「この会社に君の居場所は無い!」上司のクビ宣言から半年後に会社が無くなった。

※本稿に登場する人物は現実をモデルとしていますが、全く関係ないフィクションです。

社会で働くとは

昔、筆者が勤めていた会社の上司に山田部長(架空で仮名)という人がいた。
山田部長は声がデカく、仕事もデキル風。
常に会社の発展と自身の成長を軸に動いていた。

この会社はもっと発展する。
今は業界の弱小会社だが、俺は未来があると信じてる。
みんなもそう信じてついてきてくれ。

部長の口癖である。
会社は設立から3年。売り上げは上々だ。
3年連続で目標利益を大幅に更新。
ゆくゆくは一部上場も見据えている

山田部長はというと、業界トップのIT企業に新卒で入社、わずか2年目にして営業成績トップになり、4年目で退職。
そしてその後は独立企業を目指し諸々のベンチャー企業でCCC、CZO、CAOなど重要な役職を務めてきた。これらの役職が具体的に何を指すかは筆者も未だ謎である。社会とは実に奥深い。
そして現職においても弱冠35歳という年齢で部長という立場にある、実に優秀な人物である。
勿論、英語はペラペラ。
グローバル社会において英語が話せるのはアタリマエのスキルだ。彼は度々豪語していた。
筆者も山田部長が海外クライアントと英語でやりとりするのは何度か目にしている。
毎回、先方が難色を示すような顔をして会議を終えるのは、若干気掛かりだが部長に理由を聞いても教えてくれない。

社会は学校じゃ無い!
質問すれば全てを教えてもらえる学校だと勘違いするな!
理由はお前にもいずれ分かる。

成程。確かに筆者は当時まだまだの若輩者。
質問をすることは大事だが会社は学校ではない。自分自身仕事を進め、自らの手で答えを探すこともまた重要なのか。
そんな感じで納得していた。

君に居場所は無い

会社はITのメーカーである。
業務効率化とクライアントの売上管理に関わるサービスを提供していた。
筆者は山田部長の下でセールス部門として働いていた。

会社は確かに売上が伸びていた。
だが商品が売れまくっていたというわけでは無い。
売れ行きが良かった、というよりは2、3個の大口契約が売上の8割を占めており、その他大勢のクライアントが残り2割を占めるという、少々組織としては心配な要素がある。

筆者は売上の2割を占める大口以外の顧客を担当していた。
しかしなかなか売り上げは伸びず、会社の利益に貢献できない日々が続いた。
しかも担当していたそのうち何件かは契約打ち切り。筆者以外の同僚も同じように苦戦していたが、営業が苦手な筆者は特に売上貢献に苦しんだ。
そしてある日、ついに山田部長から宣言された。

この会社に君の居場所は無い!
実力が不足している。ポテンシャルがある人間だと思って採用したらとんだ見込み違いだった!
3ヶ月待ってやるから、他の会社に行け!

…。
なるほど、事実上の解雇宣告である。
本当は能力不足を理由に会社都合で解雇する事は日本国内においてなかなか難易度が高いのだが、この会社の中ではそんな法律は通用しない。
まあ言いたい事は色々ある。
確かに筆者は営業が苦手なので、迷惑をかける事も多かっただろう。
しかしこの結果は能力だけのせいなのか、他に何かあるんじゃないか?
売上貢献度は低いが、個人ノルマは達成してるしクビはやりすぎじゃないか?
色々なことが頭を巡ったが、結局筆者はひどくやる気を無くし転職活動を開始した。
何を言っても結局、言い訳になってしまうので言われた通り辞めることにする。
実は他の同僚も何人か同じように退職を促されたようだ。
辞めた穴はアジア圏の優秀な大学の若者達で固めていく予定らしい。

会社の閉鎖

筆者はその後無事に新しい会社に内定が決まり、働き始めた。
一月程経過した頃、前職の同僚と飲む機会があり、そこで会社が閉鎖されるという話を聞いた。山田部長は突然いなくなり、今どうしているか分からないらしい。
前職を退職してから約半年後のことだった。

元同僚の話によると閉鎖宣言は突然だったようだ。
原因は大口案件の契約失注による売り上げ低迷とクライアントへの補填による資金不足とのことだった。
大口案件はどれも山田部長が担当していたものだったが、それがいきなり失注になり、しかも補填まで要求されるとは考えても無かった。
クライアントにサービスを提供する際、虚偽の売上がクライアント側の画面に表示されていたようで、実際の売上を多く見積もって製品のパフォーマンスをアピールしていたのだ。
補填になったのはその差額である。
長期に渡りこんなやり方を続けていたものだから、補填金額は大変なものになったらしい。
この責任はセールス部の部長であり、案件担当でもある山田部長にあると会社側は伝えた。
だがその翌日に山田部長は姿を消す。
有給申請と退職願を自分のデスクに残されているのを部下が発見。
その日以降、山田部長が会社に姿を現す事はなかった。
※この話は架空なので、注意※

上司の裏側

会社側にも諸々問題があった、というかあり過ぎだろ、と思われるが、まあ所詮その程度の会社だった、ということだ。
問題は山田部長だ。彼の裏側について転職先の会社で彼を知る人物から元教えてもらう機会があったのだが、その内容はこうだ。

嘘をついてクライアントに営業し無理やり契約を結ぶ。契約継続はどんな手段を用いてることもいとわない。
人の採用時は求人票を盛りに盛って採用する。雇用契約にまつわる書類さえ交わさなければ、後で実際の働き方と異なっても証拠が残らないからである。休日数やボーナスなどの面で筆者も見事に騙された。

経歴も嘘だらけ。最初に入社した業界最大手の会社の雇用形態は正社員ではなく派遣社員とのこと。勿論、売上ナンバーワンのくだりもデタラメだ。
その後渡り歩いた会社のCが付く役職は社内で自称していたものらしい。

英会話も適当に大声で話してただけで、英検やTOEICなど数値で測れる英語力の類は持っていなかった。
この時、クライアントが毎回の打ち合わせでなぜ不満そうな顔をしていたのか理解できた。そりゃそうだ。文法もめちゃくちゃ。
発音も適当。そのくせ声だけはデカい。
片言の言葉を一方的に大声で捲し立てられたらクライアント側としては閉口せざるを得ない。
そんなこんなで経歴をヤバめに盛りまくっていた山田部長だが、会社を辞めた後はどこへ行ったのか。
風の噂では元業界No.1を名前の頭につけ、お客様の課題解決を一緒に行うハッピーコンサルタント株式会社(架空の会社)という会社を立ち上げたようだ。
コンサルタントとは言っているが、何をしているのか、まったく分からないし知らない方がいいだろう。
彼の今後の人生の祈るばかりである。

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