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世界のスペーステックについてまとめてみた

天地人は、2050年にも持続可能な地球環境を目指して活動するJAXA認定ベンチャーです。宇宙ビッグデータをWebGISサービス「天地人コンパス」で解析・可視化することで、まだ誰も気付いていない土地の価値や地球の資源を明らかにするサービスを提供しています。

『今日から使える宇宙豆知識 by JAXAベンチャー天地人』では、宇宙に関連するさまざまな最新情報を、天地人のエンジニア、研究者、ビジネスリーダーが一歩踏み込んで解説します。

今日は、過去10回に渡り特集してきた、世界各国の宇宙関連スタートアップ(スペーステック)の市場や注目スペーステック企業について、まとめ記事を公開します。1つの記事で10地域分(米国、欧州、カナダ、日本、中国、韓国、インド、オセアニア、アフリカ、中南米)のスペーステック動向がわかるお得な記事となっております。ぜひご覧ください。


世界のスペーステック市場

2021年時点で世界のスペーステック(大企業、スタートアップ含む)は1万社以上おり、その56.4%が米国のスタートアップ(6,477社)となっています。2位の英国で742社、3位以降カナダ、中国、ドイツ、インド、フランスと続き、日本は12位です。

出典:SpaceTech Analytics 「SpaceTech Industry Landscape Overview 2021 Q3」

世界におけるスペーステックへの2021年における投資額を見ると、トップ5は、米国(840億ドル)、中国(320億ドル)、英国(120億ドル)、ドイツ(110億ドル)、カナダ(40億ドル)となっています。

出典:SpaceTech Analytics「SpaceTech Industry Landscape Overview 2021 Q3」

このように、世界のスペーステック市場は、投資額、企業数共に米国が世界の中心となっています

米国

2020年の世界におけるスペーステックへの投資額のうち巨額の取引を抽出すると76億ドルで、2000年以降20年間で過去最高額となりました。その取引額の67%を受け取ったのが、米国のスペーステック企業です。

出典:Bryce Tech 「Start-up Space Update on Investment in Commercial Space Ventures 2021」

上の円グラフを見ると、受け取った投資額上位9社のうち、6社が米国のスタートアップ、3社が中国のスタートアップとなっています。
6社の内訳を見ていくと、

  • SpaceX(ロケット打ち上げ、衛星通信コンステレーション)

  • OneWeb(衛星通信コンステレーション)

  • Blue Origin(有人宇宙旅行、ロケット打ち上げ)

  • Relativity(ロケット製造技術)

  • Virgin Galactic(有人宇宙旅行、ロケット打ち上げ)

  • KYMETA(衛星通信用機器製造)

となっており、有人宇宙旅行、ロケットの打ち上げ、衛星通信コンステレーションの構築のように、巨額のコストが必要となる事業への投資が大半であることがわかります。

欧州

欧州における宇宙関連スタートアップへの民間投資額は、年々増加しており、2021年には約6億ユーロでした。さらに、欧州の各国では、国による資金援助も活発で、フランス(15億ユーロ)、イタリア(13億ユーロ)等が、民間の宇宙産業へ投資を行っています。

参考までに、日本では2020年に官民合わせて約3億ユーロが投資されています。

出典:Ifri 「The Space Downstream Sector Challenges for the Emergence of a European Space Economy」

2021年時点で世界のスペーステック(大企業・スタートアップ含む)は1万社以上あります。米国に次ぐ第2位となるのが、英国(742社)です。

欧州の各国を見ると、日本(193社)よりもスペーステック数の多い国として、英国のほかに、ドイツ(465社)、フランス(365社)、スペイン(276社)、オランダ(250社)が挙げられます。

近年、中国、インドの宇宙関連スペーステック数も増えてきていますが、米国の次に規模の大きいスペーステックコミュニティとして、現時点では、英国と欧州が位置づけられるでしょう。

カナダ

カナダにおけるスペーステックへの投資額は、2021年には米国(840億ドル)、中国(320億ドル)、英国(120億ドル)、ドイツ(110億ドル)に次ぐ40億ドルの投資額となっています。

2021年時点で世界のスペーステック(大企業・スタートアップ含む)は1万社以上あります。米国(6,477社)、英国(793社)に次ぐのがカナダになります(610社)です。

近年スペーステック市場として注目されている、中国(536社)、インド(412社)よりも大きい数字となっています。
米国と欧州が、スペーステックにとって主要な拠点ではありつつも、カナダも世界トップレベルの市場といえます。

日本

日本の宇宙スタートアップは、2010年代半ばまで10数社でした。2016年以降から急増し、2022年3月には、国内の宇宙スタートアップ企業は74社となりました。一方で、スペーステックとしては大企業と合わせると190社となります。日本の宇宙スタートアップの2021年の資金調達額は378億円で、宇宙ビジネスへの注目度の高さが伺えます。

