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土井喜晴さんの、スペアリブ

昔から、料理を作ることも、食べることも好きな母は、75歳を過ぎた今も、料理番組や料理雑誌のチェックに暇がない。

食への探究心が衰えることのない母。

Eテレの「きょうの料理」は欠かさず観ているし、雑誌の「きょうの料理」「きょうの料理ビギナーズ」「おかずのクッキング」はほぼ毎月購入し、熟読している。テレビで良さそうなレシピが紹介されると、そこらへんにあるチラシの裏にサササッとメモを取る。私が見ても解読できない暗号のようなフニャフニャの文字がそこには並んでいるのだが、本人には読めるようで、早ければその日のうちにメモを見ながら料理を作る。

こんなふうに料理に関してはチャレンジ精神が旺盛すぎる母は、私と娘が帰省すると、待ってました!とばかりに新作の料理を作って振る舞ってくれる。「これは瀬尾幸子さんの塩糀の唐揚げ、これは土井善晴さんのスペアリブの酢煮、これは飛田和緒さんのお浸し・・・・・」と、説明付きで大きめの食卓に収まりきらないほど料理がずらりと並ぶ。料理が一通り揃ったところで「おいしいのがあるんだよ~」と、酒好きの父がとっておきのお酒を奥から出してきて、ちょっとした楽しい宴が始まるのが常だ。

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「これ、おいしい!!!」と、これまた食いしん坊の孫娘が絶賛し、「へー、これどうやって作るの?」と私が感心しながら聞いたりするものだから、母はますます調子に乗って嬉しそうに料理の説明してくれる。「あ、それ、すっごく簡単なのよ。あんたも作ってみなさいよ」といって、帰り際にフニャフニャの文字のメモを渡してくれる。

この伝統(というのか?)は、私にも妹にも受け継がれたようで、娘が私の妹と一緒にお菓子づくりをすれば、行正り香さんのショートケーキに、栗原はるみさんのスパイスシフォンケーキが焼き上がる。「○○さんの・・・」と頭につくだけで、なんだか特別な感じがするし、すばらしく美味しく思えるのはなぜだろう。

「○○さんの・・・」は、ブランドのようなもの。

私たち家族にとって、「○○さんの」というのは、ルイヴィトンのバッグ、とか、シャネルの香水、とかと同じ「ブランド」なのだ。だから、料理研究家の名前がつくだけで、なんとなく料理のテイストを想い浮かべることができるし、「それは、おいしいに違いない」という期待もふくらむ。「○○さんの」という料理につく枕詞は、わが家の共通言語として深く浸透しているが、他の家庭では通じないので要注意だ。一度、義実家で言ってしまったことがあるが、まったくその美味しさが伝わらなかった(そりゃそうだ)。

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私の本棚にも、土井さん、瀬尾さん、小林カツ代さん、有元葉子さん、藤井恵さん、コウテンケツさんなど、蒼々たるメンバーのレシピ本が並んでいる。中でも一番活用しているのが、小林カツ代さんの「カツ代レシピ」。すぐ見られるように台所においているのでボロボロになってしまった。カツ代さんの家庭料理はどれも簡単でおいしく、ほっとする味に落ち着く。そして私も「今日は、カツ代のピーマンの肉詰め」と、家族に説明しながら料理を食卓に運んでいる。

やることも見た目も、母に似てきたなあと思う、今日この頃。それが、とても幸せなことだということに、最近ようやく気がついた。

お母さん、ありがとう。いつも、ごちそうさま。


#おいしいはたのしい #料理 #家族の楽しみ #エッセイ #つくるのは楽しい

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