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人工衛星や宇宙探査機の様々な延命パターンを解説

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今回の記事では「人工衛星や宇宙探査機の様々な延命パターン」というテーマで、様々な角度から延命方法について紹介していきます。こちらの「人工衛星に寿命ってあるの?」の記事を読んでからご覧いただくとより楽しめる内容になっています。


1. 宇宙探査機・人工衛星・宇宙望遠鏡の違い

人工衛星や宇宙探査機は設計寿命が定められていますが、それを超えて運用されることがあります。今回の記事では、設計寿命を超えて長く運用された宇宙探査機や人工衛星、宇宙望遠鏡を取り上げ、延命のためにどのような工夫や技術が使われたかを紹介します。まず、今回紹介する機体の種類を簡単に紹介しましょう。

<取り上げる宇宙探査機・人工衛星・宇宙望遠鏡>

  • 宇宙探査機:ボイジャー1号・2号

  • 人工衛星:TRMM(熱帯降雨観測衛星)、Landsat-5

  • 宇宙望遠鏡:ハッブル宇宙望遠鏡

これらの宇宙探査機や人工衛星は、それぞれ異なるミッションで設計されましたが、共通してその寿命を超える運用が行われています。具体的な紹介に入る前に、「宇宙探査機」「人工衛星」「宇宙望遠鏡」という用語やそれぞれの違いについて解説し、その上で具体的な延命事例を紹介していきます。

宇宙探査機とは?

宇宙探査機は、宇宙空間を航行するために設計された無人探査機や有人宇宙船の総称です。例えば、無人探査機であるボイジャー1号・2号は太陽系外の探査を続けています。これらの宇宙探査機は、地球を離れ、長期間のミッションを達成するために特別な技術が使われており、特にエネルギーや燃料の消費を最小限に抑える工夫がされています。

人工衛星とは?

人工衛星は、地球の周回軌道に配置され、地球に関連するデータの収集や通信を目的とします。TRMMやLandsat-5といった人工衛星は、特に気象観測や地表の変化を監視する地球観測衛星です。これらの衛星は地球の周りを回り続け、データを地上に送り続けています。地球を周回しているものを「人工衛星」、地球の重力圏の外へ行き地球を周回しないものを「宇宙探査機」と覚えておくと分かりやすいです。

宇宙望遠鏡とは?

宇宙望遠鏡は、宇宙空間に配置され、天体の観測を目的とする機器です。地上の大気の影響を受けず、宇宙の深遠を観測できる点が特長です。ハッブル宇宙望遠鏡はその代表例で、1990年の打ち上げ以来、宇宙の様々な天体を詳細に観測し続けています。


これらの異なる種類の宇宙探査機や人工衛星に共通するのは、それぞれの設計寿命を超えて運用されるために様々な技術や工夫が施されている点です。それでは、より具体的にそれぞれの延命事例を具体的に見ていきましょう。

参考
https://astro-dic.jp/space-telescope/
https://astro-dic.jp/artificial-satellite/

2. 宇宙探査機の延命事例

ボイジャー1号と2号:双子探査機

1977年に打ち上げられたボイジャー1号ボイジャー2号は、NASAが開発した双子の無人探査機です。両機は、NASAの「ボイジャー計画」に基づいて、同じ設計とミッションを共有しており、太陽系の主要な天体である木星と土星、さらに天王星や海王星の探査を目標にしていました。探査が成功した後も稼働を続けたため、ミッションはさらに拡張され、現在ではボイジャー1号・2号ともに太陽系の外縁部、星間空間を飛行しています。


機体の様子(出典:NASA

ボイジャー1号の概要

  • 打ち上げ:1977年9月5日

  • 設計寿命:5年

  • 主なミッション:木星と土星の探査、星間空間の探査

  • 主な成果:木星と土星の詳細な観測、特に土星の衛星タイタンの観測

ボイジャー1号は、木星や土星の詳細な観測に成功した後、2012年に人類史上初めて星間空間に到達した探査機としてその名を刻んでいます。特に、土星の衛星タイタンの観測は、将来の宇宙探査において重要な知見をもたらしました。

ボイジャー2号の概要

  • 打ち上げ:1977年8月20日

  • 設計寿命:5年

  • 主なミッション:木星、土星、天王星、海王星の探査、星間空間の探査

  • 主な成果:天王星の環の発見、海王星の衛星トリトンの発見

ボイジャー2号は、太陽系の外縁部である天王星と海王星の観測を初めて行った探査機です。天王星の環の発見や、海王星の衛星トリトンの詳細なデータを送信することで、これまで未知であった天体の新たな側面を明らかにしました。


