SPY×FAMILY ボンド編で見える東国の若者意識
前記事で触れたSPY×FAMILY東国の若者意識についての記事になります。
↑今回触れるのはこの四巻のボンド編が主になります。
アニメでも現在このあたりを放送中…?(実は見ていないのでよく知らない)
【ボンド編敵役のテロリストたち】
現実に今年起こったアレのせいで改めて我が国でもシャレにならない話になった公共の場での要人暗殺というお話ではあるが、あえてフィクションと現実は分けて考えたい。
ボンド編で敵対することになるテロリストは現役大学生の若者たちである。
正直テロリストのやり口としても、人間としても未熟極まりないクチバシの青いヒヨコちゃんたちなわけだが、発覚がギリギリのタイミングだったため毎度の如く黄昏が奔走しまくるハメになる。
これはメタ的にはお話のご都合上というのが一番大きいのは否めないが、敵国である東国で東国のテロリストを西国の諜報機関であるWISEが処理するという、東国の公安機関の甘さの尻拭いをWISEがやらさせられることが多いので毎度ギリギリの仕事になっている面も無視できない。
秘密警察のような暴力装置らしい暴力装置を設置してもなお、抑えきれない未熟なテロリストは結構出てくるわけだが、その理由が最新巻10巻で判明したかなーというのが本稿の主旨である。
【戦前戦時中のプロパガンダ】
実際に戦時中の東西でどれほどのプロパガンダが行われてきたかの詳細は描かれていないが、戦争勃発時の黄昏の年齢が10歳前後と思しき少年で、同年代の友人たちが兵士になれるほどの年齢になるまで戦争してそれでも終戦していなかったことを考えると10年前後もドンパチやっていたという計算になる。
そもそも戦前の時期から仮想敵国への偏見は西側で広がっていた。
このコロッケ屋のおばさんや、東西を往復して仕事をしていたらしい黄昏の父親などもいるため、一部の人間はその偏見と戦い是正したいと願っていたことも過去編では描かれている。
改めて書くが、これら戦前戦時中の世間的偏見、さらに国が推したプロパガンダは合計期間で考慮すると短めに見積もっても10年はほぼ間違いなく広がっていたと考えるべきだろう。
10年もあれば、人間の価値観を根幹から変えるには十分な期間だ。
ましてやそれが人生の半分以上の期間にもなる若者となれば……。
【ある意味では彼らも時代の犠牲者】
ハンドラーの言う通り、このテロリストの大学生たちは幼少の頃に「西国は悪魔だ」「西国と戦え」と教えられてはきたが、終戦後に「戦争」を教えてもらう機会が無かった世代なのだ。
戦時中と戦争終結後で政府の言うことが正反対で民衆が混乱するという事態は我が国でもあったわけで、この「意識差」の溝はとても深い。
オマケにここに「個人差」まで加わるのでもう大混乱である。
なお、本作は諜報機関が主人公の関係上、よく東国にテロリストが出てくる印象を受けてしまうかもしれないが、実行まで移すような行動力のある奴はさすがにごくごく一部であることは留意したい。
私的にボンド編に登場する大学生たちにあえて悪意ある偏見を向けて見ると
自分で苦労せず親の金で大学に行かせてもらえるほど恵まれ、幼少時に植えつけられた偏見を是正する機会が幾度もあったにも関わらず、エコーチェンバーで正義感に酔ったクソガキのお坊ちゃんたち。
である。
実態としてはそんなもんだが、それはそれとしてやっぱりある意味では彼らも時代の犠牲者であるというのも真実の側面ではある。
どっちなんだよと言われそうだが
諜報機関やマスメディアってのはここで言う「見たいように見せる」のがお仕事なのです。
そしてその虚実の中で戦い抜くのは、社会の中に身を置いている以上誰でもやらなきゃいけないことでもある。
【余談】
完全に本稿の主旨とは関係ないが、四巻読んだ当初から思っていたことなのでちょうどいい機会なので書いておこうかと。
黄昏よ、こんなヒヨコちゃんのテロでうっかり死んでしまうとは情けない!
次ページの夜帷の暴走思考は置いておくとして、彼女の黄昏への評価は実際全くもって正しい。
オペレーション”梟“発動後からすっかり黄昏の切れ味が鈍くなり甘ちゃんになってしまったことはまぁ事実である。
過去編での元々の人格を考えると、むしろ元通りになりつつあるという方が正しいのだが。
※※※
ただ、仮初めで契約上の幸せのテンプレートの上でホントに絵に描いた家族だったとしても、劇中でのアーニャの活躍で暗い未来が回避されたように、その甘さのうえで生じた落ち度を家族が支えてくれるというのなら、それはそれで問題ないんじゃないかというお話でもあったりする。
……黄昏自身が自分の甘さを自覚したうえで、あればの話だが。
そのうちこの甘さが取り返しのつかないことになったりしないだろうな……。