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Norwegian Wood「誤訳」再考



 バイオリン奏者の高嶋ちさ子氏の父親、高島弘之氏が音楽業界にいた時、ビートルズの名曲、「Norwegian Wood」を「ノルウェーの森」と訳したというエピソードはウイキペディアなどで読んで知っていた。過日、テレビ番組でご本人がこの訳を話題にし、英語力不足などと恐縮されていたが、以来、このwoodのことが気になり、ちょっと調べてみた。

焦点の1つになっているのは誤訳ではないかという点だ。基本を整理するために、いくつかの英英辞典で再確認したら、中学か高校で習った通り、複数のwoodsは「森」を意味する。問題は単数だが、これも学校で習った通り「材木」を意味し、水、空気などのように、通常は数えられない不可算名詞だ。ただ、数えられる可算名詞になると、“a wood”で「森」を意味するから注意が必要だ。
知人の英国人が分かり易い例文を作ってくれた。
I need some wood for the fire.(暖炉に使う材木が少し必要だ)
I was standing in front of a wood.(私は森の前に立っていた)
I went walking in the woods.(森に散歩に行った)
歌詞を見ると、
I once had a girl Or should I say, she once had me?
She showed me her room "Isn't it good, Norwegian wood?"
このwoodは単数だが冠詞がない不可算名詞だから、「森」ではない。
 ともかく、「森」の訳は誤訳かといえば誤訳だ。「日本語のタイトルは誤訳され、英語で言えば『Norwegian forest』」になった」と言うと、その英国人女性は「It’s interesting!」と笑った。
 だが、高島氏が正確に解釈できたとして、どのように訳されたのであろうか。一語一語正確に「ノルウェー産の材木」と訳すか、「ノルウェー産の家具」と意訳してもいいが、同じ北欧スウェーデンのIKEA(イケア)のチラシ広告を見ているようだ。その訳語次第では、小説「ノルウェイの森」も生まれなかった可能性がある。


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