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宇宙から飛行機・船舶の動きが見えるってホント? 〜全地球規模でのモニタリング技術とは〜

天地人は、衛星データを使った土地評価コンサルを行っているJAXA認定ベンチャーです。地球観測衛星の広域かつ高分解能なリモートセンシングデータ(気象情報・地形情報等)や農業分野の様々なデータを活用した、WebGISサービス「天地人コンパス」を提供しています。

Tenchijin Tech Blogでは、宇宙に関連するさまざまな最新情報を、天地人のエンジニア、研究者、ビジネスリーダーが一歩踏み込んで解説します。

進化しすぎたリアルタイムトラッキングとは!?
フロリダ州の大学生ジャック・スウィーニーは、イーロン・マスクをはじめとする富豪や著名人のプライベートジェットのフライトを追跡するアカウントを運営しています。昨年12月、彼はテイラー・スウィフトの弁護士から「法的措置をとる」という脅しの書簡を受け取ったと報じられました
今では、フライトの位置情報は航空会社のみならず、ウェブサイトやアプリ上で誰でもアクセスできるような時代になっています。リアルタイムトラッキングのおかげで、フライトの時間短縮や安全性が改善された裏では、個人のプライバシーが問題視されています。今回は、海外で話題になっている飛行機・船舶のリアルタイム追跡技術について、天地人海外事業開発部インターンの米陀が解説いたします。

1.電波モニタリング衛星って知ってる?

電波モニタリング衛星とは、電波を発信する送信機を搭載している航空機や船舶等について、その電波を検知し、航空機(ADS-B)や船舶(AIS)の位置情報をモニタリングする衛星です。従来では、地上に設置してある受信機によりADS-BやAISの位置情報を受信していましたが、陸上からの通信範囲が限られ、洋上を移動している航空機や船舶の位置を把握することはできませんでした。そこで、航空機や船舶からのメッセージを受信する機能を搭載された電波モニタリング衛星を打ち上げ、地球全体で航空機や船舶の位置をリアルタイムでモニタリングできるようになったのです。この電波モニタリング衛星は具体的にどのような衛星なのか見ていきましょう。

電波モニタリング衛星は低軌道衛星(Low Earth Orbit Satellite、LEO)を活用していることが多いです。LEO衛星は、地球の周りを比較的低い高度で周回する人工衛星です。一般的に、LEOは地球から数百キロメートルから数千キロメートルの高度に配置されます。以下に、LEO衛星がADS-BやAISの検知に活用される利点について詳細に説明します:

  1. 広範囲のカバレッジ: 海洋や極地、遠隔地などの広大な領域でも航空機や船舶の位置情報を受信し、追地球全体での跡することができます。

  2. リアルタイムの情報提供: 航空機や船舶から送信されたADS-BやAIS信号をリアルタイムで受信し、地上の管制センターや船舶の交通監視センターに即座に提供します。

  3. 遅延の低減: 地上の受信局との通信が不要なため、情報がより迅速に伝送されます。これにより、航空機や船舶の位置情報がリアルタイムで提供され、追跡がより効率的に行われます。

  4. 信頼性の向上: 地上の受信局や通信インフラに依存せずに情報を提供するため、信頼性が向上します。地上の受信局が故障した場合でも、衛星を通して情報を取得することができます。

これらの利点により、電波モニタリング衛星はADS-BやAISなどの航空および海上の追跡システムにおいて重要な役割を果たしているのです。

2.飛行機・船舶の追跡

電波モニタリング衛星に搭載されているADS-BとAISとは、一体どのようなシステムなのでしょうか?

まずは、航空機を追跡することができる放送型自動従属監視システム(ADS-B; Automatic Dependent Surveillance-Broadcast)について詳しく説明します。

出典:Aireon

1)Automatic(自動): ADS-Bは航空機に搭載された装置が、自動的に航空機の位置や動作状況を生成し、地上の受信局や他の航空機に情報を送信します。つまり、情報の生成や送信が人間の介入なしに自動的に行われることを意味します。

2)Dependent(従属):航空機に搭載されたGPS(Global Positioning System)や航法システムなどの装置は航空機の位置や速度などの情報を生成し、ADS-Bがその情報を受信して広範囲に放送します。つまり、ADS-Bは航空機自体が発信源であり、自動的に生成された位置情報を他の航空機や地上の受信局に提供するために、航空機の装置に従属しています。

