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デュラハンは心の友 第8話 俺氏、心の友のために戦う!

 村で唯一頭の馬を飛ばした。七日で教都に辿り着いた。村長さんと一緒。
 俺一人で体重0で駆け抜けたらもっと早いんやろうけど、ボニたん連れて安全に逃げるなら足が必要や。
 帰るまでが遠足やもん。
 教都コラプティオは村長さんがビビるような大きな街やった。
 今は街を北側の山から観察しとるけど、荷馬車がひっきりなしに門を行き来しとるし、人がようけ往来を歩いとる。ただな、俺が住んどったんは日本やぞ、全然ビビらんわ。

 ボニたんに買うてもろた遠眼鏡みたいなやつで教都を眺める。
 ただの丸いわっかに見えるけど、これを通して見た景色が自由に拡大縮小できるん。
 白い塔が目に入る。白磁の塔いうんはたぶんあれかいな。
 宗教関係の北街区に塔は何本か建っとるけど、白くて入口に兵隊さんみたいなのがおるんはあれだけや。他のは神父さんみたいなのが普通に出入りしとるから業務塔みたいなんと違うかな。
 警備状況はようわからん。街区を隔てる門のとこに何人か兵隊さんがおる。詰所もあるみたいやけど、あんま警備はしとらんように見えるなぁ。まあ教会襲うとかあんまないんやろうな。
 で、処刑場所はあそこになるんか。政治区の広場で街の中心。やっぱあそこでさらって逃げるのは無理やな。囲まる未来しか見えん。やっぱ塔から直接さらうしかないよな。
 ただ、上の方におるって話やし、窓から放り投げたらボニたんは死んでまう。それに塔が白いからやっぱ、ロープとかでこっそり下りても途中で見つかってしまいそう。うーん。
 でもとりあえず行ってみっか。

 宵闇に紛れて教都の塀を乗り越え、するりと塔の裏に回る。
 体重0の妖精さんをなめたらあかん。多少荷物があっても体積がでかい分、風にのればどっからでも入れるんや。忍び込むんはお茶の子さいさい。
 スピリッツアイを起動。きゅぴん。
 各層に何人かずつおる? 歩いとるんは違うんやろな。警備やと思う。あんま動かん人は6人くらいや、どれやろ。
 ……あれか。
 ボニたん考え事しよる時は部屋の端から端を行ったり来たりしよるからな。あんな怪しげな癖あるんボニたんくらいやろ。6階くらいか。窓もあるな。よっしゃ。
 地面を伝わり塔にぶつかる上昇気流に合わせて大きく跳躍しつつ塔を駆け上がり、目的の部屋の窓枠に捕まりふわりと体を引き上げる。やっぱウロウロしとったんはボニたんやった。なんやえろう懐かしいな。
「なぁボニたん。抹茶まだみつからんの? 俺ずいぶん待っとるんやけど?」
 俺の声にボニたんは振り返り、信じられないという顔で目を見張る。

「デュラはん? なんで!?」
「帰り遅いから迎えにきたん。早よ帰ろ?」
 なんでそんな悲しそうな顔で見るんよ。
「デュラはん、あとで帰るから村で待ってて? 不法侵入したら捕まっちゃうよ? きっと大丈夫だから先に戻ってて」
 大丈夫なんやったらなんでそんな顔しよるん?
 嘘つきめ。
「あかん、抹茶待てへん。もう村で作ろ思うから探さんでええわ。帰ろ、な?」
「デュラはん……」
「心の友ボニたん、俺のこと信用できへんのか?」
「そんなこと……ない」
 窓から入った部屋の中は、狭く簡単な脚付ベッドしかない。
 質素で簡素で寒々しい。
「自分が戻ったら村に迷惑かけるとでも思てるんやろ? ボニたんのことやから技術は自分しか知らんとか言い張っとるんやろなぁ。でも俺も村も、ボニたん一人に守ってもらうほど弱ないで?」
「……でも」
「村長さんもボニたんに帰ってきて欲しいってさ」
「なんで? 僕が帰ったらまた目をつけられる。僕の発言力が増えたら困る人がここにいるんだ」
「だから?」
「だから? ……だから僕が帰ったら迷惑をかける」

