![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/55313402/rectangle_large_type_2_8084933f73e0cc16a912473fc4a0c056.png?width=1200)
フォードvsフェラーリ
この作品はレースに人生をかけた主人公達の話であるカーレース映画としての側面と、1950~60年代当時販売不振にあえいでいたフォードが24時間レース「ル・マン」に出場し当時の絶対王者フェラーリとの戦いを描いた2つの側面を持つ映画です。
車やカーレースを知らなくても大丈夫な内容ですが、この映画を見るにあたって知って下記を抑えておくとより楽しめると思います。
この作品の時代は1960年代であり当時のフェラーリはスポーツカー・レースにおいて最強の座に君臨していた
フォードはアメリカの自動車メーカーでフェラーリはイタリアの自動車メーカー
ル・マンはフランスで行われる24時間耐久レース、デイトナはアメリカのフロリダで行われる24時間耐久レース(基本的には2人で挑む交代制のレース)
あらすじ
マット・デイモン演じる元レーサーのキャロル・シェルビーは心臓の病気がありレーサーを引退し車の販売店である自分の会社シェルビー・アメリカンを立ち上げます。
そんな中販売不振に陥っていたフォードはカーレースに参入し自社のブランド価値を高めることを決断し、取組みとしてフェラーリを買収しようとしましたが、創業者であるエンツォ・フェラーリ本人から拒絶されるだけでなくヘンリー・フォード2世に対して侮辱を受ける結果となりました(買収に関しては他国に渡せないと言う背景もあります)。エンツォ氏の「奴は2世(second)だ初代とは違う」という台詞はその通りではありますが琴線に触れる対決のゴングとなります。
フォード社はスポーツカーレースで勝つためにキャロル・シェルビーを雇います。そして当時最も有名なレースである「ル・マン24時間レース」でフェラーリに勝てるクルマを作る事を命じられたシェルビーはクリスチャン・ベール演じるケン・マイルズにマシンのチューニングと企業の大人の事情がありつつも右葉曲折ありドライバーを頼みレースに参加するというお話です。
作品詳細レビュー
作品は人間関係に焦点を置いて作成されているためドラマ的で非常に見易いです。反面タイトルはフォードvsフェラーリですが、シェルビーとマイルズに焦点が強く当たった話なので序盤こそ企業の行動が強く描かれていますが、企業映画としては人間ドラマのバランスに大分バイアスがかかっています。
起業ドラマとしてはフォードというか大企業なら企業イメージや社内政治を意識した立ち回りしたいよなというのは自分に置き換えても良くわかるところで、内心「映画の描写としても会社としてもあるあるだな」と思いながら見ていました。
実際後半はフォードvsシェルビー・アメリカンという構図になっていて、フォード役員連中が映画特有のイケ好かない感じで描かれているためフォードの企業イメージが上がる様なものではありませんでした。むしろレース後にエンツォ・フェラーリがマイルズに軽く礼をするシーンなどフェラーリの方が印象が良かったまであります。
マイルズとシェルビーが取っ組み合いの喧嘩をするシーンもケン・マイルズの嫁さんモリーや子供ピーターとの関わり方も行動描写が上手く描かれており、無駄のない人間ドラマとして良く出来ています。
マイルズ:「まだ薬を飲んでいるのか?」シェルビー:「上手いから飲んでいる」みたいな粋な台詞のやり取りもいいですが、文句言いたいシーンで肩を組むとか、口では伝えないけどドライバーを守っているシーンなど、言葉にしない役者の芝居を観る映画でもありました。
良かったシーン
度々車を操縦席から見たシーンがあるため音響や迫力が凄く疾走感が上手く描かれており、また事故で車がふっ飛ぶクラッシュシーンも良い臨場感で描かれているため映画館で見たのは良かったです。
自分もバイクを乗るのですが6000回転を超えた時や特定のスピードを超えた時の描写などや伝え方は適切です。
フォードvsフェラーリの予告編で見ることができるシェルビーが製作中のレーシングカーGT40のパワーをヘンリー・フォード2世に見せつけるシーン。
一緒に乗っていたヘンリー・フォード2世は、恐怖の涙と恐怖からくる笑いに襲われますが、これが単に恐怖から来るものではなくこの光景を父である初代ヘンリー・フォードに見せたあげたかったと言うのが複雑な心境を描いた何ともいいシーンです。
感想
単純な感想は人間ドラマとして描かれているのでストーリーが非常に分かりやすく単純にいい映画だなと思わせられる様な作品でした。
また、ケン・マイルズに完璧に似せてくるあたりクリスチャン・ベールは相変わらず凄い!外国人の芝居だと細かい良し悪しが掴み難いため明瞭にこの人芝居上手いなと言い切れるのも中々いません。
非常に良い作品であるものの尺的な問題もありエンジニアの自動車設計ドラマが足りていません。
タイトルでてっきり「フェラーリに勝つ為のマシン造り」の話かと思いましたが、放送時間が2時間20分あるため尺的に入れるのが難しい事と単にvs組織のような構図を描く方が人間ドラマ的に作りやすいのもあり、エンジニアリングは気持ち程度に入っていて、マイルズによるマシンのチューニングとテストラン、調整、再設計という形で割愛されています。
耐久レースなので速く走ると言うことだけではなく長く走ると言うことも重要で、フェラーリの真っ赤な見た目がカッコ良くただ速かっただけでなく、エンジニアリング技術の賜物でした。フォードGT40の製造はエリック・ブロードレイの作業から始まり長年にわたる取り組みの中では、動力計を使ってエンジンが吹き飛ばしては検証する方法を試していたそうです。
またこの時フォードは信じられないくらい多額の資金を使ってGT40を作っていると言う事実ももう少し描写した方がいいかなと思いました。
と言いつつそんなドラマを映画の尺で描いても退屈になりそうなだけで、むしろ全編通してスピード感のある作品として作成したからこそ見終わった後に良い作品だと思えたのでしょう。
ものづくり系では無く人間ドラマ系の作品が好きな人にはお勧めです。