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2024.08.21根底に流れる価値観への興味

人々の価値観の基盤には、生まれ育った文化や歴史が流れる。
スロバキア人やウクライナ人も例外ではない。
同じ“ヨーロッパ”だが、西側諸国とは全く異なる。
その大きな要因となっているのが、共産主義を経験してきたことだと思う。

スロバキア支部の事務局長は60歳を過ぎた初老で、白髪まじりの立派なヒゲはサンタクロースのようである。牧師をしていたのもあり、チャーミングという言葉がぴったりな、物腰柔らかな人である。
彼が事務所にいる時は、「ひょこっ」という効果音が聞こえそうな様子で、必ず私の部屋に顔を出す。その度に、10分程度雑談をしてくれるのは、彼なりの私への配慮だろう。

今日も挨拶を交わし、そのまま雑談タイムに突入した。
内容は昨日から突如開始した、事務所横のヘルプセンターでの物資配布についてだった。スロバキア支部はアマゾンと提携を組んでいる。どうやら、スロバキアのアマゾンでは、顧客から一度返品された商品は、他の人に渡らないようにしているらしい。それを廃棄するのは勿体無いので、我々に寄付という形で回ってくる。
おかげで、支部の倉庫の中はビタミン剤、CD、粉ミルクなど異なる商品が、一つの箱に押し込まれてある。それを分別し、誰に・いつ・どこで配布するのか調整するのがスロバキア人スタッフの一つの仕事である。

アマゾンからの未整理の寄付

昨日は、食器類を倉庫から引っ張り出し、ウクライナ人を対象に配布していた。そのプロセスなどについて話を聞いていた。
「日本人は、例えば紙が置いてあったら一枚だけ取っていくだろう?ウクライナ人というのは、無料でもらえると聞くと、自分の必要分以上取っていこうとする。」
私はこれを聞いて、少し偏見まじりな彼の言葉に違和感を覚えた。「日本人でも束で持っていく人もいるだろうけどな...」と反論しようとしたが、彼の話は止まらない。

「ウクライナもスロバキアも、ものが自由に手に入らない生活をしてきた。例えば、僕が子どもの頃、バナナが手に入るのは年に2回だけだった。クリスマスとイースター。その時には、みんな長蛇の列をなして、ひたすら待つんだ。
そういう経験をしてきたから、物資配布支援でウクライナに入った時も、みんないずれもらえると思って待つんだよ。事前に登録した人の分しかないって言ってもね。だから、最後はトラックの中が空なのを見せるしかない。
君たちみたいに、共産主義を経験していない人には想像がつかないと思うけど、そういう考えが根底に流れているんだ。」

個人差があるだろうと、やはり納得がいかない部分があった。しかし、資本主義で生まれ育った私とは、異なる価値観が流れているだろうとは思う。

その後ファンドレイジングに必要な情報を収集するため、事務所のヘルプセンターに訪れたウクライナ人にインタビューをした。調査内容は、ピサンキという卵形のウクライナの伝統工芸品についてだ。

「これは、どういう時に作るのか」
「ペイントしたことはあるか。どんな思い出があるか」

50〜60代の女性3人が答えてくれた。
「本来はイースターの時に、神様に捧げるの。だけど、最近はウクライナの伝統工芸品としてお土産屋さんにたくさん並んでいるわ」
「私が子どもの頃ペイントしたことあるけど、大体1色で染めたわ。玉ねぎの皮、ビーツ、緑色の消毒液などで、色水を作るの。模様もつけたい時は、葉っぱを卵につけて、色水に浸すの。」
これを聞いて、私は最初ナチュラリストなんだなと思った。しかし、とんだ勘違いだった。

「子どもの頃は共産主義で、ソビエトが宗教弾圧していたわ。だから、教会や学校で卵の色付けをするなんて出来なかったわ。いつも家の中で、ひっそり家族だけで祝うの。指導者たちも、私たちが教会に行かないように、わざわざイースターの日に合わせて道路の掃除とかさせたのよ。
これは、東部に住む人たちの話だけどね。西部はもっと寛容だったみたいだけど。」

これを聞いて、彼女たちには玉ねぎの皮やビーツでしか、卵に模様を描けなかったのだと気が付いた。圧倒的に、手元に物がない生活を送っていたのだ。

宗教弾圧についても、以前ケジュマロクで登山していた時に聞いた。
「ソビエトによって、クリスマスの日付を12月25日から1月7日に変えられた。クリスマスの前は断食する必要があるんだけど、1月に変更したことで、ウクライナ人にとって大切なお正月をお祝い出来なくなった。」

ソビエト連邦が従属国に与えた影響は、私の想像以上に深いことに鳥肌がたった。

現在は「資本主義」「西欧的価値観」が我が物顔で世界を牛耳っている。私もその価値観で物事を判断してしまう。だから、根本的な思考回路と正義感が異なるイスラム教徒に、私は興味を抱いてきた。しかし、彼女たちの話を聞いて、旧共産主義の人たちの根底に流れる真の部分に、一気に関心が向かった。

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