劇場へ行く~コーラルブルーから構想を得て~ 【吹奏楽を聴きながら読む朗読】
※この原稿は1991年吹奏楽コンクール課題曲Bである『コーラルブルー(沖縄民謡「谷茶前」の主題による交響的印象)』を聴いて構想を得た実験的な原稿です。是非同曲を聴きながら朗読をお楽しみください。
~~~~~~~~~~
劇場は行くたびに毎回違う場所になる。
とある劇場で吹奏楽を聴いているときのことである。曲を聴いているだけなのに私はまるで劇場とは全く別の場所へ移動してしまったかのような感覚を覚えた。
目を瞑るとそこに広がっていたのは一面に広がる青い海だった。
砂浜を焼く眩しい太陽に照らされたその海はただ青いだけでなく、ダイヤモンドのように光り輝いている。風が穏やかな波を立たせているその風景をただ一人、言葉もなく見渡していた。
そこにとてつもなく大きな波が襲ってきて驚く間もなく私は海の底へと引き込まれる。中に広がるとても深い青は光り輝く太陽によってベールのようなグラデーションを現す。周りを見渡すとは色とりどりの魚たちがまるで舞を披露しているかのようだ。激流の中を海中の魚たちの舞を見ながらどんどん流されていく。瞬きをするたびに移り変わる海の景色に圧倒され、圧倒された次の瞬間にはまた別の景色で圧倒される。ただひたすらに大きな圧力に飲まれ私は流されてゆく。この圧力はもはや人間には抵抗することはできない。
気が付くととても深くて壮大な場所に出た。そこはとても静かな場所であるが、ただ静かなだけでなくその壮大さから来るとてつもないオーラを感じる場所だった。私はただそこに浮かんでいるだけ。時間が流れるのも忘れとてもリラックスしている。
ここはとても涼しい場所だ。でも涼しいだけではなくどこか不思議と温かさを感じる。この暖かさがあるからこそこの涼しさは心地の良いものに感じられるのだろう。
暫くすると再び激流に飲み込まれる。そうして閉じていた目をゆっくりと開いた。
目を開けると穏やかな表情を浮かべる演奏家が舞台の上に並んでいた。
目を開けるのもやっとな輝かしい舞台の上は、その照明の光が楽器にも反射してその輝きを一層強めている。美しい音が響き渡るそのコンサートを、多くの観客は様々な表情で楽しんでいた。
その演奏に誰かが拍手をして、それに続いてみな一斉に手を叩き演奏を賞賛する。その時の観客はこの上なく満足だと見ただけで感じ取ることのできるような表情を浮かべる。舞台の上の演奏者たちもとても誇らしげな表情を浮かべているように感じる。拍手は一層強まっていき、その場の雰囲気はそれに伴って盛り上がりを強めていく。素晴らしい音楽に圧倒され、圧倒された次の瞬間にはこの劇場の中の雰囲気に改めて圧倒される。ただひたすらこの大きな圧力に感動する。この圧力はもはや人間には抵抗することができない。
劇場は普段はとても静かな場所である。ここは静かな場所であるが静かでありながらもとても壮大なオーラを放ち、昼には様々な音楽がうまれてゆく。私はただそこに座っているだけ。時間が流れるのも忘れてとてもリラックスしている。
劇場はとても涼しい場所だ。でも涼しいだけではなくどこか不思議と温かさを感じる。この暖かさがあるからこそこの涼しさは心地の良いものに感じられるのだろう。
劇場は行くたびに毎回違う場所になる。その場所にいるだけで全く違った雰囲気を見せる。
普段の生活に、少し劇場へ足を運ぶ時間を作ってみる。それだけでもちょっとだけ人生は楽しくなるかもしれない。
~~~~~~~~~~