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【サモンナイト】『エルゴの王』は無能だったのか?
サモンナイトU:X完結を機に、サモンナイト関連の諸々を考察するために本noteを立ち上げることにしました。
何せ設定が膨大かつ裏設定を含めるとシナリオライターの都月先生ですら時々間違えるくらいなので誤った見方も多いかと思いますが、お付き合いいただけると幸いです。
さて、今回はサモンナイト世界観の根っことなる英雄【エルゴの王】について。
【来歴】
彼の来歴をおさらいしてみましょう。
名も無き世界「レゾンデウム」で生まれた人間
五界のエルゴの意志(の欠片)を託し、世界の混乱を平定するためリィンバウムに赤子の頃に召喚された
のんきで気のいい、幼馴染に頭が上がらない羊飼いの少年だったという
エルゴから使命を託されてからは、必要な時のみ力を振るいできるだけ対話で以って異世界との平定を成そうとした
しかしそうしている間にリィンバウムを除く四界のエルゴが長く続く戦乱の負の想いに汚染され、ディエルゴと化しリィンバウムの破壊を決断してしまう。
【エルゴの王】にリィンバウムを破壊せよとディエルゴたちは命じたが、王はこれを拒否
のみならず与えられたエルゴの欠片とディエルゴたちの共界線を断ち切り、ディエルゴたちに反抗する
異世界からの侵攻は四界のエルゴ直々によるものとなったため、戦乱の苛烈さは今までの比ではなくなるほど大きくなる
側近のゼノビスがエルゴを抑制、封印するための魔剣を開発中だったがその完成を待たず王はリィンバウムを取り巻く強固な結界を張り、異世界からの侵攻を無理矢理止める
結界を張り戦乱が停戦してからは、これらの真実を側近たちにのみ教え、そのまま誰かに伝えることを禁じて救世の英雄として祀り上げられる
周囲からの声に応え【聖王国】の原型となる王国を建国するが、その裏で一度だけ本当の想い人だった幼馴染と一晩を共にし、旧王国の血筋の源流を作ってしまう
上記の一件でゼノビスは責任を問われ、王の下から去らざるを得なくなる。その後【無色の徒】という組織を立ち上げ王とは別口で事態を解決する道を探すことになる
寿命が尽きるまで異世界との平定に奔走し続けたが、結局それは実を結ばなかった
護衛獣のメイメイがリィンバウムの行く末を見守ることを命約として交わし、ほどなくして死亡
功も罪も、両方あります。
今回はその功罪どちらが重いかに天秤を傾けることが目的となります。
【エルゴの王が成した良い部分】
これに関しては、間違いなく「世界を救った」という点が真っ先に挙げられます。
彼にしか成しえなったことであり、もし彼が自らの責任の重さに耐え切れず全てを投げ捨ててしまえばリィンバウムは滅亡していたことでしょう。
そのやり方に問題があろうがなんだろうが、彼が楽園の救世主であることに一切虚偽はありません。
また、彼の優しい人柄で異世界の高位存在を多く改心させたことも見逃せません。
王は人のため短い生しか全うできませんでしたが、彼に衝き動かされた悠久の時を生きる存在が何体もおり、彼らは自らの世界のエルゴと結果的に敵対することに近い立ち位置を自覚しながら、当のエルゴをなだめる手段をそれぞれに模索しています。
彼らの願いは狂界戦争で成就されました。これもまた【エルゴの王】が後世に残した良き贈り物の一つでしょう。
また後述する悪い部分の先取りとなってしまいますが「その程度」で済ませられるほど王が後世に気を配っていたであろうこともあります。
それこそ自らが敵対したディエルゴのように、晩年彼が自ら背負った責任で狂い暴王となっていたとしたら、その禍根は大きくリィンバウムに残ったはずです。
【エルゴの王が成した悪い部分】
こちらは色々あるでしょうが、私個人が総括して一つにまとめるとこうなります。
『真実を隠しすぎた』
開示しない方が良い情報もありますが、それにしても王はあまりにも重大なことをあまりにも少ない人々にしか伝えなかった。
とにかく、リィンバウム中の誰も彼もが「異世界からの侵略はもうない」「自分たちは侵略を受けていた被害者である」と思い込んだのですから、弊害がないはずがない。
異世界からの侵略は一時留めただけに過ぎず、その原因は召喚術で異世界の存在を不当に扱ったことにあり、このままではいずれ再び滅びの時が来てしまう。
いくらリィンバウム中が長い戦乱の世で傷つき疲れきり、真実を伝えられない状況だったとはいえ、後世の召喚術の実態を考えるととても褒められたものではありません。
最期の時までこの決断を変えなかったことが、もっとも糾弾されるべき部分だと思います。
※※※
思うに、ゼノビスが離反した時点で「真実」を知る覚悟と器量のあるものにだけ提示する試練のようなシステムを作るべきだったのではと考えています。
ゼノビスの啓蒙活動が過激化せざるを得なかったのは、いくら王の側近と言えど「真実」の内容があまりにも過激で誰も信じてくれなかったからです。
しかし【エルゴの王】が認めた情報ならば、事態の重さを察し状況を改善するために働きかけてくれる人材も少なからずいたでしょう。
【王】のお墨付きで『四界はリィンバウムを憎んでいる』なんていう情報は、悪心を持つ者に渡れば最悪の事態になりかねないものでもある劇薬ですが……。
それでも悔恨にまみれたゼノビスが著した「エルゴ碑文」しか真実のソースがないという状況よりは、マシだったのではと思います。
武を試す剣竜ゲルニカのように、知恵の天使か何かでこの真実の試験者となる者がいてくれたら良かったのですけれどね……。
