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購買部門視点でのサプライチェーン温室効果ガス排出削減~第3部:算定編

ここまでの「第1部:概要編」、「第2部:基礎事項編」までは「まあそうだよね」「そんなもんか」との反応が多いと思います。しかし次の「第3部:算定編」になると、係数を使った現実的な簡便法であるにも関わらず、「どうしたらよいの」と表情が曇ってくる場合が多いことは既に書きました。関りを持つ必然がなかった購買部門の一般的な方々は、そのような状況が普通です。ですから、そんな状況を念頭においていただき、内容に入って、「う~ん、これは」を感じていただければと思います。


 1.概算算定(推算)方式を再度振り返ってみる

供給サプライチェーン(スコープ3上流)は、直接取引先(Tier-1)に留まらず、その上流のTier-nへと多くの企業が連なっています。ゆえに自社を越えて、供給サプライチェーン全体の排出量を相手にするのは一筋縄ではいきません。それに対しては、様々なベンダー企業からスコープ3上流の排出量を直接測定するソリューション類が発表され始めてもいます。しかし、Tier-n企業に実際値の開示を求め、その値を把握するのは、現在では非常に困難なことではないでしょうか。ゆえに自社で把握できる値に基づいて、概算算定を行う方法が、スコープ3での排出量報告では、従来からよく使用されてきました(前述しました)。

 しかし現在は排出量報告に留まらず、買い手企業がサプライチェーンでの排出量削減に積極的に取り組む、より踏み込んだアプローチの必要性が叫ばれています。そのような場合には、実際の排出量の値(1次データを利用する方法)をより正確に把握し、対策を講じていくことが必要になると思われます。

そこで繰り返しになりますが、まず最初に、温室効果ガス排出量の算定方法を再度振り返ってみます。 温室効果ガス排出量の算定方法には、次の2種類あります。

a.1次データを利用する方法:
   Tier-nにわたる取引先から実際の排出量のデータを受け取る方法。
b.算定式「活動量x排出源単位」の算定(推算)式を用いる方法:
   自社で簡便に算定が可能。

方式aで1次データ(実際値)を把握できれば、高精度な把握ができます。でも実現の困難は非常に大きいのではないでしょうか。ゆえに実質的には方式bが、特に概算把握のほとんどの場合では採用されてきたことは前述しました。

では、方式bは具体的にはどのように行うのでしょうか。環境省/経済産業省資料の資料では、下図のように示されます。

取引先の特定領域の排出量削減に取り組む場合には、取り組み領域に限定した実際の排出量1次データを入手し、それに基づいて具体的な改善活動を行う必要が大きいと思います。しかしざっくりと全体把握するため、あるいは全体から重点取組対象(ホットスポット)を特定するためには、原単位からの推計(方式b)が有効ではないかと思うのです。

2.原単位を用いた推算方式(概算方式)‐スコープ1&2

では、原単位を用いた推算方式とはどのようなものでしょうか。
購買部門が強く関わる供給サプライチェーン(スコープ3上流)を採り上げるまえに、スコープ1とスコープ2(下図の赤枠の範囲)から見ていきます。

(1).スコープ1(事業者でのGHG直接排出)の推計

 スコープ1の排出量は、活動量(ガスや灯油などの使用量など)に、GHGの種類ごとの排出係数(原単位)を掛けて求めます。
※なお二酸化炭素以外のGHGは、「地球温暖化係数」で二酸化炭素換算して計算します(他のスコープ/カテゴリーでも同様)。

上図では自社での燃料(ここでは都市ガスと灯油)の燃焼により排出されている温室効果ガスを推計しています。都市ガスの排出量が22.1[t-CO2]、灯油の排出量が24.9[t-CO2]で、合計で47[t-CO2]の排出量があります。

都市ガスでは、供給者(この例では東京ガス)が簡便に排出量を算定するために定めている排出係数を利用しています。灯油の排出係数は、環境省の「算定・報告・公表制度における算定方法・排出係数一覧」から検索できます(下図)。