機体の3Dモデル(出典:NASA

延命措置の詳細

1. 省電力モードへの移行

ボイジャー1号と2号のエネルギー源であるRTG(放射性同位体熱電気転換器)は、運用を続けるうちに徐々に出力が低下しています。このため、電力を節約するために省電力モードが導入され、不要な科学機器がシャットダウンされました。これにより、探査機は通信や重要な機器に限られたエネルギーを集中させ、長期運用を可能にしています。

2. 段階的な科学機器のシャットダウン

RTGの出力が減少する中で、探査機が継続して動作するためには、科学機器を段階的にオフにしていくことが必要です。この措置により、ボイジャー1号・2号は運用を最小限に抑えつつ、限られた電力で最低限のミッションを維持しています。

3. 通信の効率化

ボイジャー1号と2号は、現在、太陽系外縁や星間空間という非常に遠く離れた領域を飛行しています。このため、地球との通信が重要な課題となります。そこで、NASAは探査機のアンテナ指向性を向上させ、データ伝送速度を低下させることで、非常に弱い信号でも地球に正確に届くようにしています。この技術の最適化により、現在でも探査機から貴重なデータを受信し続けています。

参考
https://science.nasa.gov/mission/voyager
https://science.nasa.gov/mission/voyager/where-are-they-now/
https://science.nasa.gov/mission/voyager/voyager-1/

3. 人工衛星の延命事例

TRMM(熱帯降雨観測衛星)

TRMM(Tropical Rainfall Measuring Mission)は、1997年にNASAと日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)の共同プロジェクトとして打ち上げられた地球観測衛星です。主な目的は、熱帯地域での降雨を測定し、気候や気象に関するデータを収集することです。TRMMの観測は、洪水予測や気象モデルの改良に大きく貢献し、特に気候変動に関する研究に役立っています。

機体の様子(出典:NASA
  • 打ち上げ:1997年11月27日

  • 運用終了:2015年4月8日

  • 設計寿命:3年

  • 主なミッション:熱帯降雨の観測、気候変動のデータ収集

  • 主な成果:世界中の降雨パターンの詳細なデータを提供し、気候モデルの精度向上に寄与

TRMMは、設計寿命が3年とされていましたが、観測機器や燃料の最適化により、実際には約18年間運用されました。気象予測の精度を向上させたTRMMのデータは、特に洪水や台風などの災害対策において重要な役割を果たしました。

Landsat-5

Landsat-5は、地球の表面を長期的に観測するために1984年に打ち上げられたアメリカの地球観測衛星です。Landsatシリーズは、地球の環境変化を長期間にわたって観測するために設計されており、Landsat-5は、そのシリーズの中でも特に長寿命の衛星として知られています。

機体の様子(出典:USGS
  • 打ち上げ年:1984年3月1日

  • 運用終了:2012年12月21日

  • 設計寿命:5年

  • 主なミッション:地表の観測、環境変動データの収集

  • 主な成果:28年間にわたる地球表面の観測データ提供、森林減少や都市化のモニタリング

Landsat-5は、設計寿命の5年を大幅に超え、28年間も運用されました。この衛星は、地表の変化を継続的に観測し、環境問題に関する研究や政策立案に役立つ重要なデータを提供してきました。

延命措置の詳細

1. 燃料消費の最適化

TRMMやLandsat-5は、長期運用を実現するために、燃料消費を慎重に管理しました。TRMMでは、観測タイミングや軌道修正の頻度を最適化し、燃料を節約することで寿命を延ばしました。これにより、設計寿命の3年をはるかに超える約18年間の運用が可能となりました。Landsat-5でも燃料管理が徹底され、28年間という長期運用が実現しました。

2. リモート操作による機器調整

両衛星は、地上からのリモート操作によって機器の調整が行われました。特に、Landsat-5では、故障や不具合が発生した場合、リモート操作で調整や機能停止が行われ、正常な観測を維持することができました。これにより、運用期間中に発生する技術的な問題を解決し、延命に成功しています。

3. 太陽電池とバッテリーの管理

Landsat-5では、太陽電池パネルの出力が徐々に低下していく中で、電力消費の管理が行われました。特にバッテリーの性能が低下しても、観測データを地上に送り続けるためのエネルギー供給が効率化され、衛星の運用を維持することができました。

参考
https://gpm.nasa.gov/missions/trmm
https://www.usgs.gov/landsat-missions/landsat-5

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