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【FC東京】2025年シーズンプレビュー(1) 総論

開幕を半月後にひかえて、2025年シーズンを展望しておきたい。

現代フットボールの基礎科目

松橋監督が新たに着任、新しい体制で臨むシーズンとなる。とはいえ、2022年にMIXIが経営権を握って以来続けてきた、アルベル監督、クラモフスキー監督の下での現代的なフットボール路線は継承されるべきものだし、クラブとしてもそう考えているはず。

もちろんアルベル監督とクラモフスキー監督とではアプローチは異なり、アルベル監督がよりポジショニングを重視したのに比べて、クラモフスキー監督は切りかえからの速い押し上げを好んだが、そんなものはおはぎとぼたもちくらいの違いでしかなく、重要なのは強度、ポジショニング、切りかえ、ビルドアップなどといった現代フットボールの基礎科目をしっかり履修しながら、そのうえでアクティブに、主体的に試合を進めること。その点においてここ3年の取り組みは一貫している。

もともと現代フットボールは「ポゼッションか堅守速攻か」のような解像度の低い二元論で割りきれるものではなく、いくつかのキーになるパラメータをそれぞれどのへんに設定するかという、ベストミックスを探す作業であり、調整すべきパラメータそのものは、アルベル監督も、クラモフスキー監督も、松橋監督もだいたい同じ項目がそろっているはずだ。

ここ3年はそうやって基礎科目の履修を続けながらも、その成果は不安定なかたちでしか示せなかった。ベースは確実に根を張りつつあると感じる局面もあった一方で、ゲームプランが崩れたときに対応できずフレキシブルな対応力の足りなさを痛感する試合も少なくなかった。力負けももちろんあったが、結果のでなかった試合の多くでは、むしろ未熟さや組織力の不足を感じた印象だった。

戦力の整備

今季はなにもかもをゼロリセットするのではなく、こうした3年間の取り組みをふまえて、その上により安定したパフォーマンスを出せる戦略、戦術を上乗せして行く、積み上げて行くシーズンにしなければならない。

オリヴェイラが現役を引退、荒木が移籍期限の満了で鹿島に復帰、中村、原川の移籍などの戦力ダウンはあるが、それ以外の主力はほぼ残留、一方でヒアンの獲得、橋本の復帰、寺山、塚川、木村らのレンタルバック、そしてここに来てオリンピック代表の佐藤の加入などの補強もあって、ポジションによって偏りはあるものの、戦力は概ね整ったといっていい。

ポジションごとの過不足は別項で見て行きたいが、当初「これで大丈夫か」とも思われた補強は、橋本、佐藤の獲得で大きく前進し、既存の戦力と合わせれば少なくとも致命的な穴は見当たらない。

3バックの試行も報じられており、どの選手をどこに使うのか、その結果競争の激しいポジションはどこで逆に手薄なのがどこなのかという考え方自体も相対化しつつある。安斎、小泉らポリバレントな選手の使い方次第では相当のバリエーションが考えられ、選手層は決して薄くない。

年代構成も、長友を筆頭にユース昇格メンバーまでバランスは悪くない。中堅、若手の成長に期待しながら、ここ一番でベテランに頼れるチームをつくることができるのではないか。

松橋監督の戦略

松橋監督は新潟でアルベル監督の後任として2022年にJ2優勝、2023年、2024年はJ1に残留し2024年にはルヴァンカップ準優勝の結果を残している。選手層や予算規模の面で必ずしも恵まれた状況ではないクラブで、相応の実績を挙げたと評価していいだろう。

新潟ではアルベル監督から引き継いだポゼッション重視のスタイルで、最終ラインから丁寧にパスをつなぎながら少ないタッチでボールを動かし、整理されたポジショニングで全体を押し上げてゴールの可能性の高いところまでボールを運んで行く印象だった。一方で守備にはもろいところがあったようにも記憶している。

しかしこのスタイルは新潟の選手層や積み上げてきた約束ごとを最も効果的に運用するために採用されたもので、必ずしもこれだけが松橋監督の手もちの戦略ではないだろう。松橋監督自身も「新潟では丁寧にビルドアップをして、『ボール保持率ナンバーワン』というフレーズが代名詞のように言われましたけれど、そこをめざしているわけではありません」とコメントしている。

「選手が活き活きとプレーして、その能力を余すことなく発揮することを常に求めていきたい。そこは形にカチッとはめていくというよりは、チーム作りを進めながら判断していきたい」「勝利から、そしてゴールから逆算しなくてはならない。東京には前線にスピードのある選手が揃っていて、カウンターに限らず、速い攻撃が魅力的です。手数を掛けずに攻撃ができますし、個人ではがせる選手もいる。その特長をどう活かしていくか」とも述べていて、必ずしも特定のスタイルありきではないことを示唆している。

一方で、「相手のプレッシャーを受けて、何となくボールを後ろに下げるのではなく、一つ試しながら相手を釣り出して矢印を折ったりすることの積み重ねで多くの得点やチャンスが生まれる。そうなれば、ボールを握ることが大前提になってきますし、それだけではなくて速く攻めることも重要で、そのためにはどう守るのかも重要になります」とコメントしている。根底にあるフットボール観のようなものは確かに窺える。

「現代的なフットボール観をベースに、ゲームをコントロールして勝つ、ボールを持つことはその手段であるが必ずしもそれだけにこだわるわけではなく、特長を生かして柔軟に戦う」ということなら納得感はある。松橋監督がどのような戦略、戦術を東京に落としこんでくるか、まずは見てみたい。

今季めざすもの

今季の目標はリーグ戦タイトルであるべきだと思うが、少なくともタイトル争いに参加することは必須と考えている。予算規模や選手層など他のクラブと比べて大きなアドバンテージがあるわけではないが、上位争いに参加できるだけの装備はあり、リーグ戦が混戦になればチャンスはある。昨季もそういう状況だったが戦績が安定せず、状況にうまく乗ることができなかった。

昨季のリーグ戦を見れば、優勝した神戸の勝ち点が72(1試合あたり1.89)、2位の広島が68(同1.79)、3位町田が66(1.74)となっている。今季どのような展開になるかはわからないが、まずは1試合あたりの勝ち点が1.8超となる勝ち点69を数値目標にし、そこから上積みをねらいたい。検証可能な数値目標を設定して、その達成状況をモニタし、達成が危うければ対策を講じることは最低限必要だと思う。

昨季は7位でフィニッシュ、成績としてはひどくはないもののタイトルもACLも取れず、また都内を本拠地とする町田、東京Vというふたつの昇格クラブの後塵を拝することになった。今季は東京の覇権を取り戻す戦いにもなる。

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