見出し画像

ゴメス・ザ・ヒットマン ライブ・レビュー 2024.3.16 スター・パインズ・カフェ

一年をかけて5回のライブでゴメス・ザ・ヒットマンの結成から30年を振り返るシリーズ・ライブの最終回。今回は2019年にリリースされた最新アルバム「memori」を中心に、新曲、未発表曲などを織り交ぜてのステージとなった。アルバムのプロデューサーであるタカタタイスケがサポートでギターを担当した他、杉真理がアンコールで一曲を山田とデュエットした。

山田がMCでコメントしていたように、このアルバムが発売された直後の2020年春に新型コロナウィルス感染症のパンデミックが始まり、ライブも思うように行えない環境となった。リリース直後のプロモーション・ライブはなんとか実施できたものの、このアルバムの収録曲を、ライブを通して彼らのキャリアに着地させるための時間は奪われたままだった。

それを考えれば、この日のライブは、止まった時間がようやく動きだし、一年をかけてバンドの現在位置に追いついた瞬間だっただろう。この間になんども聴き返され、それぞれのリスナーのなかでそれぞれの形をとって確かな場所を占めてきたこのアルバムは、この日のライブで裏書きされ、あるいはあらためて発見されたのだ。

そしてそれはまた、長く活動を停止していたゴメス・ザ・ヒットマンが活動を再開し、14年ぶりにオリジナル・アルバムをリリースするに至ったことのひとつの総括でもあったと思う。

前回、12月のライブではバンドが活動を休止する前の、「mono」「omni」「ripple」といったアルバムからの曲が演奏された。そこには山田が個的なものの内側に沈潜する傾向を強め、それにつれて楽曲もまた内省的になって行った過程がはっきりと写しだされていた。かけがえのない心の動きを切実にすくいあげた作品がある一方で、それをバンドとして鳴らす必然性が次第に見えにくくなって行ったことも理解できる変化が見てとれた。そしてそれを振り返る山田自身も、それが決してこころ楽しいばかりの時期ではなかったことをMCで独白していた。

山田はそこから長いソロ活動に入り、2013年には「新しい青の時代」というマスターピースを発表したわけだが、そのあとから再びバンドとしての活動を模索し始めたのは興味深い。自分ですべてをコントロールするソロの世界では得られないダイナミズム、偶発性、思いもかけない化学反応を生み出す力場としてのバンド。同じ編成でもミュージシャンのサポートを得るのとは異なった、なにが出てくるかわからない表現のバトルフィールドとしてのバンド。山田がそこに求めたのはそういうものではなかったか。

その答えはこの日のライブにあった。この日のライブはそれを確かめるためにこそあった。

それはなによりラウドで前進への意志に満ちた演奏に顕著に表れた。『ホウセンカ』や『小さなハートブレイク』『memoria』といった細やかなテクスチャーの曲ですら激しく、強く鳴らされた。『夢の終わりまで』『houston』といったギター・ドリヴンの曲ではギターを始めたばかりの少年のようにフィードバック・ノイズで遊ぶ山田の姿があった。そこにはそれぞれが思い思いのなにものかを持ちよることでひとつの表現ができあがる事実への率直な驚きと喜び、それを形づくっているそれぞれへの確かな信頼があった。サポートしたタカタの貢献も大きかった。

「現在位置と近未来」というライブ・タイトルが物語るとおり、新曲や未発表曲も多く演奏され、山田が表現者として先を見通していることも示唆された。「memori」は山田のシンガーソングライターとしての視線とバンドの動的な熱量が、これまでの作品とは異なったステージで昇華された新しいゴメス・ザ・ヒットマンのスタンダードとなるべきアルバム。この日のライブでそれがひとまず完結し、バンドは、山田は次へ向かう。そういう確信を強く抱いた。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?