【特集】ロケットの打ち上げに最適な場所はどこ?
天地人は、衛星データを使った土地評価コンサルを行っているJAXA認定ベンチャーです。地球観測衛星の広域かつ高分解能なリモートセンシングデータ(気象情報・地形情報等)や農業分野の様々なデータを活用した、土地評価サービス「天地人コンパス」を提供しています。
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今週は、ロケットの打ち上げに最適な場所について解説します。
2022年、ロケットの打ち上げ成功数が過去最多の180回に達し、前年を44回も上回りました。現在、9カ国・地域が自前のロケットを打ち上げる能力を持ち、衛星を保有する国も50カ国以上に増加しています(内閣府ホームページより)。これに対応する形で、全世界に35箇所のロケット発射場が存在してます(GO ASTRONOMY Spaceports & Launch Sitesより)。このように、打ち上げ回数が増加する中で、新しい宇宙港や発射場のニーズも高まっています。
ロケットの基本
・ロケットの構成
ロケットは、主に「ペイロード」、「エンジン」、「燃料」から成り立っています。
ペイロード: 宇宙に運ぶ物体や機器、例えば人工衛星や宇宙船のこと。
エンジン : ロケットを宇宙へと推進する部分のこと。
燃料 : エンジンを動かすためのエネルギー源。
空気を入れた風船の口をしばらずに放すと、風船は勢いよく飛んでいきます。ロケットの飛ぶ原理は、この風船の動きと似ています。ロケットは、燃料をエンジンで燃やして発生したガスを後ろに噴射します。この噴射ガスの反動がロケットを上昇させる推力となります。数百トンもあるロケットを打ち上げるには凄まじい大きさの推力が必要になります。
・ロケットの速さについて
第一宇宙速度、第二宇宙速度について
ロケットは、ペイロードを目的の地点に到達させるために存在します。ペイロードを地上から宇宙のある地点に移動させ、その地点で安定的に存在させるためには、地球の重力に逆らう必要があります。そうでないと、ペイロードは重力に引っ張られて、また地上に戻ってしまいます。地球の重力に逆らうには、猛烈な速度でロケットを飛行させる必要があります。そこで基準となる速度が、第一宇宙速度と第二宇宙速度です。
第一宇宙速度:地球の周りを回るための速さ。この速度でロケットを飛ばせば、ペイロード(例えば人工衛星)を地球を周回する軌道に投入することができます。
地球上の表面(海抜0メートル)で物を投げる(例えば、ロケットを打ち出す)と、普通は重力によって落ちてきます。しかしある以上の速さで物を水平方向に投げると、地球上の表面を周り続けて、落ちてきません。この限界ギリギリの速度のことを、第一宇宙速度と言います。数字で示すとほぼ8km/sです。 ジャンボジェット機の約30倍の速さとなります。
第二宇宙速度:地球の引力を完全に脱出する速さ。この速さがあれば、ペイロード(例えば、宇宙船)が月や火星へ向かうことができます。
第一宇宙速度よりさらに速い速さで物を投げると、地球の引力を脱して、どこまでも遠くに飛んでいきます。この速度のことを、第二宇宙速度と言います。数字で示すと11km/sです。ジャンボジェット機の約40倍の速さとなります。
・ロケットの打ち上げ方法について
「垂直発射」と「水平発射」、ロケットの2つの主な打ち上げ方法について解説します。
・「垂直発射」について
「垂直発射」とは、多くの人がイメージする、ロケットが空へと直立して打ち上げられる方法です。一般には1段から3段のロケットが使用され、3段式の場合、第1段が噴射後にロケットから切り離され、地球に戻り、第2段と第3段が順番に作動して目的地にロケットを運びます。特に第3段は、衛星を正確な位置に配置する役割を持っています。
「水平発射」について
「水平発射」とは、航空機から行われる特別なロケットの打ち上げ方法です。一般的な空港を出発点として利用し、飛行機が空中までロケットを安全に運びます。飛行機が一定の高度に達した後、ロケットは放出され、その後に点火して宇宙へ向かいます。そのため、さまざまな場所からの打ち上げが可能となり、多様な軌道への衛星の打ち上げもできます。
