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「鬼滅の刃」伊黒小芭内は信じない
この記事はネタバレを含みます。
お笑い界ではそれを天丼と呼ぶ
「鬼滅の刃」の魅力はセリフ回しと良く言われます。
私が好きなのは1つのフレーズを別の場面で使いまわし、違った印象を与える「言葉遊び」のような演出。言葉の使い方がとても巧みだなと思います。
例えば無限列車編と直前のエピソードに登場する、2つの有名な台詞。
竈門炭治郎
「人は心が原動力だから、心はどこまでも強くなれる」
魘夢(えんむ)
「人間の原動力は心だ。精神だ。(中略)
人間の心なんてみんな同じ。硝子細工みたいに脆くて弱いんだから」
シーンとしては別モノですが、それぞれが輝きを持ちながら共鳴している、そんな演出です。
ここからは私が一番お見事っスわと思った蛇柱・伊黒小芭内(以降「伊黒さん」と呼ぶ)の「信用しない、信用しない」というフレーズからはじまり、やがて彼が炭治郎と共闘するまでの道のりをまとめてみます。
信用しない 信用しない
伊黒さんの初台詞は第6巻の柱合会議。
鬼になった妹を擁護する炭治郎に対して、以下のように発言します。「ネチネチ」という効果音をつけて。
くだらない妄言を吐き散らすな
そもそも身内なら庇って当たり前
言うこと全て信用できない
また次のようにも言います。
信用しない
信用しない
そもそも鬼は大嫌いだ
猜疑心が強く鬼に強い憎しみを抱いている人物だと分かる台詞です。
しかし、それと同時に1つのスイッチが入ります。いずれ彼は炭治郎を信じることになるのだと。
俺は信じる
さて、先の柱合会議での伊黒さんの言葉は、あの名言につながります。
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竈門少年
俺は君の妹を信じる
鬼殺隊の一員として認める
汽車の中であの少女が
血を流しながら人間を守るのを見た
命をかけて鬼と戦い
人を守る者は誰が何と言おうと
鬼殺隊の一員だ
(中略)
俺がここで死ぬことは気にするな
柱ならば
後輩の盾となるのは当然だ
柱ならば誰であっても同じことをする
若い芽は摘ませない
竈門少年
猪頭少年
黄色い少年
もっともっと成長しろ
そして今度は君たちが
鬼殺隊を支える柱となるのだ
俺は信じる
君たちを信じる
炎柱・煉獄杏寿郎の台詞です。
伊黒さんの「信用しない」という言葉と対比させての「俺は信じる」という言い回し。
そして「柱ならば後輩の盾となるのは当然だ。柱ならば誰であっても同じことをする。」という言葉。これは「強きもの」の在り方。人としての生き方という「鬼滅の刃」のテーマの一つを語っていますが、同時に後の伊黒さんと炭治郎をの共闘を予感させる狙いもあるのです。テクニカル!!
俺は信じない
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俺は信じない
そして煉獄さんの訃報を受けての伊黒さんの一言。
このたった一言で読者の伊黒さんへの印象がひっくりかえされるんですよね。良い流れです。テレビアニメ版では省略されちゃったけど…。
感謝する
無限列車編に続く遊郭編では、音柱・宇随天元が炭治郎たちを導く柱として登場し、共に戦いながら炭治郎と信頼関係を築いていきます。
そして遊郭編の最期は、戦いの後かけつけた伊黒さんと宇随さんのやりとりで終わります。
いいや若手は育ってるぜ 確実に
お前の大嫌いな若手がな
このとき、伊黒さんは明らかに「ファッ」という嫌悪の表情を見せるのですが、また、ブーメランとして伊黒さんに戻ってくるのです。
後に無限城で、伊黒さんは炭治郎と共に戦いながら言うのです。
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炭治郎
感謝する
これは遊郭編で宇随さんが言った
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竈門炭治郎
お前に感謝する!!
という台詞へのオマージュです。
かつて炭治郎に否定的だった伊黒さんが、宇随さんと同じく炭治郎を信頼して共に戦う。
実に胸アツな展開ではないでしょうか。
ここまでは、伊黒小芭宇宙が炭治郎堕ちするまでの布石と軌跡であるわけですが、伊黒さんの「信じない」にはもう1つの意味があると思うのです。
身内なら庇って当たり前
柱合会議で伊黒さんは鬼(ねずこ)を連れた炭治郎に次のように発言しています。
くだらない妄言を吐き散らすな
そもそも身内ならかばって当たり前
言うことすべて信用できない
俺は信用しない
「身内なら庇って当たり前」
ごもっともな台詞ですが、この言葉の意味は後々、伊黒さんの過去があきらかになるにつれ、深みを帯びてくる良くできた台詞。
伊黒さんの一族は蛇のような容姿をした蛇鬼に仕える一族で、生け贄として捧げられるために、親族によって座敷牢で育てられました。
彼にとって「身内」とは、庇ってくれるどころか、代々、身内である蛇鬼と共謀して人の命を奪う鬼に与する者だったのです。
だからこそ身内である鬼を庇う炭治郎に対し、絶対に信用しないと、シニカルな発言をしたと思われます。
しかし、連載終了後、ファンブック2が発売されると、さらに伊黒さんの台詞の印象が変わる新エピソードが追加されていたのです。
生き残った従姉妹
~伊黒小芭内の大正コソコソ噂話~
伊黒さんは生き残った従姉妹のことをずっと気にしていて、その後の様子を調べてもらったところ、残された財産で悠々自適に暮らし、結婚して子供にも恵まれ幸せに生きていました。
それが伊黒さんには信じられず、ひどく驚いたと同時に、ショックでした。
幸せになってはならないというわけではありませんが、財産がどのようにして蓄えられたものであるか、自分たちの血筋のことなど、何もなかったかのように惨劇の起きた屋敷で贅沢をし続ける従姉妹のしたたかさが羨ましくもあり、怖ろしくも見えたようです。
「信用しない」は、実は「信じたい」の裏返し。憎しみの中どこか信じようとしていた伊黒さん。身内を庇っていたのは、伊黒さん自身だったのです。