3)Surveillance(監視): ADS-Bは航空交通の監視システムの一部であり、地上の管制官や他の航空機は、ADS-Bを使用して航空機の位置や動作状況をリアルタイムで監視します。

4)Broadcast(放送): ADS-Bは航空機から地上の受信局や他の航空機に向けて、航空機の位置や動作状況を広範囲に「送信」します。航空機が自動的に生成した情報をブロードキャスト=放送することで、他の航空機や地上の受信局がリアルタイムで情報を受け取ることが可能です。しかし、これは一方的に放送しているため、全ての情報が受信された確証はありません。

ADS-Bによって送信される情報は、航空機の位置や動作状況に関するさまざまなデータです。具体的には以下のような情報が送られます。

  1. 航空機の位置情報: 

    • 航空機の緯度と経度

    • 航空機の現在位置が正確に把握されます。

  2. 航空機の高度情報: 

    • 航空機の高度や高度層

    • 他の航空機との安全な飛行間隔が確保されます。

  3. 航空機の速度情報: 

    • 航空機の地上速度や垂直速度

    • 交通の流れや衝突回避が管理されます。

  4. 航空機の航空機種別情報: 

    • 航空機の種別や識別子

  5. その他の情報: 

    • 航空機の目的地や航路など

これらのADS-Bデータは2011年頃より人工衛星からもトラッキングが可能になりました。Flightradar24などのウェブサイトでもこの手法が利用され、一般の人でもインターネットで受信セットを購入すれば、容易に航跡データを取得できます。しかしながら、全ての航空機の航跡を取得できるわけではありません。

国外ではADS-Bを民間航空機に義務付ける国が増えていますが、日本ではまだそのような規定はありません。そのため、一部の国内線や古い航空機体、小型のプロペラ機、ヘリコプターなどはADS-Bを搭載していない場合が多く、それらの航跡データを入手することはできません。

成田空港や関西空港のような国際線の多い空港では航跡データの取得率が90%以上ですが、国内線の多い地方の空港では50%程度となることもあります。また、軍用機は一部の例外を除いて(民間機を軍用に転用したものなど)、ADS-Bを搭載していません。

続いては、船舶を追跡することができる船舶自動識別装置(AIS:Automatic Identification System)について詳しく説明します。

出典:海上保安庁

船舶自動識別装置(AIS)の信号は、2008年頃より人工衛星からもトラッキングできるようになりました。AISは、船舶の識別符号、種類、位置、針路、速力、航行状態及びその他の安全に関する情報を自動的にVHF帯電波で送受信し、船舶局相互間及び船舶局と陸上局の航行援助施設等との間で情報の交換を行うシステムです。送受信される情報は大きく3つに分けられます。

  1. 動的情報

    • 位置情報

    • UTS

    • 対地針路・速度

  2. 静的情報

    • IMO番号

    • 船の長さと幅

    • 船の種類

  3. 航海関連情報

    • 船の喫水

    • 危険貨物

    • 目的地

などです。AIS情報の送受信はVHF帯電波で行われ、自船の近隣にいる他船に自船の情報を伝えることができます。これにより、他船との衝突事故を回避し、船の安全航行に役立てています。

AIS情報を送受信しているVHF帯電波は、直進性があり、電波の回り込みが少ないという特徴があります。そのため近隣の船や陸上との情報のやり取りができる距離は、水平方向に50km程度に留まります。

というのも、地球が丸みを帯びているため、電波が直進することで、陸上の送受信所にAIS情報が届かないのです。そのため、陸上の送受信所では、日本の近海を航行している船舶のAIS情報しか受信できません。

一方で、垂直方向、つまり船の上空である宇宙空間に向けては、電波が直進するため、数百kmに渡り、AIS情報が送受信可能です。
この電波の特徴に注目した、カナダの航空宇宙関連メーカであるCOM DEV International により、2008年にAISの受信機を搭載した人工衛星が打ち上げられました。
これにより、宇宙でAIS情報の受信が可能となったのです。

これまで、陸地から50kmを航行している船舶のAIS情報しか取得できなかったのが、人工衛星により、地球上のすべてのAISを搭載している船舶のAIS情報が受信可能となりました。

この船舶自動識別装置(AIS)について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください!

3.飛行機・船舶を追跡すると何がうれしいのか?

AISやADS-Bはどのように活用され、どのような利点があるのか、実際のアプリケーションをいくつか紹介していきます。

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