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第2部: コロナ・インパクトがシン・調達部門を生んだ(役割の拡大)

1.はじめに

第2部「役割の拡大」では、第1部「現状把握」の状況を受けて、購買部門の在りようがどのように変化するのかを展望します。
そして第3部「具体的な姿」で機能拡大した「シン・調達部門」の役割を詳細化します。では、第2部「役割の拡大」をスタートします。

サマリー(要約)

  • Just-in-Caseは「自社保有分の部材バッファー在庫高の最適化」や「不足時のサプライヤーとの“供給交渉”(価格交渉ではない)」という、Just-in-Time時には不要だった業務を新たに生じさせた。

  • 新業務は”カネ”ではなく”モノ”に関わるものだが、サプライヤーとの一元窓口である購買部門の担当が妥当とみなされている。

  • これを好機(チャンス)と捉えるか、負担と捉えるかが分かれ目と思う。


1.Covid-19パンデミックが業務分担の”穴”を生んだ

1).失われた安寧: Covid-19インパクト以前の購買部門

広範囲かつ長期間にわたる、過去に例を見ない不足の3年間は、購買業務にも大きな変化を引き起こしました。しかし変化後に至る前に、まずはCovid-19パンデミック前の購買部門の姿を振り返っておきましょう。

これまでの購買担当者は、選定したサプライヤーへの発注が済めば、若干の支障はあっても、納入への心配からほぼ無縁でいられました。確かに、過去にも1990年代末のCCDカメラとか、2007年頃の抵抗器などの受動部品とか、2010年頃の積層セラミックコンデンサ(MLCC)とか、電子部材を中心に不足事態が生じたことがありました。古参の方から「サプライヤーの玄関に詰めて、出来たてほやほやを手に入れてきたものさ」など、当時の武勇伝を聞くことも未だあります。さらに近年では、好況ゆえの様々なモノ不足が広範囲に2017年頃から生じました(高力ボルトなど)。しかしそれらは半年~1年も経てばバランス調整されて、まぁなんとかなってきました。

直近で厳しかったのは、東日本大震災やタイ大洪水が発生した2011年です。日本企業への衝撃はただならぬものでした(参考:その際の対策まとめ資料「報道記事から分類した非常事態対応策事例集」) 。しかしグローバル・サプライチェーン圧力指数でみると、世界的には期間も衝撃度(圧力)もさほどではありません(指数値が1.0を超えたのは1か月だけでした(第1部4章参照)。

これまでの購買部門は「最重視するのは、なによりも安定供給。工場が停まったら重大責任だからな」と声高には言うものの、海外新規取引先などの特定サプライヤーを除くほとんどからは、注文通りに納入されるのが当たり前。供給が途絶えて自社生産が停まるのが常態化する危惧はあまり持たずに過ごせてきました。

図1. ソーシングとパーチェシング

ゆえに購買部門での花形は、サプライヤーと値段を決めてコストダウン効果を創出し、さらには協働関係を仕掛けて付加価値を出す「ソーシング」もしくは「アップストリーム(SAP用語)」とか呼ばれる業務領域(図2の左側)でした。

「パーチェシング」、「オーダー・トゥ・ペイ」、「ダウンストリーム(SAP用語)」などと呼ばれる「発注-受領-請求書突合-買掛連携」業務(図2の右側)は、(従事されている方には申し訳ありませんが)付加価値が少なく効率化すべき領域とみなされてきました。例えば、量産型製造業であれば、生産計画から部材所要量データが自動算出されますので、それをEDIでサプライヤーに送信するだけで発注は事足ります。原則的に人手は介しません。それ以外の業態でも、この領域は定型事務作業として機械化や社外アウトソース化の積極的な対象、購買部門が注力する必要は低い領域と考えられてきました。

2).自社在庫を持とうぜ(Just-in-TimeからJust-in-Caseへ): 経営要請の変化と明らかになった課題

しかしCovid-19パンデミックの混乱は、企業に経営方針からの考え直しを迫りました。第1部「現状把握」のように、サプライチェーンの逼迫は、経験ない規模と期間で今も続いています。それが世論、官庁や政府、そして経営層の意識を変えました。

