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2024.12.29 「ヨーロッパの北朝鮮」と呼ばれた国
「ヨーロッパの北朝鮮」
「肝臓を奪われ売り飛ばされる国」
枕詞のインパクトが非常に強い国がアルバニアだ。私がこの地に向かうことを決めた動機も、義姉から「長年鎖国が続いていたため、手付かずの姿が見られる」と聞いたからである。
昨日ベラトに向かう時も使った、バスターミナルがある。
代償様々なバスが並び、フロントガラスに行き先が書かれている。駐車場には人が溢れ、各々行き先を叫んでいる。観光客丸出しの私が歩くと、「どこに行くんだ?」と2、3人集まってくる。しかし、親切な国代表アルバニア。ぼったくりは一切なしの会社に私を導いて、仲介料も求めず、皆満足して去っていく。
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この呼び込み形式のバス乗り場は、アフリカなどでも見られる。そのため、“発展途上感”が窺える。田舎の方に行くと、生きた鶏を持って歩いている人もいるし、車道の横でオレンジを売っている人も見かける。
ティラナ市内を移動する路線バスは、ICカードはもってのほか、チケット売り場すらない。車内で係員が小銭を持ち歩きながら、紙のチケットを売り歩くのだ。
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一方で、首都のティラナに行くと、小洒落たカフェやレストランが所々ある。楽しみにしていたホッシャ博物館は、旧ソ連時代の面影をすっかり消し去り、モダンな仕様に様変わりしていた。高層ビルも乱立しつつある街だ。
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「ヨーロッパの北朝鮮」の面影は徐々に消えつつあることに、少しの寂しさを感じた。それと同時に、猛スピードで発展していっているのだろうと実感した。国民にとっては、それを願っているのかもしれない。だが、この“未発展”と“発展”のバランスが良いと感じた私にとっては、今の状況を維持してほしいと感じた。
だが、なぜアルバニアは悪評とも言える枕詞がつくのか。
そのヒントは、バンクミュージアムにあった。本当は、中心部から5km離れたバンクアート1に行きたかったが、時間の都合で、仕方なく市内にある2の方に行った。
当国は、ホッシャが独裁政権をとってから、ソ連・中国と仲違いをした。そして、1978〜1990年まで鎖国。ソ連を仮想敵とし、国民に武器を配ったり、国内に75万(3人に1つの割合)の対核攻撃用の防空壕まで設置させた。これが頑丈すぎて取り壊せられず、未だ地方に行くと残骸がある。個人的には、“本物”が見られたと少し感動をしてしまった。
また、当時特別警察も採用し、国境を渡ろうとする者がいれば、すぐさま銃殺する。
スパイ対策も過激で、あちこちに監視カメラ、盗聴器が仕掛けられていた。箒の柄にも仕込まれている展示に、思わず「愛の不時着」にある、ホテルの盗聴器を全て外すシーンを思い出した。
無実の住民を、偽造証言と写真でスパイに仕立て上げるというのも、“あるある”だったらしい。「北朝鮮」と呼ばれる所以がわかるだろう。また、内情が窺い知れる点から、臓器の話も尾鰭をつけたのだろう。
また、世界で始めての無神論宣言をおこなった。そのため、ベラトの教会やモスクを含む、各地の宗教施設が破壊されている。
ミュージアムは、例の防空壕をリノベーションして作られているが、たった数時間いただけの私ですら、少々恐怖を覚えるものだった。緊急時のアナウンスが流れ、一部の部屋では一切光が入らない。そこに一人で入るのは、ひやっとした。
ネットの情報によると、バンクミュージアム1の方は、特別警察の秘密施設のリノベで、さらに規模が大きい。一方で入場者は少ないため、緊張感がいっそう高まるらしい。
このような恐怖政治下だったため、アルバニア人にとっては当時の記憶を彷彿させる、防空壕やホッシャ博物館というのは、負の遺産となっている。今後の北朝鮮の行方は計り知れないが、解体した時に、一体国民はどうなるのだろうと心配だ。
アルバニアの独裁政権後には、ネズミ講によって国民の2/3が財産を失うなどの、追い打ちをかけるような出来事に見舞われている。だが、今徐々に、人々の心も街も立ち上がろうとしている。
きっと10年後にまた訪れるなら、全く違う景色が広がるのだろう。それが楽しみでもあり、少し寂しくもありながら、6日間の旅に終止符を打った。