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ペルソナ5 獅童及び無印版ラスボスについて 前編
P5の黒幕的キャラクターである獅童関連についての考察記事になります。
また、無印版ラスボスについても関与してのお話になるので先にネタバレ注意と書いておきます。
【獅童の人となり】
【表向きの顔】
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P5の日本では精神暴走or廃人化事件と呼ばれる、不可解な動機や行動による事故や不祥事が多発している。
この状況下で国民の不安は高まっており、それに手をこまねいている現政権に対して真正面から批判し、力強い言葉と態度でカリスマを得ているのが獅童という政治家。
【本性】
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しかしてその実態は、精神暴走事件の首謀者。
決して足がつかない異世界からの干渉によって犯罪を行い、マッチポンプ作戦によって人気と裏世界での力を手に入れ、最終的にこの犯罪を国家レベルで行おうとしていた悪の大魔王みたいな奴である。
【ガキガキ言う奴が……】
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獅童が劇中で「ガキ」という単語を使った回数を列挙するとたぶん30以上はいく。
とにかく登場するとほぼ必ず「ガキ」に類する台詞を吐く。
ここまで徹底しているのであれば、明らかにシナリオライターは獅童というキャラクター構築において「ガキ」というワードは絶対不可欠なものなのだと考えていいだろう。
【名前から】
獅童のフルネームは「獅童正義」だが、見ての通り「獅童」と名前の時点で子供を意味する「童」の字が入っている。
別に「獅堂」でも後述する事情から「獅頭」でも、国民の先導者にして扇動者であることを考えると「獅導」でも良かったのではと思う。
しかしわざわざ「獅童」にして、彼が劇中でひっきりなしに「ガキ」と吐き捨てまくることを考えると、ペルソナスタッフは「ガキガキ言う奴がガキ」と獅童のキャラクター性を暗に提示していると解釈して良いだろう。
【ラスボスとの繋がりから】
P5無印のラスボスは統制神ヤルダバオトである。
ヤルダバオトの元ネタはグノーシス主義における悪神、偽神たるヤルダバオートであり、以前の記事でも書いたがざっくり言えば「全知全能拗らせた邪悪な神」である。
ペルソナシリーズ世界観設定のお話になるが、このシリーズにおいて神話の神々や悪魔に怪物などの名を関する存在は、それそのものではない。
人類の集合的無意識で「その神格はこういう存在である」という認知が集まり、自我と異能を獲得するまで昇格した存在、ようするに「人間が作った神」である。
余談だがP3のニュクスは別格でアレは完全に別次元の存在。
※※※
で、ヤルダバオートがなんだという話だが、彼の神格の姿はライオンの頭部を持つ蛇(竜)だとされている。
先ほど私が「『シドウ』という名前なら『獅頭』でもいい」と述べたのはこれが理由である。
実際にシドウパレスではライオンの頭部のモチーフがあちこちで使われており、もっとも厳重に守っているオタカラ安置場所の門はこのようになっている。
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また、獅童も自身の名前とライオンの威容を重ねてか、シャドウ獅童第一形態もライオンをモチーフにしている。
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※※※
そのうえで「獅頭」ではなく「獅童」なのはなぜなのかというと、再びヤルダバオートの話に戻るが、この神格は「私は妬む神である。私のほかに神はいない」と嘯く。
だがヤルダバオートは更なる上位神格が誤って事故的に生み出してしまった恥ずべき失敗作の私生児であり、非常にスケールの大きい「親に見捨てられた悪ガキ」というわけである。
このへんはP5的には獅童より彼の息子である明智吾郎の方が近いか。
後編で書くが、獅童と統制神ヤルダバオトの繋がりは深いと私は見ている。
【政治家の年齢として】
獅童の年齢は53歳である。
内閣総理大臣に当選した年齢としては若いが、人間としてはいい加減身体にガタが来たことを感じるそんな微妙なお年頃である。
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明智との会談時で過去を振り返っているが、どうやら獅童は本編開始2年ほど前に生意気な若手の政治家として上からの圧力でピンチに陥った経験があるらしい。
後述するように獅童の脇と詰めの甘さによる自業自得なのではないかと私は思うのだが、とにかく獅童自身の認知では腐った老害のせいで新進気鋭で高い志を持ち実力もカリスマもある若手の自分は酷い目に遭わされた――ということになっている。
政治家としては言わばまだガキの方であるが、しかし人間としては寿命という限界が見え始める年齢であり、本当の意味で未来の可能性がある10代20代の若者たちが、内心では妬ましくそれがしょっちゅう「ガキが」と吐き捨てる一因になったと考えて無理はないだろう。
ようするに余裕が無いからマウントを取らないと落ち着かないというごくごく普遍的なアレである。
【詰めが甘くて沸点低い獅童】
これはまぁ私が今更言わなくても皆さんよくわかっていらっしゃると思うが、獅童は本当に詰めが甘い。
