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#0' そして黄昏は沈みゆく


 夕陽が箱猫市の空を焼いていく。
 市民たちは綺麗だと思いながら、それを眺めていた。

 一ノ瀬濫觴が消えても箱猫市は、黄昏学園は続いていく。その証明の為の零番迷宮。その証明を果たした解決部。
 だから平穏な日常が続いていく。そのはずであった。

「なんだ、あれ」
 箱猫市民たちの首が一斉に上へと向かう。誰もが目を奪われて、視線を外すことができない。
 10月初頭から現れた黄昏の空のひび割れ。そのひびの白い線が、ピキピキと、まるで音を立てるかのように、長く大きく空を走っていったのだ。
 
 九九白、そして一ノ瀬濫觴の存在を賭した零番迷宮は所詮入り口に過ぎない。
 架空の生徒会長がいなくなり正常の街へと戻ってきたが、その存在は確立できていない。
 端末がなくなった以上、観測者はこの街を観測できない。
 
 呆気に取られた市民たちであったが、ふと頭に自然現象と解説してたニュースが過ぎる。
 ひとり、またひとりとひび割れた空から視線を外して手を、足を動き始める。「奇妙な現象だな、まあそんなもんか」、そういうことを心で感じ、頭で考えて、数秒後には忘れていく。
 最後まで見ていた男子生徒もひび割れが見えなくなると、流石に顔の向きを正面に戻す。だけど自分の中に違和感を感じる。
 わけのわからない感情を口に出してみる。まるで雑踏に、街に、世界に問いかけるように。
「俺は今、なにしてんだっけ」

 正常に戻った箱猫市は正しいのか。
 その答えをまだ観測者は知らない。
 
 
 
 

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