このように排出係数を検索し、それと使用量を掛け合わせることで、排出量を推算するのが、原単位から推計する場合の基本形になります。

(2).スコープ2(自社で使用する他者供給の電気や熱・蒸気が作られる際のGHG排出量)の推計

スコープ2の排出量は、自社で使用するエネルギー(電気・熱・蒸気)を作る際に社外で生じる間接排出のGHG排出量に当たります。例えば、火力発電ではLNGなどの燃焼に伴う二酸化炭素が発生しています。これを太陽光発電や風力発電で得られる再生電力に切り替えれば、二酸化炭素発生量は大幅に減少します。このように他社から購入している自社消費エネルギーが、その生成時にどのくらいのGHGを排出しているのかを推計するのが、スコープ2に当たります。エネルギー使用量に移出係数(原単位)を掛け合わせて推算します。

例では購入電力を取り上げました。電力では、電力事業者が提供するメニューごとの排出係数が「電気事業者別排出係数(特定排出者の温室効果ガス排出量算定用) 」として提示されています。それと電力使用量を掛け合わせることで、GHG排出量が概算できます。上図は、発電源が特に指定されていない一般の東電の小売電力を使った場合の排出係数(調整後排出係数)を適用して、排出量を求めている事例です。下表のように求められます。

買い手企業がサプライチェーン上の取引先(Tier-n)の排出量削減支援wo
する傾向が進んでいます。その場合には、取引先の自社排出分のスコープ1、および他社から購入したエネルギー分のスコープ2での排出量も削減の関東対象になります。ゆえに、買い手企業、サプライヤー窓口の購買部門は、スコープ1とスコープ2についてもある程度の知識を持つ必要があります。その意味でスコープ1と2をまず取り上げました。

3.原単位を用いた推算方式(概算方式)‐スコープ3上流

次に、スコープ3上流のカテゴリー1~5を取り上げます。購買部門が一般に関りを持たねばならない範囲です。

(1)カテゴリ1:購入した製品・サービス

カテゴリ1【購入した製品・サービス】とは、「原料・部品、容器・包装等が製造されるまでの活動に伴う排出」と定義されています。平たく言えば、購入する原料・部品の供給サプライチェーン上でのTier-nでの製造で生じるGHG排出量です。
ただし、原材料(直接調達: 事業者の製品の製造に直接関係する物品等)に加えて、製品の製造に直接関係しない物品・サービス(間接調達)も含むとされます。

これを1次データで把握しようとするのは、サプライチェーン上に連なるTier-nの各サプライヤーのGHG排出量を積み上げ集計して算出することになします。しかしそれをサプライチェーン全体にわたって網羅的に収集・集計するのは途方もないことです。ゆえに、原単位方式の「自社が購入した製品・サービスの金額(or物量)に、所定の排出原単位を掛け合わせて算定する」原単位から推計する方式が、一般には採られます。すなわち上図の「現実的/簡易」の方式です。具体的な計算例を見てみましょう。

図は、自動車産業で、部品としてシャフト(自動車部品)、シリンダー(自動車用内燃機関・同部分品)、タイヤ(タイヤ・チューブ)を購入している場合のGHG排出量推算の事例です。

排出原単位は「サプライチェーンを通じた組織の温室効果ガス排出等の算定のための排出原単位データベース(SC-DB)(Ver.3.1)」の「5産連表DB」シートの該当箇所(黄色の部分)から求めます。

(2)カテゴリ4:購入した製品・サービス

次はカテゴリ4【輸送・配送(上流)】です。サプライヤーから自社までの材料・部品物流(輸送・荷役・保管)で排出されるGHGが主体となります。ただし他社による(他社に代金を支払って実施してもらっている)製品物流があれば、その分も含めることになっています。

計算式は、「a.輸送・配送」分と「b.荷役・保管」分に分かれて定義されます。a.輸送・配送では4種類の計算方法があり、赤字のデータを運送業者から収集して、いずれかの方式で計算します。

b.荷役・保管では、一般に燃料と電力の分の排出量を求めます。同様に、赤字のデータを運送業者から収集して計算します。

では、a.「輸送・配送」の計算例を見てみましょう。

GHG排出量は、購入金額と輸送手段の積に所定の排出原単位を掛け合わせて算出します(なお、排出原単位が格納されているIDEAデータベースが許可を得て公開されるものゆえに、排出原単位の値を記入せず、計算式の枠のみ表示しています)。

(3).カテゴリ3: スコープ1,2 に含まれない燃料及びエネルギー関連活動

カテゴリ3【スコープ1,2 に含まれない燃料及びエネルギー関連活動】では、自社排出分(スコープ1、2に含まれない燃料やエネルギー消費から排出されるGHG、すなわち、「燃料の資源採取、生産、輸送に関わる分」、および「電気、熱・蒸気の製造過程に関わる分」のGHG排出量を算定します(下図を参照いただいた方が、範囲が分かりやすいかと思います)。