この打ち上げ方法の利点は、飛行機が必要なエネルギーの大部分を供給するため、ロケットの燃料費を節約できる点にあります。しかし、航空機にロケットを搭載することから、ロケットの大きさや重量に制限があるため、主に小型の衛星打ち上げに適しています。
打ち上げ場所に求められる条件について
ロケットの打ち上げ場所に求められる3つの条件を解説します。
・条件①:赤道に近い。
地球は西から東へと自転しています。この自転の動きをうまく利用すると、ロケットの打ち上げに必要なエネルギーを節約できます。ロケットを打ち上げる際、地球が持つ自転速度をロケットの初速にプラスできるのです。
地球上で自転速度が最も速い場所は「赤道」です。つまり、赤道に近い場所からロケットを打ち上げることで、地球の自転速度を利用しながら、第一宇宙速度へと到達できます。
図を見ると、B→B'より、A→A'の方が速度は速いため、赤道近くの方がロケットの速度を増大させるには有利となります。
・条件②:気候が安定している
ロケットを打ち上げる際、強風や大雨、雷の発生がないことが求められます。もしも気象リスクが高いと判断されれば、打ち上げを延期することが決まります。天候による打ち上げ延期の際によく耳にする「氷結層の発生」や「天候悪化が予想される」というフレーズ、具体的には何を指しているのでしょうか。
「氷結層」とは、雲の中の0℃からマイナス20℃の層を指します。この層では、氷の粒子が衝突して電気を帯びることがあり、これが激しい場合、落雷の原因となります。雷はロケットや搭載機器に大きなダメージをもたらします。そのため、雲の中に氷結層が存在する場合は打ち上げが延期されます。
次に、「天候悪化が予想される」ケース。ロケット打ち上げには、風の強さや気温、湿度といった10以上の気象条件に関する厳しい制約が設けられています。
下の図は、H-IIBロケット試験機打ち上げ時の制約条件です。
また、JAXAではロケット打ち上げの4日前から、気象係が24時間体制で、雨、風、雷などを監視します。打ち上げ当日は、バルーンによる風の観測、気象レーダなどによる地上からの観測に加えて、打ち上げ2時間前に航空機から雲を観測し、打ち上げの可否を判断しています。
このように、気象条件はロケットの打ち上げに大きな影響を与えます。
・条件③:打ち上げ場所の周辺環境
ロケットと航空機では飛行原理が異なります。そのため、ロケットに滑走路は不要です。しかし、ロケットの打ち上げには燃料の爆発リスクが伴いますし、切り離された部品が落下する危険や、打ち上げ時の騒音も考慮する必要があります。これらのリスクを避けるため、ロケットの発射場は都会を遠ざけ、人が住む場所から離れた平坦な土地が選ばれます。日本の内之浦(鹿児島県)や種子島、アメリカのケネディ宇宙センターや欧州宇宙機関のギアナ宇宙センターなどは、このような配慮から選ばれた場所です。
さらに、先ほど条件①で解説したとおり、多くのロケットは地球の自転を活用します。このため、赤道に近く、東側が開けた場所が好まれます。また、打ち上げ方向に船の航路や航空機の航空路がないこと、広大な土地が確保しやすいこと、近隣に民家が少ないこと、交通の便が良いことなどが、発射場選びの条件として挙げられます。
・「天地人コンパス」で理想の打ち上げ場所を探してみた
「天地人コンパス」の類似度分析という、自由に指定できる2つの地点が、どのくらい似ているのかをパーセントで算出する機能を活用して、理想の打ち上げ場所を探してみます。
「天地人コンパス」の類似度分析についてはこちらをご覧ください。
まずは画面左上のツールバーの「ピン」アイコンをクリックし、打ち上げ場所の候補になり得る場所にピンをつけます。
今回は3地点にピンをつけました。
①ソマリア モガディッシュ
②フィリピン タンダグ
③ブラジル トウロス
では次は3地点から「気候が安定している」場所を類似度分析から探します。比較元は、夏は1年のうち約300日続き、日照時間が長く、雨が降ることはほとんどないギリシャを選定しました。
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