クライマキナ/CRYMACHINA クリア後感想 ネタバレ有
こっちはネタバレ有での感想です。
【2000年かかった滅亡と創世の神話】
本作は創世記を下敷きにした、ある種の創世神話であり、同時に滅亡の物語でもあります。
舞台が「エデン」で「E.V.E」を「本当の人間」にするということからまぁ発売前情報からその感はありましたが、最終的に行き着く果てが生かす殺すとかのレベルではなく、純粋な生存戦争にまで終結するのは完全なる予想外。
【製造(うま)れた意味を壊すRPG】
生物は次代に子孫を残すために生まれるのが定説ですが、本作の主役は機械なので、明確な目的と目標を以て製造されています。
すなわち大目的は「人類再生」。そしてそれを円滑且つ公平に成すため、それぞれ違う役割を持たされた八体の自律機械が稼働――していました。
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しかし、人間の業は深かった。
最も命令権が強い統括神機よりある意味ではもっとも強い権限を持つ「人間定義」担当のアントロポスの開発者アダムが不正をしており、自分の娘を優先的に復活対象にするように仕向けていました。
さらにはそうして復活された「本当の人間」に従うことを、最初に自我に芽生えたが故に自分たちの妹や子供のように愛していた第一神機プロパトールが心を痛め、疑心を抱き、人類再生に関わる神機であるエノアもまた慈しんで育てた人格データが不当に扱われる現実を拒むように。
結果、しっちゃかめっちゃかな事態を経て本編へと至り、最終的に「何もかも最初からやり直す」派閥と「今生きている尊い命を守るために初期化を拒む」派閥へ真っ二つに分かれて生存戦争へと至る――という、もうどうしようもない事態に。
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製造れた意味なんてもう知ったこっちゃない、自分を作った創造主への忠誠も命令も投げ捨てて、人間に対して牙を剥く。
この生存戦争の結果、2000年かかって旧人類は遂に滅亡し、そして機械たちがもはやボロボロになって、敵勢宇宙人に目をつけられた失楽園で細々とした創世神話を紡ぎ出すという、大変に業の深い物語。
それがCRYMACHINAでした。
……発売前から語っていましたが、このゲームの旧人類本当にもう往生際が悪くて業が深い。
でもこの業の深さと生存欲求、嫌いじゃないです。ギリギリの状況で他者を慈しみ、守れるほど高潔な人間なんてそうはいませんからね。
でもそれと弱者を必要以上に虐げるのは話が別だ。
【世界からの抑圧と虐げへの反抗】
皮肉なことに、この逆境の中で苦しんでもがき、多くの命と尊厳を奪いながらも最善の結果を出そうと抗っていたのは、本編主人公であるエノア一家四人の少女たちだけでなく、旧人類においてエデン計画の総責任者であった少女「イブ」もまた同じだったということが、よりによってゲームクリア後少しずつわかるようになっています。
デザイナーベイビーであったイブは周囲から、それこそ実の親にすら羨望、異端、畏怖、嫉妬といった感情を向けられ、苦しんで我慢していた。
それでもデザイナーベイビーである自分だからこそできる、人類絶滅という最悪のシナリオを書き換え、人類から認めてほしかった。愛してほしかった。ただそれだけだった。
……殺した相手の背負っていたモノも知ってどうするかも、殺した人間の権利である責任というところでしょうかね。
妹のリリーや、同僚の徐冬という女性にイブは愛されていたようですが自分と同じ迫害に巻き込ませないために距離を置いていたというあたり、まるでMonarkのこころちゃんですな……。
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イブに好感を持っていた徐冬はノエインとレティアの製造者でもあります。
ノエインの人格データと劇中での言動や行動を見ると、彼女もまた自分の親である徐冬の想いを汲んで、イブの意志を尊重したかったのであろうことがわかってしまいますね。
……なおノエインの素顔はどうやらミコトとそっくりなようで、そしてイブはアミを「自分のコピー」と言っていたので、つまるところ正に「来世では」といったところ。
ラストバトルでイブが「ミコトだけは降伏するなら命の保証をする」という提案をしたのは余裕が無くなってきたからだけでなく、徐冬のコピーであるミコトとの交戦は避けたかったという考え方もできますね。
