「鬼滅の刃」伊黒小芭内は信じない
この記事はネタバレを含みます。
お笑い界ではそれを天丼と呼ぶ
「鬼滅の刃」の魅力はセリフ回しと良く言われます。
私が好きなのは1つのフレーズを別の場面で使いまわし、違った印象を与える「言葉遊び」のような演出。言葉の使い方がとても巧みだなと思います。
例えば無限列車編と直前のエピソードに登場する、2つの有名な台詞。
シーンとしては別モノですが、それぞれが輝きを持ちながら共鳴している、そんな演出です。
ここからは私が一番お見事っスわと思った蛇柱・伊黒小芭内(以降「伊黒さん」と呼ぶ)の「信用しない、信用しない」というフレーズからはじまり、やがて彼が炭治郎と共闘するまでの道のりをまとめてみます。
信用しない 信用しない
伊黒さんの初台詞は第6巻の柱合会議。
鬼になった妹を擁護する炭治郎に対して、以下のように発言します。「ネチネチ」という効果音をつけて。
また次のようにも言います。
猜疑心が強く鬼に強い憎しみを抱いている人物だと分かる台詞です。
しかし、それと同時に1つのスイッチが入ります。いずれ彼は炭治郎を信じることになるのだと。
俺は信じる
さて、先の柱合会議での伊黒さんの言葉は、あの名言につながります。
炎柱・煉獄杏寿郎の台詞です。
伊黒さんの「信用しない」という言葉と対比させての「俺は信じる」という言い回し。
そして「柱ならば後輩の盾となるのは当然だ。柱ならば誰であっても同じことをする。」という言葉。これは「強きもの」の在り方。人としての生き方という「鬼滅の刃」のテーマの一つを語っていますが、同時に後の伊黒さんと炭治郎をの共闘を予感させる狙いもあるのです。テクニカル!!
俺は信じない
そして煉獄さんの訃報を受けての伊黒さんの一言。
このたった一言で読者の伊黒さんへの印象がひっくりかえされるんですよね。良い流れです。テレビアニメ版では省略されちゃったけど…。
感謝する
無限列車編に続く遊郭編では、音柱・宇随天元が炭治郎たちを導く柱として登場し、共に戦いながら炭治郎と信頼関係を築いていきます。
そして遊郭編の最期は、戦いの後かけつけた伊黒さんと宇随さんのやりとりで終わります。
このとき、伊黒さんは明らかに「ファッ」という嫌悪の表情を見せるのですが、また、ブーメランとして伊黒さんに戻ってくるのです。
後に無限城で、伊黒さんは炭治郎と共に戦いながら言うのです。
これは遊郭編で宇随さんが言った
という台詞へのオマージュです。
かつて炭治郎に否定的だった伊黒さんが、宇随さんと同じく炭治郎を信頼して共に戦う。
実に胸アツな展開ではないでしょうか。
ここまでは、伊黒小芭宇宙が炭治郎堕ちするまでの布石と軌跡であるわけですが、伊黒さんの「信じない」にはもう1つの意味があると思うのです。
身内なら庇って当たり前
柱合会議で伊黒さんは鬼(ねずこ)を連れた炭治郎に次のように発言しています。
「身内なら庇って当たり前」
ごもっともな台詞ですが、この言葉の意味は後々、伊黒さんの過去があきらかになるにつれ、深みを帯びてくる良くできた台詞。
伊黒さんの一族は蛇のような容姿をした蛇鬼に仕える一族で、生け贄として捧げられるために、親族によって座敷牢で育てられました。
彼にとって「身内」とは、庇ってくれるどころか、代々、身内である蛇鬼と共謀して人の命を奪う鬼に与する者だったのです。
だからこそ身内である鬼を庇う炭治郎に対し、絶対に信用しないと、シニカルな発言をしたと思われます。
しかし、連載終了後、ファンブック2が発売されると、さらに伊黒さんの台詞の印象が変わる新エピソードが追加されていたのです。
生き残った従姉妹
「信用しない」は、実は「信じたい」の裏返し。憎しみの中どこか信じようとしていた伊黒さん。身内を庇っていたのは、伊黒さん自身だったのです。