「Just-in-Timeは限界があるのではないか。この情勢ではJust-in-Case(万一の場合)を考えておかないとまずい」、この考え方が企業の経営層を始めとする主流に現在はなっています。では具体的にJust-in-Case対策というと、「供給混乱に備えて自社に予備在庫を保持しておくこと」と、現時点ではほぼ一択です。

(注) 横道にそれますが、サプライヤーとの生産・在庫情報連携することでレジリエンスを高める動きは、既に四半世紀前に手作業ながらも日本の大手企業で実現していました。2000年代になると、米国大手企業がデータ連携でそれを実現した事例が出てきます。しかし、今回のコロナ禍では自社在庫保有の一辺倒のようにも見ます。しかし果たしてこれだけで良いかは、今後の要検証領域と思います。

しかしJust-in-Caseで自社在庫を持つとしても、その在庫水準のコントロールや供給確保のやり繰りは、いったい誰が担当するのでしょうか。
Just-in-Timeでは自社在庫保有は原則的に必要はありません。ゆえにその役割は不要でした。自社在庫化するにしても、所定水準への自動補給(二瓶方式)やVMI方式(厳密には非自社在庫ですが)で、安定供給の責務はサプライヤーに任せる方向でいられました。

ところがCovid-19パンデミックで、サプライヤーの安定供給に信を置けずに自社在庫化するとなると、その管理は誰がいったい担当するのでしょうか。
ここに担当者不在の業務領域が生じました。

3).対応できない!!:サプライチェーン部門の悩み

1980年代以降、特に量産型製造業では「製販連携」が進みました。そしてそれに伴い、市場の需要と自社生産能力を突き合わせて、販売~生産~調達を串刺しにした計画(全社一元の需給計画)を作成する一元コントロールタワー(司令塔)部門が登場しました。日本企業では「サプライチェーン本部」と呼ばれたりしました。海外企業では「オペレーション本部」などです。

この部門は社内の花形です。この部門は、企業が何をどれだけ作ってどれだけ売るかを最終調整・決定する部門、いわば企業の収益を実質的に決めてしまう部門だからです。

しかしこの司令塔がスムーズに運営できるには前提条件がいくつかあります。その1つはサプライヤーが安定的に供給してくれること、それがJust-in-Time時代のノーマル(規範)でした。「何をどれだけ作って、どれだけ売るか」の全社一元の需給計画は、もちろん部材供給制約を加味して作成されます。しかしその場合でも事前取り決めの数量通りに供給されることが基本前提です。「販売数量の要求が急増したが、サプライヤーとの供給量の変動幅取り決めは±10%だから、それ以上のサプライヤーへの増産指示は難しいです」といった部材供給制約が需給計画の作成にあたって加味される程度が通常でした。

しかし、もしそれ以上の供給不安が生じた場合、部材供給が本当に足りるかの確認、さらには供給量確保の交渉までをサプライチェーンの全社司令塔が、サプライヤーといちいち行うのでは、埒が空きません。というか、そもそもこの部門はサプライヤーとの深い接点を有しません。

ところがJust-in-Caseの時代になると、様相が変わってきます。品目は限られるにせよ、自社管理での予備(バッファー)在庫保有がノーマル(常態)となりました。加えて場合によっては、サプライヤーとの供給“交渉”(かなりタフなものを頻繁に)が必要になります。俯瞰的に全体管理を行うサプライチェーン部門では、とても手に負えない状態になりました。

4).やってくれないか?: 購買部門への新たな要請

とすれば、自社在庫を所定水準に保つことを含めた部材の供給確保は、社外サプライヤーとの一元窓口である購買部門で担当してもらえないかとの考え方が、当然に出てきます。

日本企業では、2021年の東日本大震災/タイ大洪水を機に、供給経路の複線化や複社ソーシングが進みました。直接取引先だけではなく、さらに先のTier-2以前のサプライヤーの経路把握の動きも「レジリエンス」の名のもとに活発化しました。しかしそれを担当したのは購買の「ソーシング」部門です。それは品目購入戦略・計画の一部に「レジリエンス」として取り込まれました。計画業務の拡大の形で対応が行われてきたのです。