算定にあたっては、自社購入量(金額)に所定の排出原単位を掛けて、排出量を推算します。
電力では電源の種類(地熱・水力など)が特定できる分は、その電源に該当する所定の排出原単位を掛けて求めます。特定ができない分は通常契約(電源の種類を特定しない)の計算式とします。
熱では、産業用蒸気と温水/冷水で区分して算定します。

算定例を見てみましょう。

図は燃料(一般炭とA重油)と電力の場合の算定事例です。「物語でわかるサプライチェーン排出量算定(2016年3月リリース)」の27ページで示された例を引用しました。

(4).カテゴリ5:事業活動から出る廃棄物

次は、カテゴリ5【事業活動から出る廃棄物】です。事業活動から出る廃棄物の廃棄物処理事態、および廃棄物の処理場までの輸送過程で排出されるGHGが対象となります(下図を参照いただいたくと、より分かりやすいかと思います)。

計算式は、下図になります。

個々の廃棄物輸送と廃棄物処理で発生する1次データのGHGを累計できるのが理想形ですが、他のカテゴリ同様に、とてもそうはいきません。ゆえに排出原単位による推算(廃棄物処理量(処理費用)に所定の原単位を掛け合わせて推算)が行われるのが通例です。計算例を見てみましょう。

排出原単位は、「サプライチェーンを通じた組織の温室効果ガス排出等の算定のための排出原単位データベース(SC-DB)(Ver.3.1)」の「9廃棄物【種類別】」シートの該当箇所(下図)から求められます。

(5).カテゴリ2(資本財)

最後はカテゴリ2【資本財】、すなわち自社の資本財(固定資産)の建設・製造および輸送から発生するGHG排出量です。これも資本財別に原材料調達から製造までの排出量を把握し、積み上げて算定する①の方法が理想形ですが、簡単ではありません。あるいは②のようにサプライヤーから資本財に関するScope1 及びScope2 の排出量、原材料の重量、輸送距離、廃棄物の重量等を把握し、項⽬別に積み上げて算定することも考えられますが、これも簡単ではありません。

ゆえに「活動量x排出原単位」の現実的/簡易手法で推算するのが一般的です。その中でも、資本財の価格(建設費用)を活動量とし、それに排出原単位を掛けて推算する方式が最もよく行われます。その際の排出原単位は、自社(買い手企業)が所属する業種で一律に決待っていますので、資本財の種類ごとに排出原単位をいちいち検索する手間もかかりません。

計算例を見てみましょう。

ここでは、⾃動⾞会社(主に乗⽤⾞を製造)で年間10,000百万円の産業⽤機械の購⼊がある場合のGHG排出量を推算しています。排出原単位は、「サプライチェーンを通じた組織の温室効果ガス排出等の算定のための排出原単位データベース(SC-DB)(Ver.3.1)」の「9廃棄物【種類別】」シートの該当箇所(下図)から求めています。

4.ということで、新たな取り組み課題への嘆き節が多発中…どうしたらいいの?

ここまで長文の「第3部:算定編」をお読みいただき、ありがとうございます。そして、かなりうんざりとした気持ちになられた方も多いのではないでしょうか。

現実的で簡便な推算とか言われているものの、「計算式はどうやって組み立てたらよいのか」、「特に、原単位の係数はどうやって探すのか」
…この辺りが、サプライヤー(取引先)に接するに当たってある程度の知識を得ておきたいが、実務的には困惑してしまうという、多くの購買部門(特に購買企画部門)の悩み(恨み節)となっているようです。しかもすでに述べたように、単純に外部支出(コンサルタントや情報商材など)することを忌避するのが購買部門の一般的な傾向です。一方で、他部門やサプライヤーに「知らないことがバレたら恥ずかしい」との気持ちもあり、煩悶している購買部門(購買企画部門)を数多く生み出しているなの様子です。

でもちょっと社内を振り返ってみてください。おそらく社内には、このような計算を従来から担当してきた他部門があるはずです。そこにはすでに知見を持っている人がいるのではないでしょうか。そこにコンタクトして、情報やノウハウを得る、場合によっては手助けもしてもらうとうまくいく場合があります。

そしてそのようなアプローチを採る際の何らかの参考資料として、この記事が少しでも役に立てば幸いと考えます。

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