二言目にはガキガキ言うのもアレだが、主人公の因縁の宿敵のくせに見事なまでにものすンごい小物な悪役として描かれている。
そもそも冤罪ふっかけた因縁の宿敵だと判明した直後に、現役検事の冴さんからは実に冷徹で容赦ない呆れ返った態度のツッコミが入れられている。
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若葉の一件でも彼女の懐柔が不可能だったので殺すというのは、あまりにも短絡的で暴力的であり、ロイヤルでの後付け設定だが後任研究者に成り得たはずの丸喜もしっかり潰してしまい、認知訶学の独占に必死すぎて優秀な研究者を自らの手で摘み取って研究を停滞させてしまっている。
獅童が真に優秀な指導者であれば、若葉も丸喜も自ら率先して彼の下についたことだろう。早い話人徳が無い。
大人は若葉や奥村社長に校長検察部長とあっさり殺すくせに、子供は舐めてかかっているのか双葉もジョーカーも殺さなかったせいで追い詰められてしまっている。
怪盗団の中でもジョーカーと双葉はそれぞれ異世界関連と情報戦においてチートレベルの実力を保有しており、生還トリック作戦でも功労者はこの二人なので、獅童の敗北は身から出た錆と言うべきところだ。
【他人には厳しく自分には甘く】
以下のスクショは生還トリック作戦成功後、選挙活動中の獅童に情報収集のため竜司が暴走して突撃してしまった一件での出来事である。
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このイベントは怪盗団側もやらかしているのだが、獅童側がそれ以上にやらかしているエピソードである。
重ねて書くがこの場面での獅童は選挙活動中である。
国民の皆様に媚売って票を稼がなければいけないのに、投票権のないガキにはこの態度である(注:P5が発売された2016年当時では18歳未満に投票権は無かった)。
どうやら獅童には投票権を持つ大人の視線があるかもしれないという木っ端政治家ですらわきまえている当たり前の常識がないらしい。
そして政治家獅童正義というだけでなく、悪党獅童正義としてもこの場面での獅童はやらかしている。
というのも、この時期には既に怪盗団のリーダーは獄中で明智が始末した――と、獅童は信じており、そして怪盗団メンバー全員の顔と名前は全て明智が報告しているので当局に完全にバレてしまっている(事実、新島冴の最後の尋問では怪盗団メンバー全員の名前が読み上げられ締め上げられる)。
ようするにジョーカーの顔を真正面から見た時に思い出せなかったのはもちろんのこと、竜司や春の顔を見た時に
「忙しい選挙活動中にクソガキが突っかかってきた」
↓
「いや待てこいつらの顔見覚えあるぞ?」
↓
「怪盗団じゃねーか」
↓
「おい明智どうなってんだ始末ついてねーぞ!!」
となりうるヒントがこれでもかと目の前に陳列されているのに、結局獅童は改心されるその瞬間に至ってもそんなことは思い出せなかったのである。
つまるところ、獅童はどうやら明智が提出したはずの資料に目を通さなかったか、通してもすぐ忘れたということらしい。
吾郎ちゃんは確かにミスを犯して怪盗団にハメられたが、はっきり言って獅童はそれ以上のミスをやらかしている。
それでいて予告状を出されてジョーカーが生き残っていると判明した時は明智に当たり散らすあたり、徹底して小物として描かれている。
【やや妄想入りの余談】
怪盗団が無事獅童の改心に成功した後、獅童の取り巻きたちは自分たちの保身のために獅童の政策を引き継ぎ、怪盗団を追い詰めようと必死に抵抗し始める。
彼らは完全に己の保身のためだけに動いていたため、ヤルダバオト討伐によって世論が変わり、さらに新島冴が先手を打ったおかげでジョーカーにも怪盗団にも直接的な手を打てず、劇中では描かれていないがそのうち御用となっただろう。
だが、そういった保身損得とは別に、心底獅童に心酔する信奉者がいたのならば実は怪盗団は危なかった。
上述したように、当局の中でも一部の人間は怪盗団メンバーの顔と名前を既に知っている。
↑このページでも紹介されているが、怪盗団メンバーは獅童パレス攻略中監視されていたうえに、そのことに誰一人気づいていない有様だった。
つまり、後先考えずに「獅童先生の仇!」と義憤を燃やす狂信者が獅童の側近クラスにいたのならば、怪盗団メンバーの一人くらいは凶刃の下に倒れていた可能性があったのである。
こういった危険性に気づけないあたりが怪盗団の甘さだが、結局そういうことになっていないあたりが獅童の人徳の無さを物語っている。
仮にそういう復讐をしそうな獅童の側近がいたとしたら、皮肉なことに明智吾郎くらいしかいなかったのではなかろうか。
※※※
また、獅童パレスでの認知存在全てが仮面を着用している=誰も他人に素顔なんて見せない=誰も信用していないと怪盗団たちは推測していた。
さらにそのうえで今まで述べた「懐柔できないなら殺すか潰す」「目障りな奴は全部潰す」という超絶短気な性格から鑑みるに、人を教育して使いモノにする、人と協力関係を結んで信頼を築くという能力が致命的に欠けた人物であったと言える。
政治家も教師も「先生」と尊称するが、彼は教師的な「先生」と呼ばれ得る能力を持っていなかった人物と言わざるを得ない。
ようするに獅童が小物な原因は、他人を信用したり他人に与えたりする余裕がない小心者で短気な性格が由縁と言え、実質的世界征服を目指している大魔王みたいな野望を抱いている割には卑近で俗物であり、だからこそ彼が嘲笑し蔑視する大衆に近い。
そして私は、そんな獅童だからこそヤルダバオトに「選ばれた」のだと考えるのだが、獅童の話はこれで一区切りがついたので後編に続く。