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佐野元春ライブ・レビュー 2022.6.12 神奈川県民ホール

ツアー初日の三郷から2か月、セット・リストはほぼ同じだったが、コヨーテ・バンドの演奏や佐野のボーカル、ステージ運びはこなれてきており、ショーを素直に楽しむことができた。

今回のツアーは全国12か所での公演だが、おそらくは週末に合わせるために公演数の割りには3か月におよぶ長期の日程となっている。ときに公演の間が2週間開くなかでテンションを維持し、パフォーマンスの質を上げて行くのは簡単なことではないと思うが、それをきちんと仕上げてきているのはこのバンドのアンサンブルの確かさを感じさせるようだ。

デイジー・ミュージックのディストリビューションがソニー・レコードに移ったからか、アルバム「SOMEDAY」「NIAGARA TRIANGLE Vol.2」からのナンバーを冒頭に何曲か披露したり、本編の最後を『約束の橋』で締めるなど、旧作回帰のモメントが感じられるのは正直あまりいい気はしないが、コヨーテ・バンドがオリジナルを尊重しながらも今の彼らの流儀で空気を震わせていることが救いとなって、現代という困難な時代にコミットしたいという佐野の意志は確かに伝わってくる。

パンデミック、戦争という少し前には考えられなかった大きな災厄にどれだけ当事者的な問題意識や危機意識をもつのか、僕たちは日々試されている。『禅ビート』の冒頭でウクライナ国旗がステージに掲げられたように、表現に関わる者として佐野は、そうした「今ここにある危機」を知らぬ顔で避けて通ることはできないし、自分はそうしないということをはっきりと宣言したのである。

ステージはいつものように深沼と藤田の2本のギターがグイグイとひっぱって行く力強くラウドなトーンで進んだ。三郷ではやや気になったアンサンブルの乱れは感じられず、佐野とバンドの息も合っていたと思う。佐野もいつものように赤いストラト、グレッチ・ジェット、ギブソンのセミアコを持ちかえながら充実したパフォーマンスを披露した。グレッチのトレモロ・アームをギュンギュンやってたのがカッコよかった。

一方で気になったのは同期音源の多用だ。実際、半分以上の曲で同期が使われていたのではないかと思う。ここぞというところで使われれば効果的だというのはわからないではないが、どの曲でもその場にない楽器の音が聞こえてくると、まるでカラオケのようで興覚めだ。ライブはその場限りの一回性にこそ価値があると僕は思っており、どの会場でも同じ同期音源に沿って、まるで機械に人が合わせるような演奏を多く聞かされるのであれば、果たしてライブとしての意味があるのかと疑問をもたずにいられない。

今回、ツアーに大井洋輔が同行せず、彼が担当していたパーカッションを中心に音の厚みを加えるために同期音源を多めに導入しているものかもしれないとは思うが、オリジナルを忠実に再現することにはおそらくリスナーの多くもこだわりはなく、むしろツイン・ギターとキーボードだけで「コヨーテ・バンドらしい音」を聞かせるライブであってほしいと思った。

もうひとつは『SOMEDAY』の冒頭のドラムのフィルに過剰なリバーブがかけられていること。ウォール・オブ・サウンドの再現を意識してか、この曲ではドラムに厚めのリバーブがかけられているように思うが、正直うるさいしやりすぎ感があって聞き苦しい。作為的であり曲の情感を損なっているようにも感じられる。もうちょっと普通に聴きたい。

それからこれは以前から思っていることだが、『約束の橋』のイントロとアウトロで過剰にタムをまわして16ビートでドカドカやるのもやかましくて好きではない。そもそもこの曲を演奏することの是非は別としても、ボーカルが入る部分の演奏はふつうにやっているのだから、イントロ、アウトロも素直にあの感じでいいと思う。

7月には東京での千秋楽がある。新譜のリリースの直前になるが、セット・リストに変更はあるのか。

あと、藤田の髪型がかなり特徴的で気になってしかたなかった。

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