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【地表面温度って知ってる?】衛星データで地球課題を解決するJAXAベンチャーの話

天地人は、2050年にも持続可能な地球環境を目指して活動するJAXA認定ベンチャーです。宇宙ビッグデータをWebGISサービス「天地人コンパス」で解析・可視化することで、まだ誰も気付いていない土地の価値や地球の資源を明らかにするサービスを提供しています。

この度天地人では、「人工衛星データ」の理解度を深めていただくことを目的としてセミナーを実施いたしました。テーマは「気温と地表面温度って何が違うの? JAXAベンチャーが語る、衛星データと暮らしの話」。
この記事では、セミナーの内容を一部抜粋してお届けします。当日お越しになれなかった方にも衛星データ、とりわけ地表面温度と天地人について興味を持っていただけますと幸いです!

【喋る人】

庄 晋太郎(しょう しんたろう)
衛星リモートセンシングエンジニア
自動車メーカーの品質管理職を経て2023年株式会社天地人に入社。電磁気を用いた非破壊検査等、センシング技術を専門とし、宇宙との掛け合わせで現在は衛星データを取り扱う。国交省「交通運輸技術開発推進制度」における研究開発に参画し、気象衛星を利用した地表面温度推定に関わる解析業務をリード。データエンジニアリング業務も担う。

上村 遥子(かみむら ようこ)
事業開発
国内最大級のものづくり支援スペース「DMM.make AKIBA」のコミュニティマネージャーを経て、公的機関および民間企業でのスタートアップ支援に7年以上従事。オープンイノベーション、コミュニティ、テクノロジーなどをキーワードに200以上の企画設計や登壇を実施。世の中に多くの挑戦者を増やすことを人生ミッションに、越境視点を持つためパラレルキャリアを歩む。異なるコミュニティに橋をかけることが好き。JSTサイエンスアゴラ推進委員も務め、2022年に長野市に移住。

気温は「空気」の温度、地表面温度は「地面」の温度

セミナーはオンラインで開催されました

庄:天地人で衛星リモートセンシングエンジニアをしています庄(しょう)です。現在天地人では「地表面温度」という指標を絶賛推している最中なのですが、まずは私から「地表面温度とは何か」について、説明していきます。
最もシンプルに説明すれば、気温は「大気(空気)」の温度のことで、地表面温度は「地面」の温度のことです。ただこれだけでは「それで何かが変わるの?」と感じる方も多いと思います。もう少し踏み込んで説明すると、気温と地表面温度では計測方法が違うんです。

気温を測るための機器、通風筒(出典:仙台管区気象台

「気温」は既に天気予報等で馴染み深い指標かと思いますが、これは高さ1.2m~1.5mで風通しのよい、日陰で計測することと定められています。一方で地表面温度は地面の温度そのものであるため、極端な話1cmごとに温度が変わります。暑い夏の日のアスファルトと芝の温度が違うことをイメージすれば分かりやすいですよね。
天気予報士が「本日の最高気温は30℃です!」と言った日は、日陰の温度が30℃に達する、ということなんです。一方で私たちの「体感温度」というものは気温だけでなく、湿度や日射、風や着衣量など様々な指標で構成されています。その中の一つとして、地表面温度があるんです。

庄:上の図を見てもらえれば分かるように、地面に近い人(動物)ほど地表面温度の影響を多く受けます。大人が「今日の最高気温は30℃だから、散歩に出かけてもいいだろう」と判断したとしても、日射の激しい昼間であれば地表面温度は50℃近くに到達していることもあり、その場合直接地面に肉球を触れる犬にとっては命取りにもなりかねません

庄:2024年夏、最も気温が高かったのは栃木県佐野市での41.0℃でしたが、地表面温度に関しては山梨県甲府市の65.7℃が最高でした。皮膚に接すれば瞬時に熱傷となる熱さです。この日は全国的に気温も高く甲府市でも40℃を越えましたが、地表面温度とは25℃以上も乖離があります。