 ペシっとボニたんの頭をはたく。
「いたっ」
「ボニたんほんまアホやな。やから土塁積んだんやろ? デュラはんが守ったるわ。必要やったら自重なんてせん。知識チートの真髄みせたるわ。大丈夫やから帰っといで」
「無理だよ」
「無理ちゃうわ。それともボニたん俺のこと嫌いなん? 一緒におるん嫌なん? 俺、ボニたんと村のためやったら神様ぶち殺して世界滅ぼしてもええ思ってんのに」
 ようやくボニたんがちょっと笑ろた。
「ふふ、大好きだよデュラはん。それから僕は一応神父なんだけどな。でも僕がここから逃げるのは無理だよ、ここの下には兵隊がたくさんいるし、応援を呼ばれたらすぐに囲まれる。教都だから兵隊が多い。デュラはんでも無理だ。それに塔を出られても身分証は取りあげられちゃったから門を出られない」
「ほな、帰ろか」
 大好きなんやったら許してくれるやろ。
 さて、どうするかなぁ?
 窓際に戻って下を見る。うーん、15メートルくらい?
 ボニたんも一緒に下を眺める。ひゅるりと風が吹きあがる。
「あの、デュラはん?」
「ボニたんこっから落ちたら死ぬよね?」
「……死ぬね。だからデュラはんは村に戻って」

 下で受け止めても死ねる高さやな。やけど覚悟を決めた俺の知識チートに無理の文字はないで。
 背嚢リュックから取り出したるは大工さんに作ってもろた軽量折りたみ式クロスボウ。
「デュラはん、弓スキルあったっけ」
「そんなもんないよ? でも人に向けるんやのうて道具ならアリ」
 黒く染めたロープを結んだ矢を装填し、近くの塔を狙って打つ。
 矢は綺麗に弧を描いて、おし、刺さった。力いっぱい引っ張っても抜けん。
 ベッドの脚にロープの反対側を通して先端同士を結びつける。輪っかにしとけば片側を切ればロープを全部回収できる。村を守るためにもなるべく技術の痕跡を残しとうない。よし大丈夫そう。あの刺さった位置から地面までは、うーん約5メートル。いけるな。
「デュラはん何してるの?」
「ボニたんお願い、俺の頭もってて。絶対離したらあかんよ? 大好きいうん、ちゃんとし・ん・ら・いしとるからな」

 頭を預けてボニたんを片手で左肩の上に抱え上げる。
「ちょっとデュラはん?」
「ほんま、絶対頭おとさんといてな? あと口閉じて目つぶっとき。逃げるんやから叫んだらあかんで?」
 右手でロープを掴んで窓を飛び出し、左足を絡ませてロープをつたい渡る。
「ちょっちょっ空飛んでる!? 怖い!?」
「ボニたん静かにしたって。大丈夫やから。頭おとさんといてな?」
 向かいの塔に渡って地面に降りて鏃もロープも回収。
 よかった、今時点では気づかれた気配はないな。
 さて問題はこれからや。ボニたんには重さがある。やから担いだまま塀超えるんは無理や。最後は強行突破しかない。
 教都の外から確認した中で一番兵の少ない早馬用の門まで移動して様子を伺う。門に立ってる兵士は一人。門は開いてる。近くの兵舎には四、五……六人か。やっぱここが一番都合ええな。
「ボニたん、ちょうど壁の向こう側のあのあたり、あの門出て西門に向かってしばらく行くと村長さんが待っとる。俺が陽動して門の2人を引き付けるからさ、その間に門から出て村長さんと合流しとって」
「え、ちょっと、デュラはんはどうするのさ」
「俺、軽くしたら4メートルくらい飛べるん知っとるやろ? 壁飛び越えて逃げるわ。村長さん馬連れてきとるから、一緒に逃げよ」
 背嚢ごと荷物をボニたんに渡す。
「本当に大丈夫なの? 逃げてくるまで待ってるからね。絶対置いていったりしないから! ちゃんと逃げてこれる?」
「もちもち、当たり前やん。やからほんま逃げてな。捕まったらあかんで」

シリーズ目次+1話目

#創作大賞2024 #ファンタジー小説部門 #デュラハン  

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