呉エイジにはこう聞こえた(8)
2014年にリリースされた「VISITORS DELUXE EDITION」に収録された『CONFUSION』は、アルバムのアウト・トラックである。こんな質の高い曲が未発表のまま残されていたとは、と驚いた。エレクトリック・タンゴとでもいったような曲想、硬質でドライな手ざわり、アルバムに収録されていてもおかしくない佳曲である。どうせ8曲しか入ってないのだからあと1曲くらい入れてくれていてもよかったのだ。
それはそれとして、この曲に関して呉から、
「この曲、後年手を加えて完成させている。
終盤、ビッチ、ビッチが当時のボーカル。
その直後、ピッチにたそがれたユーユーユー。
ここは追加録音である。
キー落ちであるにも関わらず声質が当然同じなので、
違和感なく聴けるが、よく聴いてみれば気付くことが出来るだろう」
というメッセージが届いた。タイトルは「呉エイジ神の耳シリーズ」。ついに「神」を自称し始めた。しかも勝手にシリーズ化。前回『禅ビート』の回にも書いたが、この夏はいろいろあって立てこんでいたのだが、そういうときに「そうでんな」級のネタをバンバン突っこまれてもこちらも厳しかった。暑かったし。
少し涼しくなりようやく心にちょっと余裕ができたので、呉が指摘するところを聴いてみた。なるほど、曲前半のボーカルと、終盤のアドリブ部分は確かに声の質感が若干違うように聞こえなくもない。
この曲は、30周年記念盤の企画をするためにアルバムのマルチをあらためてひもといた際に発見され、渡米してジョン・ポトカーにミックス・ダウンを依頼したということになっている。そのときにボーカルの追加レコーディングが行われたというのはあり得る話である。
なにより、これを聴き分ける呉の野生動物並みの耳には敬服するばかりだ。おそらくわずかな物音にも敏感に反応して身を守らなければならない環境に暮らしているのであろう。同情を禁じ得ない。ウルトラマンは200km先に針が落ちた音まで聞こえるという。日常生活はうるさくて仕方ないだろう。
それにしても「この曲、後年手を加えて完成させている」「ここは追加録音である」「よく聴いてみれば気付くことが出来るだろう」といった大御所然とした上からの断定口調はどうだ。オールド・ファンの鏡である。僕もたいがいエラそうにものを書いているが、内心は間違いを指摘されて炎上しやしないかといつもひやひや、びくびくしている小心者なのである。ここまではっきり決めつけてしまう胆力はない。
確認のしようはないが、呉がそうだというのだからそうなのだろう。神だし。今年の夏は暑く、長かった。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?