しかし発注に対する供給確保(場合によっては供給量確保のハード交渉まで)は、効率化対象であった「パーチェシング」領域に該当する作業です。計画業務の一部ではありません。購買部門にとっても、これは新たな業務要請に当たります。一方で、”カネ”の面では亢進するインフレへの対応もあります。そこに生じた”モノ”の管理要請、果たしてこれにはどのような姿勢で臨むべきなのでしょうか。

5).趨勢は購買部門分担の方向へ: ベンダー各社の動向

①コンサルティング会社はサービス領域の呼称を変更
一方で、ベンダー各社は反応したいます。既にコンサルティング会社やベンダー各社は、この業務の空白や社内分担のゆらぎを意識した対応を採っています。例えば、コンサルティング会社各社はサービス領域の呼称を従来と変えて、「購買(調達)・サプライチェーン」を使い始めました。アクセンチュアは「サプライチェーン・ソーシング(上流部分)・プロキュアメント(下流部分)」のさらに突っ込んだ表現を使っています。

図2.ベンダー各社でのサプライチェーンと購買(Procurement)の部門一体化

これまでは購買(Procurement)は、サプライチェーンとは区分された別のサービス領域部門、あるいはサプライチェーン部門の配下の一部門に位置づけられていました。それを考えると大きな変化です。

※サプライチェーンという用語も、販売から供給までを範囲とせずに、文字通りの「供給チェーン(インバウンド・サプライチェーン)」を表す方向に変化しているようです。従来の販売から供給までを表すのに「バリューチェーン」の用語を充てる例も出てきました。

②Coupaは”カネ”の管理に加えて、”モノ”の管理にも進出
ソリューションベンダーでいち早く反応したのが、業界のThought LeaderのCoupa(クーパ)です。2020年11月にサプライチェーンデザイン&プランニングソリューションのLlamasoftを15億ドル(当時のレートで約1600億ドル)で買収しました。2016年の株式公開以降、買収を繰り返してきたCoupaですが、これは現時点まで含めて最高額の買収となっています。

この買収は、Coupaの方向転換でもありました。それまではBusiness Spend Management (BSM)の呼称のもとに、キャッシュ管理を含めたCFO(Chief Financial Officer)方向への接近が図られていました。いわば”カネ”の管理です。それに対して、Llamasoftという”モノ”の管理機能が赤枠のように組み込みまれたのです。

図3. Coupaは”カネ”の管理群に”モノ”の管理機能を追加

因みに「サプライチェーンデザインデザイン&プランニング」とは、簡単に言えば、目標値(在庫水準や予想需要数量などの目標)に対応して、どこからどこへ供給し、どう運搬したらよいのかの最適解を求めるものです。例えばMIT(Massachusetts Institute of Technology)のビジネススクールでは、Excelのソルバー機能を使った演習を行ったりしています(但し実務では、Excelでは手に負えない複雑な条件を扱うため、専用ソリューションが必要です)。

図4. 3つの工場から、2つの配送センターを経て、3つの配達地域に配送する経路を所定条件下で最適化するExcelモデルをソルバー機能(アドオン)を使って作成した事例
(MIT edX「CTL.SC2x - Supply Chain Design」コースより)

しかし上流のソーシング機能で”カネ”の管理に主に取り組み、下流のパーチェシング機能では発注品の納品確認と支払計上の事務作業を担っていたこれまでの購買部門にとっては、このような”モノ”の管理に必要なスキルセットはまったくの新規のものです。これをどう捉え、どうしたらよいのでしょうか?

2.次の記事(第3部)では

Covid-19パンデミックを経て、購買部門の在り方への要請は、このように大きく変化しました。その結果、従来の購買部門に対して、いわば「シン・調達部門」とも呼ぶべき業務範囲の拡大(従来の購買+供給サプライチェーン)が生じて始めています。

では具体的に、シン・調達部門はどのような姿に変化すればよいのか、さらにはその変化をどう考えて受け入れれば良いのかを、次の第3部「あるべき姿」で見ていきましょう。


なお、「購買の新時代はこの未来だ 2023」の最終目標は、第3部で描き出す「シン・調達部門」の現在の姿が、最終的にはどこに行き着き、どのような姿となるかの仮説を描き出すことです。皆さんがそこからバックキャスティング(Back Casting)して、採るべき方向性を考える材料を提供できればと、考えています。


(第3部「あるべき姿」のリンクを公開後に貼付予定)


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