【特集】宇宙で破壊的イノベーションを起こすのは誰か?米国の宇宙関連スタートアップの最新情報
天地人は、衛星データを使った土地評価コンサルを行っているJAXA認定ベンチャーです。地球観測衛星の広域かつ高分解能なリモートセンシングデータ(気象情報・地形情報等)や農業分野の様々なデータを活用した、土地評価サービス「天地人コンパス」を提供しています。
天地人は、昨年11月にBerkeley SkydeckとJETROが主催する「Startup Cityプログラム」に採択されました。Berkeley Skydeckは、カリフォルニア大学バークレー校による、スタートアップ企業向けの米国トップアクセラレーター・インキュベータープログラムです。天地人は当プログラムに参加することで、米国市場への参入や資金調達の機会を探索をしています。
米国は、世界最大の宇宙産業市場を擁しており、宇宙関連スタートアップの創業数も最大です。本日は、天地人が注目する米国の宇宙関連スタートアップを紹介します。
米国の衛星市場
2020年の世界の衛星関連産業市場は3,710億ドルで、うち商用が2,710億ドル、公用(商用有人宇宙旅行を含む)が1,007億ドルとなっています。
商用市場の大半を占めているのが、衛星関連サービス(44%)と地上設備(50%)です。衛星関連サービス分野には、
ブロードバンドインターネット・テレビ放送等の通信
農業・災害・セキュリティ向けのリモートセンシング
のような、人工衛星を利用するサービスが含まれます。
地上設備分野には、
通信関連の管制センター・地上局
GPS・衛星放送の受信機
等、各設備の製造・販売・運用が含まれます。
米国は衛星関連産業市場のうち、衛星関連サービス・衛星の製造・衛星の打ち上げ分野で、世界最大のプレーヤーとなっています。
米国の宇宙関連スタートアップ市場
2020年の世界における宇宙関連スタートアップへの投資額は76億ドルで、2000年以降20年間で過去最高額となりました。その投資額の67%を受け取ったのが、米国の宇宙関連スタートアップ企業です。
受け取った投資額上位9社のうち、6社が米国のスタートアップ、3社が中国のスタートアップとなっています。
6社の内訳を見ていくと、
SpaceX(ロケット打ち上げ、衛星通信コンステレーション)
OneWeb(衛星通信コンステレーション)
Blue Origin(有人宇宙旅行、ロケット打ち上げ)
Relativity(ロケット製造技術)
Virgin Galactic(有人宇宙旅行、ロケット打ち上げ)
KYMETA(衛星通信用機器製造)
となっており、有人宇宙旅行、ロケットの打ち上げ、衛星通信コンステレーションの構築のように、巨額のコストが必要となる事業への投資が大半であることがわかります。
また、2021年時点で世界の宇宙関連スタートアップは1万社以上おり、その56.4%が米国のスタートアップ(6,477社)となっています。なお、日本は193社で12位です。
このように、世界の宇宙関連スタートアップ市場は、投資額、スタートアップの起業数共に米国が世界の中心となっています。
注目の米国宇宙関連スタートアップの紹介・解説
ここでは、今後宇宙業界で、破壊的イノベーションを起こす可能性のある技術を有する米国のスタートアップを5社ご紹介します。また、この5社がなぜ破壊的イノベーションを起こすのか、JAXAと天地人を兼業しているエンジニアが解説します。
CANNAE
CANNAEは、2006年創業でペンシルベニア州を本拠地とするスタートアップです。推進剤を搭載せずに推進することが可能なスラスター(推進器)を開発しています。電磁気的な力を発生させ推進力にすることで、通常のエンジンのように推進剤を必要としません。このスラスターを利用して、キューブサット(超小型衛星)や大型衛星の推進・姿勢維持を、低重量・低コストで実現可能にします。
CANNAEの技術:推進剤を必要としない推進機
人工衛星にとって推進剤を必要としないことの一番のメリットは衛星の稼働寿命が延びることです。
人工衛星の従来の推進方式は、ヒドラジン等の推進剤の燃焼による化学反応エネルギーにより推力を発生させる化学推進です。この方式では、搭載した推進剤を使い果たすと所定の軌道・姿勢を維持できなくなるため、静止衛星の寿命は推進剤の搭載量で決まると言われています。
こういったデメリットを解消するために、宇宙空間で燃料補給を行う軌道上サービスシステムの検討や、高い比推力(=低燃費)が特徴である電気推進の搭載や研究開発が進んでいます。
一方で、イオンエンジンに代表される従来の電気推進の方式でも、推進剤(キセノン等)を搭載する必要がありますし、推進機自体の質量も当然あります。
今後、CANNAEが開発した推進剤を必要としない電気推進方式が、従来の化学推進・電気推進方式と比較して、質量、体積、推力、推力電力比(=燃費)等の点で優位性があれば、新しい推進方式として様々な衛星に搭載される可能性があると考えられます。
(解説:上田敦史 天地人エンジニア 兼 元JAXA 宇宙ロボット開発・運用エンジニア)
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