出典:一般社団法人SPACETIDE SPACETIDE COMPASS Vol.6

日本の宇宙スタートアップをセグメント別にみると、衛星データ・宇宙技術利用が40%と最も多く、宇宙旅行・滞在・移住、輸送が続きます。

衛星データ・技術利用とは、人工衛星からのデータ等を利用した主に地球上で実施されるビジネス活動のことです。
衛星データの販売やソリューションの提供が含まれます。

米国のスタートアップが衛星の製造・衛星の打ち上げ分野で世界最大のプレイヤーとなっているのに対し、日本の宇宙スタートアップは、宇宙を利用したサービスに力を入れる企業が多い傾向にあります。

米国の投資額は2020年時点で8000億円以上です。日本の投資額378億円と比較すると、規模感の違いが伺えます。


出典:SPACETIDE COMPASS Vol6をもとに独自に作成

中国

2021年時点で世界のスペーステック(大企業・スタートアップ含む)1万社以上のうち、中国の企業数は536となっており、恐らく国有・民間合わせた企業数であると思われます。中国の企業数はアメリカ(6477)、イギリス(793)、カナダ(610)に次ぐ第4位です。

また、スペーステックへの投資額では、中国はアメリカの840億ドルに次ぐ第2位で320億ドルとなっています。中国は民間資本だけでなく地方政府や国からの資金援助が多いため、多くのスペーステックで資金調達に成功していることが推測できます。

また、Euroconsultのアフィリエイト・シニア・コンサルタントでOrbital Gateway Consultingの創設者であり、中国の宇宙産業に精通しているBlaine Curcio氏のインタビューによると、近年、「中国の民間宇宙産業は裾野が広がっている」といいます。
記事でCurcio氏は、「以前はシステムレベルは全て国有企業、サブレベルの多くは国有企業系列の子会社が担っていました。しかし、近年は供給基盤が、民間企業まで広範囲に及ぶようになっている」と述べています。
また、今後の宇宙産業については、「航空宇宙や自動車産業向けに供給している精密機械メーカーなどの、さらに上流のサプライヤーが宇宙分野に参入するようになるでしょう」との見解も示しています。

中国の宇宙分野では、競争力のあるスタートアップがいくつも誕生しています。今後も、政府の手厚い支援が追い風となり、こうした企業がますます増えていくと考えられます。

韓国

世界のスペーステックの企業数は2021年時点世界で10,000社以上あるとされており、そのうち韓国の企業は49社です。

スペーステック企業数は少ないですが、ロケットの再利用によるコスト革新とGPS、通信などの分野で韓国での宇宙市場需要が高まっています。宇宙産業が次世代の成長動力として注目され、関連分野に参入するスタートアップが急速に増加しています。

10年ほど前から宇宙企業に対する民間投資は増加の傾向にありましたが、規模や技術レベルは発展途上であり、2016年の韓国の投資額は4.19億ドルと、国別投資比率は0.2%に過ぎませんでした。今も少数の大企業とスタートアップを中心に宇宙産業を未来の先行投資として捉え、事業拡大を拡大しています。

スペーステックへの民間投資の国別割合(出典:韓国貿易協会国際貿易通商研究院、Trade Focus 2021年29号、「宇宙産業バリューチェーンの変化に伴う主要トレンドと示唆点」)

そこで2023年3月、韓国政府は民間宇宙新興企業を支援する基金設立を発表。韓国科学情報通信省によると、政府は2027年までに民間宇宙分野に投資するための500億ウォン(約55億円)の基金を設立すると明かしました。初期投資として50億ウォンを投じ、2023年中に100億ウォンのファンドを設立する見込みです。

インド

2021年時点で世界のスペーステック(大企業・スタートアップ含む)1万社以上のうち、インドの企業数は536で世界6位となっています。
また、インドには100社を超えるスペーステックスタートアップ企業があると言われており、2021年にインドで新たに設立されたスペーステックスタートアップは合計47社です。

2021年はスペーステックスタートアップにとって分岐点となる年で、スタートアップへの投資額は6800万ドル(約9億円)に達しました。
金額だけを見ると、米国(840億ドル)や中国(320億ドル)に比べ大きくはありませんが、投資額を前年と比べると196%増であり、今後の成長が期待されます。


EY, ISPA レポート Developing the space ecosystem in India - focusing on inclusive growth

オセアニア

オセアニアは、地理的に広大で人口密度が低い地域であるため、衛星やロケットなどの宇宙技術を活用することで、通信、農業、防災、環境などの分野で様々な課題を解決する可能性があります。近年、オセアニアでは、宇宙を活用したビジネスアイデアコンテストやインキュベーションプログラムなどが開催され、多くの宇宙スタートアップが誕生しています。
2021年時点で世界のスペーステック(大企業・スタートアップ含む)1万社以上のうち、オーストラリアでは約216企業が活躍しています。

