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宇宙から地面の陥没をどうやって観測するの?~宇宙の技術が地上問題にもたらす解決策~

天地人は、衛星データを使った土地評価コンサルを行っているJAXA認定ベンチャーです。地球観測衛星の広域かつ高分解能なリモートセンシングデータ(気象情報・地形情報等)や農業分野の様々なデータを活用した、土地評価サービス「天地人コンパス」を提供しています。

Tenchijin Tech Blogでは、宇宙に関連するさまざまな最新情報を、天地人のエンジニア、研究者、ビジネスリーダーが一歩踏み込んで解説します。
近年、道路や鉄道、空港などの施設において、陥没が問題視されています。陥没とは、地盤が不安定になり地面が窪んだ状態のことで、交通渋滞・事故の原因となるほか、地下管路の損傷による漏水など、様々な問題を引き起こす恐れがあります。

そこで本記事では、陥没の原因となる空洞を探査する方法や、宇宙からのリモートセンシング技術である「干渉SAR」を用いた陥没の観測方法について解説します。具体的には、陥没のメカニズムや陥没が引き起こす問題、空洞を探査する従来の方法、そして、干渉SARを用いた陥没観測の特徴やメリットについて詳しく解説していきます。

1.そもそも陥没はどのようにできるのか?

陥没穴が発生する原因は、地下空洞の崩壊によるものです。地下空洞の崩壊による陥没は、地下にある空洞や洞穴が崩壊することで発生します。

地下には水や岩盤の腐食によってできた空洞があります。自然生成と人口空洞の2種類の空洞があり、自然生成の例としては、鍾乳洞など自然に生成した空洞、水みち、パイピングなどがあります 。人口空洞の例としては、採石跡 ・ 防空壕や軍用トンネル ・ 盛土内排水管、下水や上水などの地下埋設管 、 トンネル工事による急速な土砂流出などがあります。それらの空洞は降雨や地下水の上昇により空洞の天井部分が順次崩落し、最終的に地表面近くまで空洞やゆるみが到達し、地面が陥没してしまいます。

出典:https://geo.iis.u-tokyo.ac.jp/wp-content/uploads/2019/11/568933105c54d3b74ad6752d3b77e9f9.pdf

2.陥没と漏水の関係

私たちの身近なところでは、道路の下にある水道管などの地下埋設物に起因する小規模な陥没が比較的頻繁に発生しています。国土交通省の資料によると、地震以外が原因となっている人口空洞による道路陥没事故は、年々減少傾向にあるものの、令和の現在でも年間で2,700件も発生しています。
(引用:https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/sewerage/crd_sewerage_tk_000135.html)

原因別道路陥没件数の推移

地下埋設管などが老朽化すると、穴が開いたり、継ぎ目に隙間ができたりすることで、周囲の土砂が管内に吸い込まれ、その結果として管の周囲に空洞ができます。そして、空洞が大きくなると地盤が支えられなくなり、地上で陥没が起こります。日本の地下には、水道管だけでも地球11周分以上に相当する合計46万キロメートルが埋まっており、そのうち老朽化したものは全国で10万カ所以上あると言われているので、どこで陥没事故が起こっても不思議ではありません。

3.陥没で何が困るのか?

陥没穴が発生すると、地下の水道管が破損することがあります。このような状況では、地下水が漏れ出し、地盤が軟弱化して更なる陥没穴の発生を招くことがあります。また、地下水が地面に浸み出すことで、道路や歩道などに水たまりができ、陥没穴が発生する場所は、交通量が多い道路や歩道であることが多いため、通行の妨げになることがあります。さらに、陥没穴が発生する場所においては、地下の配管やケーブル類が破損することで、断線、断水、停電などの問題が起こることがあります。これらの問題によって、交通の混乱や経済的損失、住民生活の不便さなどが生じる可能性があります。

