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死にたくなったら自動車学校に入ろう

都会では潰れた銀杏と下水の悪臭コンビネーションがみなさんの鼻をついている頃だろうが、私は都会から離れて快適に暮らしている。

なぜなら、山形県の自動車学校に合宿で免許を取りに来ているからだ。

合宿免許は素晴らしい。2週間で免許が取れる上に、毎日ホテル暮らしだ。私は自動車学校に来て以来、生命力に満ちている。

というのも、それ以前の私はかなり酷かった。うつ病で会社を休職して以来、ずっと心の中に秘めていた情熱とか、闘志みたいのがふっと消えてしまった。何をしても満たされず、常に無気力で、ただ生きているだけだった。
楽しい事をしている時は楽しいが、その後に物凄い賢者タイムがある。最悪だ。まずは環境を変えようと、ずっと考えていた転職をした。

転職先に内定をもらった後、ボスに「免許持ってる?もしあったらありがたいんだけど。」と言われ、いやいや免許を取ることにした。
幸いなのか、有給消化期間が約1ヶ月あったので、本当は全国を旅行する予定だったが、全部白紙にして合宿免許に申し込んだ。

山形行きの新幹線に乗ったが、緊張と不安のあまりお腹を壊してずっと下痢だった。お手洗いの順番待ちをしているおばさまに、すごい怪訝な顔をされながら何度もお手洗いに並んだ。山形に着いて、最初の夜はずっと不安で、とにかく早く帰りたくて、ずっとスマホを見ていた。

私が変わるのはここからだ。

免許を取るには、2つのテストに合格しないといけない。
一つ目は仮免試験、二つ目は本免試験だ。
仮免試験は合宿免許1週間後に受けるので、学科試験と技術試験両方とも猛勉強しないといけない。

仮免、そして本免合格にむけて勉強や運転練習をしている中、ふと気づいたことがある。
無気力が完全になくなっていたという日本語はおかしいが、本当にそんな感じで、生きてて良いかも!と思えるようになった。

考えるに、理由が3つある。

  1. 仮免という目標に向かって集中して取り組むから

  2. 同じ目標を仲間と共に追うから

  3. 運転中に死ぬ思いを何度もするから

クラスで一番アホだった女が運転免許を持っていたので、簡単に免許は取れると思っていたが、そうではなかった。めちゃくちゃ勉強した。仮免を取れないと普通に延泊になる。絶対に嫌だ。だから隙間時間は勉強をする。暇な時間がないと、人は余計なことを考えずに済む。今まで空き時間は「今日は何に幸せを感じたんだっけ…?」「幸せってなんだろう…?」など考えていたが、仮免取得にむけて頑張っていた頃は「路側帯の種類について」「安全地帯とは」「交差点の右折方法について」しか考えていなかった。

自動車学校で友達が2人できた。一人はメガネをかけている年上のお姉様、もう一人はメガネをかけている年下の男の子。お姉様は若々しくて話しやすいし、男の子はちょっとアホで可愛い。その二人と大体同じ学科を取ったり、空き時間はお話したりしていた。二人と同じ目標(仮免合格)にむけて頑張るのは楽しかった。

仮免を無事取得したその日から路上教習が始まった。山形は車社会なので、法定速度はあるようでないようなものである。ずっとクリープで走り続けてきた人にとって、路上教習は自殺行為で、何度も死ぬ妄想をした。そして教官が鬼怖い。普通に怒鳴る。怒鳴られるのも慣れていないので、「はひい」みたいな返事しかできない。一度「ルールを守れ!!!」と怒鳴られた後に、リアクションに困り「シュン。」と口で言ってしまった。ただ路上教習が終わった時、毎回「生きてて本当によかった。そして誰も殺さなくてよかった。」と思う。


なんで生きてるんだろうとか、余計なことを考える暇もなく、仲間と同じ目標を追い、一日のうちに何度も「生きててよかった」と思う日々である。死にたくなる暇がない。良い暇つぶしであった。

日々の生活にこれを転用していけば良いが、3の何度も死に目に遭うは難しいので、1と2を取り入れていこうと思う。
まずは仲間と共に仕事に打ち込んで、それでも目標を見出せなくなったらTOEICや検定にでも申し込もうと思う。


それでもまた死にたくなってしまったら、大金をはたいて自動車学校に再入学する。


今田桃香

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