オセアニアの宇宙スタートアップは、「ボーン・グローバル」と呼ばれる、創業時からグローバル市場を視野に入れたビジネスモデルを採用していることが多いのが特徴です。
しかし、オセアニアの宇宙スタートアップは、「資金」「事業化を担う中間人材」「世界における認知度」の3つの不足があると言われています。

これらの課題を克服するために取り組んでいる対策を紹介します。
「資金」面では、オセアニアの国内市場は小さく、宇宙関連の投資家やベンチャーキャピタルも少ないため、海外からの資金調達が必要です。そのため、オセアニアの宇宙スタートアップは、海外の投資家やベンチャーキャピタルと積極的に交流し、ピッチイベントやデモデイなどに参加して自社の技術やビジョンを発信することで、資金調達の機会を増やしています。例えば、ニュージーランド人がCEOを務めている小型ロケット開発のロケット・ラボは、米国や英国などから累計3億ドル以上の資金を調達しています。

「事業化を担う中間人材」とは、宇宙技術とビジネスモデルの両方に精通した人材のことで、オセアニアではこのような人材が不足していると言われています。そのため、オセアニアの宇宙スタートアップは、海外の宇宙関連企業や機関と協力し、共同開発や技術移転などを行うことで、宇宙技術の蓄積や市場開拓に役立てています。
例えば、オーストラリア発祥で小型衛星を開発するフリート・スペース・テクノロジーズは、NASAや欧州宇宙機関(ESA)などと提携し、農業や鉱業などの産業におけるIoT(モノのインターネット)ソリューションを提供しています。

「世界における認知度」とは、オセアニアの宇宙スタートアップが提供するサービスや製品が、海外の顧客やパートナーに知られているかどうかのことで、オセアニアはこの点も弱いと言われています。そのため、オセアニアの宇宙スタートアップは、海外の宇宙関連イベントやメディアに積極的に参加し、自社のサービスや製品を紹介することで、ブランディングやマーケティングを行っています。例えば、オーストラリア発祥で小型再突入衛星を開発するエレベーション・スペースは、英国を拠点とするSeraphim Space(注:宇宙およびドローン技術を持つスタートアップに特化した世界初のベンチャーファンド)のアクセラレーションプログラムに選出され、世界の宇宙関係者と交流しています。

オセアニアの宇宙スタートアップは、資金、人材、認知度という3つの課題を克服するために、さまざまな取り組みを行っています。これらの取り組みは、オセアニアの宇宙スタートアップが「誰もが宇宙で生活できる世界」を目指すための重要な一歩となります。

アフリカ

Space in Africaによると、現在アフリカ大陸の31カ国で272の新興のスペーステック企業が存在すると報告されています。こういったスペーステック企業は、製造や医療、物流などの分野において最先端の技術やソリューションを開発するために宇宙技術や衛星データの活用を試みています。

特に衛星通信市場は2021年のアフリカの宇宙・衛星産業評価額の主要シェアを占めています。固定衛星サービス(FSS)、移動衛星サービス(MSS)、衛星テレビサービスがこの市場には含まれます。

また、アフリカの宇宙産業では、地上セグメント市場の盛り上がりが期待されます。地上セグメント市場とは、衛星地上局や天文機器など、地上に設置された宇宙関連の施設を指します。

多くのアフリカの国々が、将来的に衛星を開発し打ち上げを目指しているので、打ち上げ後の運用に必要な地上システムも必要となります。また、衛星通信を利用するためには通信をダウンリンクするための地上局が必要となります。そのため、地上セグメント市場はアフリカの宇宙産業の成長を後押しする役割が期待されています。

もう一つのトレンドは小型衛星です。大きな衛星の製造や開発には高いコストと時間がかかるためCubeSatを始めとする小型衛星が注目されています。小型衛星から得られる情報を活用し、アフリカの社会や経済、環境の発展に直結するアプリケーションが考案されています。例えば、モノのインターネット(IoT)や天気予報、早期警報システム、農業での作物や家畜のモニタリングなど、革新的な小型衛星の活用が検討されています。

中南米

中南米地域は、スペーステック数・スペーステックへの投資額ともに、大きくはなく、スペーステック市場は小さい状況です。

出典:SpaceTech Analytics「SpaceTech-Industry-Overview-2021-Q3 p20」

ただし、中南米地域は、立地条件も含めて宇宙開発に有利な点がいくつかあります。
例えば、赤道はロケットの打ち上げに最適な場所であること。またパナマ運河があるため、かさばる繊細な人工衛星やロケットの部品を輸送するのに便利な地域となっています。この点から、今後の展望として、ロケットの射場や組み立て場所として世界のロケットを誘致する可能性を秘めています。

世界の注目スペーステック企業

今後宇宙業界で、破壊的イノベーションを起こす可能性のある技術を有する各国のスペーステックスタートアップを計37社(米国3社、欧州4社、カナダ4社、日本4社、中国4社、韓国4社、インド4社、オセアニア4社、アフリカ3社、中南米3社)ご紹介します。各社について、技術的な内容をわかりやすく解説します。

以降の内容は有料となります。
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