▲衛星データで見る甲府市の土地利用の変遷。赤が都市部、緑が緑地を示しており、1985年から20年で都市化がかなり進んだことが分かる。天地人公式Xより

庄:地表面温度は全国的に年々上昇の一途を辿っていますが、これには地球温暖化による気温の上昇や都市化の進行など、複数要因が絡んでいると私たちは考えています。また海風のある沿岸部より空気が滞留しやすい盆地の方が地表面温度が上がりやすいように、地形によっても傾向が分かれます。

参加者:いずれ地表面温度も天気予報で扱われるようになると思いますか?

庄:ご質問ありがとうございます! 今後地表面温度に関するデータと知見が蓄積された先で法則性が見出されることがあれば、そういったこともあるかもしれません。いずれにしても私たちは地表面温度を気温や湿度と同じくらい価値のある指標だと考えているため、もっともっと多くの方に知ってもらいたく、そのために観測と考察、情報発信を頑張っているところです!

人工衛星データは「写真」だけじゃない! 人間の目には見えない「波」も捉える

上村:実は普段意識していないだけで、私たちが衛星データに触れる機会って結構あるんですよ。例えばグーグルマップは、人工衛星が撮影した写真データを活用したwebGISサービスです。カーナビなどで使われるGPSデータも衛星データの一つです。

上村:衛星データというと「宇宙から地球を撮影した写真」をイメージする方も多いと思いますが、実は人間の目では捉えられない多様なデータを取得することができるんです。

庄:これまでにお話ししていた地表面温度もその一つですね。地表面温度の算出自体は天地人独自のアルゴリズムを元に行っていますが、その入力となるのは人工衛星が捉えた「電磁波」です。物体が発する電磁波はそれ自身が持つエネルギーによって異なるため、人工衛星が捕捉した電磁波の情報を元に、物体の持つエネルギーを逆算し、最終的に地表面の温度を求めているわけです。このように、人間の目には見えないけれど確かに存在するものを、人工衛星を活用すれば観測することができるんです。

上村:2022年には、1.3万基もの衛星が地球の周回軌道を旋回していて、常時観測を続けています。加えて現在最も古い現役の人工衛星が1965年に打ち上げられたものであることからも分かるように「非常に長い時間観測をし続けられる」というのが人工衛星の特徴の一つと言えます。

天地人の「地表面温度」活用例。水道管の漏水リスク管理から米の適地分析まで

庄:次に、天地人では衛星データをどんなソリューションに活用しているかをご説明します!

庄:天地人では衛星データを活用し、水道管の漏水リスクを管理する「天地人コンパス 宇宙水道局」というサービスを展開しています。
現在日本では年間2万件以上の漏水事故が発生しており、耐用年数を越えた水道管だけで16万km(なんと地球4周分!)もあると言われています。これを従来の人力による点検で解決しようとすると膨大なコストを要してしまうため、衛星データとAI技術を駆使し、漏水リスクの診断や、点検・修繕などの記録管理をサポートするのが本サービスの概要となります。

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庄:地表面温度はAIを使って漏水リスク評価(劣化予測・劣化診断)をする上でも重要な指標になります。評価項目の内訳としてほんの一例ですが、

水道管自体の情報:敷設年や材質など
水道管が埋設されている環境:地形や地質など
水道管の上の状況:人口密度や道路状況、地表面温度など

これらをAIに学習させ、広い視野で分析を行っています。水道管は地表面近くに埋設されているため、地表面温度の影響を強く受けることは想像に容易いはずです。低温の場合は凍結の恐れもありますし、高温による影響もあります。先の例に挙げた甲府市の地表面温度:65.7℃は水道管にダメージを与えることも考えられますね。

宇宙ビッグデータ米&月面アスパラガス

庄:他にも、衛星データを活用した天地人FARMという取り組みもあります。「気候変動に対応したブランド米をつくる」ことを目的として、衛星データを活用し新たな米栽培の適地を探し出します。「宇宙ビッグデータ米」というプロジェクトでは、実際に探し出した適地(山形県)で米の生産を行い、実際に1等米の評価をいただきました。