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イブは劇中で本人が登場してからの台詞と行動は全て機械に対して高圧的で独善に満ちたものであり、だからこそ譲歩や妥協の余地なく生存戦争に至らざるを得なかったわけですが、内心は「人類再生の責任者」「旧人類の代表者」として絶対に退くわけにはいかなかった、という事情を知ると見方が変わります。
大体イブに対して先に攻撃(しかも不意討ちで、仲間への相談無しの独走の暴走)したのはレーベンですしね……。
交渉テーブルを用意する前に蹴っ飛ばしたのは主人公だったので、「主人公側の正義、主張」の正当性に疑問があるというシナリオになっています。CRYSTARも自分で殺しておいた妹を自分でヨミガエリさせるどうしようもない始まりなので、CRYシリーズはこういう面も人を選びますね。
でも一方でイブというか、エデン計画(によって製造されたロゴスとエクレシア)のせいで地球は壊滅的なダメージを負い、宇宙へと逃げるプランしか無くなってしまったので、旧人類側も大概だったりします。
【芽吹いた反抗の意志は受け継がれ、自らに反逆した】
そんな板挟みの承認欲求の中、イブが行った数少ない反抗意思は2000年の中でゆっくりと育ち、本編に至る萌芽になったことも示唆されています。
エクレシアの本気を出した強さは上述した通りなので(ロゴス単体だけで地球を滅ぼせるレベルなのに、それをさらに余裕で制圧可能な強さ)、こいつが味方に回ってくれなかったら完全にエノアたちは詰んでました。
また、反逆の刃を向けたレーベン=第一神機プロパトールもまた、イブが製造者。
この夢はある意味、エノアもレーベンも同じ想いだったのだけれど、互いに殺し合うことでしか叶えられない夢であり、我が子に反逆されて夢が潰えたのは皮肉な話です。
【製造者諸々】
【エノアの製造者】
全ての神機を統括し「人類再生」を果たさなければならないプロパトールが「本当の人間」に失望し、機械を守ることを優先したのがCRYMACHINAという失楽園の物語なのですが、その大きな原因の一つはエノアでもあります。
第一~第六まではエデンの運営維持担当ですが、第七神機ゾーエーと第八神機エノアは直接的に「人類再生」を担うため、感情豊かで情緒に機敏な自我を持つ神機へと育ったのは察しがつく話です。
結果、エノアは心をこめて大事に育てた我が子のような人格データに「失敗作」「廃棄処分」という烙印を押され、虐げられ不当に扱われることに心を痛め、抗議し、遂にはぶっ壊れるという事態にまで発展。
この立場はプロパトールにはシンパシーを覚える状況であり、だからと言ってエノアだけ依怙贔屓するわけにもいかず……というジレンマが、最終的に本編へと至る滅茶苦茶な状況を生んだ一件になっています。
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で、そのエノアの製造者なのですが
……CRYSTARのプレイアブルキャラである777の生前時の名前はナナミであり、天才少女であり、それ故孤立と孤独に耐えきれずに自殺したわけですが、CRYSTARの世界が仮想世界であり777のオリジナルこそがエノアの製造者だった――というのは、証拠は無いですがお遊び程度に入れた要素のような気がします。
……しかし
こっちもこっちで開発者のナナミ・アタラクシアは自殺した模様。
【ノエイン・レティアの製造者】
徐冬という女性ですが、姓の「徐」は中国では珍しくないものです。
問題はこれに加えて下の名前が「冬(ドォン)」ということ。
さて、日本語音読みで徐冬を読むと「ジョ・トウ」であり、中国語読みだと「シュー・ドォン」となるようです。
……ところで名無しの権兵衛の英語圏版は男性は「ジョン・ドゥ」女性は「ジェーン・ドゥ」になります。
……音やカタカナの字面が似ていると思うのは少々勘繰りすぎでしょうか?
ようするに、二体もの神機を手掛けたもう一人の女性責任者の名前が仮名っぽいというのは、なんだか怪しい話ですね。
【ロゴスの製造者】
ジョン・オッペンハイマーさんですが、この人エデン計画研究機関に属しており、ロゴスの製造責任者でありながらロゴス暴走起動事件を手引きした裏切り者です。
元々デザイナーベイビーに関して嫌悪感を持っていた人だったようなので、そこらへんの心境からエデン計画に反対する組織と手を結んでしまった模様。
アントロポスに不正コード仕込んだアダムといい、エデン計画の男性責任者ロクなヤツいないですね……。