他の些事も考えていきたいと思います。
【封印の魔剣の完成を待たず、結界を張ることで無理矢理停戦させたこと】
これも一時は止むを得なかったのですが結界は「外部からの侵入は拒絶するが、内部からは一方的に呼びやすくしてある」という構造のせいで召喚術の悪用に歯止めが利かなくなった原因になっています。
それだけ【王】が召喚術……異世界の住民との友誼が結ばれることを望み、成しえるはずだと信じていたからこそそのような構造にしたのでしょう。
劇中の時代を見る限り、この希望はとても叶ったとは思えないというのが、正直な所。
狂界戦争が結局起こり、勇者たちが理性と思いやりと力を全て適切に使ったからこそ、ディエルゴをなだめることに成功したのであって、異世界の住民との友情が戦争を終わらせたとは言いにくいです。
もちろん、数え切れないほどの異世界の住民の助けあってこそ成功した作戦だったのですが。
ただし、魔剣が完成していたとしてもそれで【王】の時代のディエルゴを鎮められたのかと言えば結果はわかりません。
何より、ぐずぐずしていたら戦争の影響で六つの全世界に深刻なダメージが及び、復旧不可能な地点まで行く可能性もあったでしょう。
「結界を張る」という決断そのものに対しては、状況を考えるに最善ではないにせよ事実上選択の余地が他に無いモノだったのだと私は考えています。
【旧王国の血筋の源流を作り、後世に騒乱の種を残したこと】
これは「【王】の直系血統が二つある」というブランドがあろうがなかろうが、結局似たような状況になっていたのではと思います。
後世に起こるお家騒動の逐一まで【王】に責任追及することはできない、というのが私の結論です。
ただし「一個人として不倫ってのはどうよ?」というのはまぁ思う心が無いわけでもないですが……。
ここで周囲を黙らせてでも自分の我侭を押し通せる身勝手さが無かったあたりが、【王】の性格と不幸を物語る。
想い人の幼馴染は賽の目がどう転がろうと、周囲の人々に利用され蔑まれたであろうことが想像できるのがなお辛い。
こう考えると、むしろ後世に騒乱の種を残したことより、逢瀬をしてしまったことで当人たち自身がより不幸になったのではと思います。
【なぜ王は理想郷を自らの代で成すことができなかったのか?】
『エルゴの王がもっと上手く立ち回っていれば~~』という話をしている以上、最終的にこの課題に行き着きます。
なぜ【王】は、自らの代で起こった狂界戦争を終結させられなかったのか。
偽りの理想郷しか作れなかったのか。
【王】の情報を明かした人が、彼と親しい立場だったメイメイさんくらいしかいないので情報源が偏っている気がするのですが、しかし描写を見る限り思うことがあります。
【王】の仲間にリィンバウム人が少なすぎる。
ネームドキャラクターは召喚師ゼノビスだけ。
もちろん、彼以外にも【王】の仲間となるリィンバウム人はいたのでしょうが【真実】を教えるに値するほど信頼できるのはゼノビスだけだったというのはほぼ確定かと。
ゼノビスとメイメイの会話を見る限り、とにかく【王】の周囲の人間たちは彼に縋るばかりで支えようとする者たちが少なすぎた。
※※※
頼もしい異界の友人たちが【王】にはたくさんいた。
けれど、リィンバウム人たちと対等な関係を終ぞ作りえなかったのではないのかと。
先ほども書きましたが、当時のリィンバウム人でも力を持たぬ民衆は異界の侵略に対して『自分たちは被害者である』としか思えなかったでしょう。
だからこそ、英雄が現れたならば縋るのは当然のこと。
本当は、そんな力無き民衆一人一人の心持ちが、共界線からエルゴを良い方向にも悪い方向にも導くことができたというのに。
この点、劇中の時代は違いました。
聖王国も、帝国も、一般民衆は多かれ少なかれ「自分たちの暮らしは召喚術によって助けられている部分がある」と理解していました。
召喚獣は人間に従って当然だと思い、疑問も挟まぬ者が大半だったようですが、その歪さに疑念を抱く者もちゃんといた。
また各作品の主人公のように【勇者】と呼べる人物は現れど、彼らは【王】ほど圧倒的な力を持たず、それ故に自発的に仲間が支えてくれていました。
【王】の時代のように、戦えど戦えどいつまでたっても戦いが終わらないということもないため、心に余裕が持つことができ英雄に縋らずとも良い時代というのも良い部分だったと思います。
一言で言うと、リィンバウム人たちが、罪と向かい合う準備が整っていた。
※※※
結局【王】の不幸とは、【王】が夢を自らの手で成し得なかったのはこの『リィンバウム人が罪を自覚しているか否か』の差だったのでは。
そう考えると【王】はやはり無能でもなんでもなく、最善を尽くしたのだと私は結論づけます。
彼の代では時間がなかった。エルゴも、人々も、落ち着くまでの時間が。
【王】はその時間を、世界にもたらした。……あまりにも永い時間だったため、罪もまた膨れ上がったのだけれども。
それでもその時間の中で育まれたものが、エルゴとの和解をもたらしたのでしょう。
とくに興味深いことは、このあまりにも永い時間の中で犠牲になったあらゆる存在、その未練が亡魂となり響融者の力となったことです。
また、同時に響融者が立ち向かった世界を滅ぼさんとするシャリマのパワーソース=冥土の糧となったことも忘れてはいけません。
U:Xのラストバトルは、ある意味では【王】の功罪の総決算であったと言えます。
だからこそ、あの場面でミコトと共に戦った亡魂たちの「この世界は無価値じゃない」「無意味じゃない」という否定はとてつもなく重いのです。