上村:とある社員のアスパラガス愛が高じた結果始まった「月面アスパラガス」というプロジェクトもあります。米と同じく気候変動に対応した野菜作りを実現するべく、「地球より過酷な環境で野菜を育てるノウハウを構築し、それを地球の農業にフィードバックする」ことを目的とし、最終的には月面でのアスパラガスの栽培成功を目指すものです。現在Phase2として、鳥取砂丘での栽培実証を行っているところです。

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庄:当たり前ですが作物は地面から生えてくるため、農業分野でも地表面温度は非常に重要な指標です。元々農家さんはそれぞれで地表面温度を計測していて、その変化に応じ稲作であれば水門の開け閉めを人力で行っていたのですが、農業就業人口の減少に伴い効率化が求められる中で、衛星データとAIを活用した上記のソリューションが誕生しました。
他にも風力発電所の適地探し水田から排出される温室効果ガスを推定する方法論の開発(特許出願中)など、人工衛星領域に強みを持つJAXAベンチャーならではの特性を活かし、プロダクトの開発・運用を進めています。

誰でも無料で使える「天地人コンパス」で、衛星データに触れてみよう

天地人コンパスの動作画面

庄:衛星データは私たちの暮らしにまつわる課題に対し“宇宙視点”での解決策を提示してくれるものとして有用ですが、一般の方、とりわけ非エンジニアや非宇宙関係の方にとっては、データ単体では取り扱い方が分かりにくく難しいものです。
そこで天地人では、一般の方でも衛星データに楽しく触れることができるよう「天地人コンパス」というwebGISサービスを提供しています。ブラウザ上で誰でも無料で使うことができます。

【天地人コンパスの使い方についてコチラの記事をご参照ください!】
天地人コンパスの使い方-利用登録から基本操作まで-

上村:衛星データ(写真)をベースに、地表面温度や土地利用土地被覆図、傾斜量図などのレイヤーを重ねることで、衛星データを通して見た地球を直感的かつ視覚的に楽しむことができます。

登録のみで無料で使えます!

庄:衛星データ活用の魅力に触れる最初のきっかけとして是非、好き放題遊んでみてください!

まとめ。地球規模の課題に対し、宇宙視点で解決策を

上村:地球規模で起こっている気候変動や人口増加、対して国内では労働人口がどんどん減少しており、これら未曾有の課題に対し既存のアプローチではなく、新たな方向から解決策を講じる必要があります。
これまで宇宙産業というと宇宙開発がメインだったため国家プロジェクトとして政府主導で推進されていた部分が大きく、民間企業が参入する隙間を探すことは難しい状態が続いていました。しかしここ数年、宇宙開発から宇宙ビジネスへ、という転換が起きており中でも衛星産業が全体の7割を占める牽引ドライバーとして期待されています。

上村:それらをビジネスチャンスとして捉えつつ、一方でより高い視座(宇宙視点)に基づき長期的な目線から、地球に優しく持続可能なソリューションを考え続けていく必要があります。そしてそれは天地人だけでなく、地球に住む皆さんを含む全員で考え、実行していくべきタスクでもあります。

「衛星データでこんなこと、できますか?」
「天地人と連携して何かしたい!」

などなど、天地人に興味を持っていただいたタイミングで、いつでも気軽にご連絡いただけると嬉しいです!
そして今、天地人では宇宙・エンジニアリング関連や企業文化にまつわる情報発信をとっても積極的に頑張っているので、少しでも興味を持っていただいた方は、フォローをしていただけますと幸いです!

庄:今後も皆さんのお役に立てるイベントやセミナーを開いていきたいと思っているので、是非お楽しみに! 本日は私たちの話を聞いていただき、ありがとうございました!

上村:ありがとうございました!

庄と上村でした!

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