加えて、水道管の破損による断水や浸水被害が発生するだけでなく、下水道が詰まって排水が滞留することで、下水が逆流して家屋や道路などに浸水被害が発生する可能性があります。このような被害は、下水道の復旧まで長期間にわたって続く場合があり、非常に厄介な問題となります。

4.陥没の原因となる空洞の探査方法

陥没の原因となる空洞を探査するために、従来の方法として地中レーダーが用いられてきました。

一般的なレーダーは目標物に向けて電波を発射し、電波を発射してから反射波が戻って くるまでの往復時間電波照射方向から目標物の位置、また反射波の強さから目標物の形状や速度を知る装置です。雨や雲などを計測する気象レーダーや船舶や航空機の位置を検知する目的で多くのレーダー装置が利用されています。

地中レーダーは、電波を空中ではなく地面や構造物の輻射面を向けて発射し、内部からの反射波を計測(周波数毎の時間、強度、波形)することで埋設物の検知や内部構造物を計測する手法です。地中レーダーを用いて地下の空洞を探査することで、陥没の原因となる空洞を発見することができます。

しかし、地中レーダーには限界があります。地中レーダーは、地下深くまでの探査が難しく、地下の水分や電気伝導度の違いによって、精度が低下する場合があります。

高度経済成長期に整備された公共インフラ(道路、トンネル、鉄道、港湾、空港、上下水道等)の多くが、設置後30年を経過し、老朽化への対応が国家的課題になっています。そのため、地中レーダー技術等の更なる活用、 新技術との複合により、インフラの効率的な維持管理・更新に向けたメンテナンス分野での利用拡大が求められています。

5.陥没の観測方法

地中レーダーを用いることにより、地下の空洞を事前に探査することで、事前に陥没へ対応することが可能となります。ただし、多くの地中レーダーが手押式であり、日本の地表面全てを地中レーダーで探査することは現実的ではありません。

そこで、航空機、ドローンを用いたレーザー測量技術や人工衛星を用いたリモートセンシング技術で、地下空洞ではなく地表面に発生している陥没を観測する方法があります。

航空機やドローンを用いたレーザー測量技術は、航空機等から発射されるレーザー光線を地面に照射し、反射光を受信することで地形を測量する技術です。

出典:航空レーザ測量の計測イメージ

測量により、地面の正確な3Dモデルを構築することで、地表面の陥没を把握することができます。

航空機やドローンが飛行できる範囲で測量が可能なため、地中レーダーよりも広範囲に地面の陥没を把握することが可能です。

6.人工衛星リモートセンシングによる陥没の観測方法

それでは航空機・ドローンよりも広範囲に陥没を観測できる方法とは何でしょうか? ここでは、人工衛星を用いた陥没の観測方法を解説します。

陥没の観測に利用するセンサは、SAR(合成開口レーダ)です。対象物に対して電波を放射し、その反射波の強さや位相で対象物の状態を知ることができる能動型センサです。電波は雲を通過するため、昼夜問わず、また天候に左右されずに観測可能です。

地球観測衛星に搭載されるセンサについて、2023年3月31日のTenchijin Tech Blogで解説しています。合わせてご覧ください。

https://note.com/tenchijincompass/n/n5721c639b92c#aad480fa-5113-47f5-9fbc-23719c2f1c29

SAR画像は、白・灰色・黒のグレースケールで提供されます。放射される電波の周波数帯によってやや違いはありますが、地表面の粗さに応じて明るさ(白・灰色・黒)が異なる特徴があります。

下のSAR画像を見ると、建物が白っぽく、田畑が灰色っぽくうつっています。

出典:SAR画像の例

しかし、SAR画像単体では、陥没の観測はできません。ここで使われるのが干渉SARという技術です。

干渉SARは、道路陥没以外にも、地盤沈下、構造物の変動、地すべりなどのモニタリング、地震・火山活動の評価等に使われています。

以降、干渉SARについて技術的な視点を交えた解説を記載していきます。

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