人工衛星に寿命ってあるの?
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今回の記事では「人工衛星に寿命ってあるの?」というテーマで、様々な角度から人工衛星の寿命について紹介していきます。
1.寿命の定義
人工衛星は、地球の周回軌道に打ち上げられ、様々な目的でデータを提供したり、通信をサポートしたりしています。しかし、人工衛星にも「寿命」があります。この寿命は、一般的に「設計寿命」と呼ばれるものであり、衛星の運用開始時に定められた期間を指します。この設計寿命は、人工衛星が正常に機能できると予測される期間であり、通常は5年から15年程度です。設計寿命は、打ち上げ前の設計・製造段階で見積もられ、これには様々な技術的な要因が影響を与えます。
まず、設計寿命を決定する要因の一つとして「燃料の枯渇」があります。人工衛星は軌道を維持し、姿勢を制御するために推進剤(燃料)を使用します。推進剤がなくなると、人工衛星は正しい軌道を保てなくなり、運用が終了することがあります。通常、この燃料の量は衛星の設計時に計算され、打ち上げ後に推定された軌道の維持期間が寿命に直結します。
また、「部品の劣化や故障」も人工衛星の寿命を制約します。宇宙空間は極端な温度変化や強い放射線にさらされるため、部品や材料が予想以上に早く劣化することがあります。例えば、人工衛星に搭載されている電子機器や機械部品は、打ち上げ時から少しずつ劣化し、最終的には機能しなくなる可能性があります。このため、部品の信頼性を高め、長期的な運用が可能な設計が求められます。
さらに、人工衛星の寿命には「バッテリー」や「太陽電池パネル」の性能も大きな影響を与えます。多くの人工衛星は、太陽電池パネルを展開して太陽光をエネルギー源とし、発電した電力をバッテリーに蓄えて運用されています。しかし、太陽電池パネルやバッテリーも時間と共に劣化します。太陽電池は、長期間宇宙空間で使用されると出力が低下し、最終的には電力を十分に供給できなくなります。また、バッテリーも充電と放電を繰り返すうちに容量が低下し、衛星の運用が不安定になります。
こうした技術的な要因を総合して、人工衛星の設計寿命は決定されますが、興味深いのは、多くの人工衛星が設計寿命を超えても運用を続けることがあるという点です。例えば、設計寿命が10年とされた衛星が、20年近くも正常に運用されるケースもあります。これは、衛星の設計が非常に優れていたり、想定よりも宇宙環境が穏やかであったり、または燃料や部品の消費が予想よりも少なかったためです。実際、JAXAが運用しているいくつかの人工衛星も、設計寿命を超えて長期間にわたりデータを提供し続けています。
一方で、設計寿命を迎えた衛星はそのまま放置されるわけではありません。スペースデブリと呼ばれる問題があるため、寿命を迎えた衛星は軌道を変更して地球大気に再突入させたり、特定の「墓場軌道※」に移動させることが求められます。これにより、将来的な衝突リスクを減らし、他の人工衛星や宇宙ミッションへの影響を最小限に抑えることが重要視されています。
総じて、人工衛星の寿命は設計段階である程度の期間が想定されますが、技術の進歩や予期しない環境要因により、その運用期間が延びたり短縮されたりすることがあります。今回は以下の原因が人工衛星の寿命に関わることを紹介しました。
・燃料の枯渇
・部品の劣化や故障
・「バッテリー」や「太陽電池パネル」
運用期間の延長は、人工衛星にかかるコスト削減や資源の有効活用という観点からも望ましいことであり、将来的にはさらに長寿命な人工衛星の開発が進められることが期待されています。
参考
https://www.satnavi.jaxa.jp/ja/satellite-knowledge/whats-eosatellite/lifetime/index.html
https://fanfun.jaxa.jp/faq/detail/68.html
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/059/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2015/06/08/1358245_6.pdf
2.人工衛星が寿命を迎えることで直面する課題
人工衛星が寿命を迎えた後には、いくつかの課題が発生します。その中でも特に重要なのが、先程の章でも少し触れた「スペースデブリ」の問題です。スペースデブリとは、宇宙空間に漂う廃棄された人工衛星やロケットの残骸、破片などを指します。これらのデブリは制御不能となり、高速で地球の周回軌道を移動しています。スペースデブリは現在、地球を周回している衛星や国際宇宙ステーションにとって深刻な脅威であり、宇宙環境における最も重大なリスクの一つです。
