機となっています。これらの衛星は、それぞれのミッションを通じて、地球環境の監視や災害対応、資源管理など、多岐にわたる分野で重要な役割を果たしています。
H3ロケットの失敗によってだいち3号が消失したことは、ALOSシリーズにとって大きな打撃となりました。だいち3号は、高解像度の光学観測を目的とした衛星であり、その喪失は、観測データの欠如やミッション計画の再調整を余儀なくされました。しかし、この失敗から得た教訓は、後続のだいち4号に反映され、さらに信頼性の高い運用を目指しています。

4機の衛星を比較する中で注目すべきポイントとしては、まず観測能力の進化が挙げられます。だいち1号から4号にかけて、観測センサーの性能が大幅に向上しており、特にPALSARの技術は災害監視や環境保全において大きな飛躍を遂げています。また、データ通信能力の向上も見逃せません。だいちシリーズは、取得したデータを地球に送信するための通信技術においても進化を遂げ、データ転送速度や量が増加し、リアルタイムでの情報提供が可能になっています。

次章では、観測能力に関わるセンサーと、データ通信に関する通信機器について、より詳しく解説していきます。
参考
https://www.satnavi.jaxa.jp/ja/project/alos/index.html
https://www.satnavi.jaxa.jp/ja/project/alos-2/
https://www.satnavi.jaxa.jp/ja/project/alos-3/index.html
https://www.satnavi.jaxa.jp/ja/project/alos-4/index.html

2.センサーに注目(PALSAR1,2,3)

だいち(ALOS)シリーズに搭載されているPALSAR(Phased Array type L-band Synthetic Aperture Radar)は、Lバンドを利用した合成開口レーダー(SAR)センサーで、地表の詳細な観測を可能にする技術です。SARセンサーは、マイクロ波を使用して地表を観測するため、昼夜問わず、また天候の影響を受けずに高分解能のデータを取得することができます。これは、災害時の迅速な対応や、森林資源の管理、地殻変動の解析など、多岐にわたる分野で非常に有用です。
SARセンサーについては、こちらの記事で詳しく紹介しています。ぜひご覧ください。

今回はそれぞれのセンサの性能向上を比較できるよう、以下の表に整理をしてみました。周波数帯、分解能、観測幅ともに大きな変化があることが分かります。

JAXAホームページの情報を用いて天地人作成
※1 通常観測で最も高い場合
※2 通常観測で最も高い分解能に合わせた場合

PALSAR1(だいち1号)

PALSAR1は、だいち1号に搭載された最初のLバンド合成開口レーダーです。このセンサーは、地表の広範囲を観測する能力を持ち、特に災害時の被害状況把握や、森林・農業の監視において重要な役割を果たしました。PALSAR1は、全体的な観測範囲が広く、解像度も10mと高いため、さまざまな用途で利用されました。

PALSAR1による観測の様子
参考
https://www.tellusxdp.com/ja/catalog/data/palsar_l1_1.html
https://x.gd/y1m20


PALSAR2(だいち2号)

PALSAR2は、だいち2号に搭載され、PALSAR1の性能を大幅に向上させています。特に、分解能が高まり、観測幅も拡大されています。また、マルチモードでの観測が可能となり、さまざまな地表の状況に応じた柔軟なデータ取得が可能です。これにより、より詳細な地表の観測が実現し、災害時の迅速な被害状況の把握や、違法伐採の監視、環境保全においても大きな役割を果たしています。

PALSAR2による観測の様子
参考
https://www.tellusxdp.com/ja/catalog/data/palsar-2_l2_1.html
https://www.jaxa.jp/press/2024/07/20240731-1_j.html

PALSAR3(だいち4号)

PALSAR3は、だいち4号に搭載された最新のLバンド合成開口レーダーです。新たにデジタルビームフォーミング技術が搭載され、アンテナで受信した電波をオンボードで高速にデジタル処理し、位相の調整と信号の合成を行うことができるようになり、PALSAR2に比べ、高い分解能を維持したまま観測幅が4倍程度に向上しています。
広範囲を詳細に観測する能力が強化されています。特に、観測データの精度が向上し、環境保全や災害監視、資源探査などの分野での利便性が高まっています。また、観測幅の柔軟な調整も可能となり、従来よりも効率的にデータを取得できるようになっています。


PALSAR3による観測の様子
参考
https://www.eorc.jaxa.jp/ALOS/jp/alos-4/a4_sensor_j.htm
https://www.jaxa.jp/press/2024/07/20240731-1_j.html

以降の内容は有料となります。
天地人の中で、だいちシリーズのPARSAR1,2のデータ取扱い経験のある伊藤さんが解説を行います。乞うご期待!
(この記事のみ購入する場合は、200円です。月に3~4記事が月額500円になるサブスクリプションプランもご用意しております。)

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