人工衛星が寿命を迎え、運用が終了すると、多くの場合、推進剤やエネルギーが尽きてしまいます。その結果、衛星は制御不能となり、軌道上を漂い続けることになります。これがスペースデブリとして残り、他の衛星や宇宙ミッションに衝突するリスクを生じさせます。特に低軌道(LEO:Low Earth Orbit)では、デブリの数が多く、ミッションの安全性を確保するためにはデブリ回避のための細かな軌道調整が必要となることもあります
LeoLabsのデータによれば、現在軌道上には数十万個ものスペースデブリが存在し、その大きさは10センチメートル以上のものから、数ミリメートルの破片まで多岐にわたります。LeoLabsは、地上からスペースデブリを追跡する技術を持っており、その観測結果から、軌道上のデブリの密度が年々増加していることが確認されています。特に、高度500~1200キロメートルの範囲はデブリの集中ゾーンとなっており、この領域での人工衛星運用は特にデブリとの衝突リスクが高いとされています。
人工衛星が寿命を迎えた後に直面するスペースデブリの問題は、今後の宇宙開発の持続可能性に大きく影響を与える課題です。技術的な進展とともに、各国が協力してスペースデブリの管理と減少に取り組むことが重要です。スペースデブリについては過去にこちらのnoteで紹介していますので、興味がある方はぜひ詳細はご覧ください。
3.人工衛星の寿命を延ばす技術
人工衛星の寿命を延ばすための技術は、近年大きな注目を集めており、その中でも特に注目されているのが「軌道上燃料補給技術」です。人工衛星は、設計寿命を超えても技術的には稼働を続けられる場合がありますが、推進剤(燃料)が枯渇すると軌道の維持や姿勢制御ができなくなり、運用終了を余儀なくされることが多くあります。そこで、燃料を補給する技術があれば、人工衛星の寿命を延ばすことができ、宇宙資源の効率的な活用や経済的な効果が期待されます。現在、複数の企業や機関がこの技術開発を競い合っています。
まず、注目される企業の一つが「Orbit Fab」です。Orbit Fabは、宇宙での燃料供給ステーションの構築を目指しており、「宇宙版ガソリンスタンド」としての役割を果たす技術を開発しています。彼らは2021年にISS(国際宇宙ステーション)で燃料供給の実証実験を行い、地球外での燃料補給が実現可能であることを示しました。また、彼らの技術は、衛星間で燃料を交換するだけでなく、将来的には軌道上の衛星すべてに燃料供給を行うネットワークを構築することを目指しています。
次に、アストロスケール社はデブリ除去技術と軌道上燃料補給技術の両方に取り組んでいます。彼らは2022年、JAXAと連携して「ELSA-d」ミッションを成功させ、デブリを捕捉し、将来的に除去する技術を実証しました。これに加え、彼らは寿命を迎えた人工衛星に燃料を供給し、運用を延命させる技術の開発にも積極的です。デブリ除去と燃料補給という二つの課題に同時に取り組むことで、宇宙環境の持続可能性を高めることが期待されています。
一方で、ノースロップ・グラマン社は、すでに実際に軌道上で燃料補給を実施しています。同社は「MEV(Mission Extension Vehicle)」という宇宙船を開発し、静止軌道にある通信衛星にドッキングして燃料を補給する技術を実証しました。2020年には、初めて静止軌道上での燃料補給に成功し、米軍をはじめとする複数の顧客にサービスを提供しています。ノースロップ・グラマンは、今後さらに多くの衛星に対してこの技術を提供し、燃料不足による衛星の運用停止を防ぐことを目指しています。
このように、複数の企業が軌道上燃料補給技術の開発に取り組んでおり、誰が最初に商業的な成功を収めるかが大きな関心を集めています。また、この競争にNASAも関与していました。NASAは2015年から軌道上での燃料補給技術の開発に取り組んでおり、衛星に補給機を接続するための技術や、将来的には火星ミッションの燃料供給にも応用できる技術を研究していました。しかし、今年3月にこのプロジェクトは中止となり、今後は民間企業に技術開発の道を譲ることとなりました。
軌道上燃料補給技術は、人工衛星の運用期間を飛躍的に延ばす可能性があり、今後の宇宙開発における重要な要素となるでしょう。各企業が競い合いながら技術を磨き、実用化に向けた競争が進んでいます。技術の完成と普及が実現すれば、人工衛星の寿命が大幅に延び、地球周回軌道の資源をより効率的に活用できる未来が期待されています。
参考
https://forbesjapan.com/articles/detail/62715
https://www.jaxa.jp/press/2022/12/20221207-1_j.html
https://x.gd/Bg2Hh
https://sorabatake.jp/35721/
4.最も長寿命の人工衛星とは?
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