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異形コレクション XX(20) 玩具館

◾️全体: ★★⭐︎⭐︎⭐︎
玩具テーマだと全体的に《子供》《ノスタルジー》といった恐怖から遠い要素が前面に出た作品が多く、個人的に好みではなかった。「登場人物にウォルフ「ガング」がいる」という理由で玩具とか全然出てこないいつものグロSF作品投げ込んできた田中啓文先生が素晴らしかった。


◾️お菊さん / 飛鳥部勝則 ★★★⭐︎⭐︎
田舎の村で性玩具として弄ばれる叔母に性玩具として弄ばれる少年の独白。蔵に幽閉されていたもう一人の女が何者なのかよく分からず、話もスッと終わってしまいトータルの読み応えは微妙だが、叔母と少年による背徳虐エロ描写の色香がエグく記憶に残る。

◾️猫座流星群 / 皆川博子 ★★⭐︎⭐︎⭐︎
軟禁状態の兄妹が小間使いの少年から教わる拷問。情景描写は良いが、取り返しのつかないエスカレートを示唆するラスト含め、味が薄い。

◾️よくばり / 佐藤哲也 ★★★★⭐︎
退屈な公園でミニカー遊びをする少年が遭遇した怪異。実話怪談のような切れ味と怪異の理不尽さ、それでいてオチの妙な爽やかさが良い。

◾️弟 / 加門七海 ★★⭐︎⭐︎⭐︎
因習村めいた大屋敷で軟禁される異形の少年と彼にしか見えない『弟』が、家全てを呪って解放を得る話。この話も然り、『玩具館』は全体的に恐怖度低め、幻想的で物悲しい作品が多い。テーマが玩具なんで、子供へ抱くノスタルジックな感情に主眼が当たるとどうしてもそうなるのか。ノットフォーミー感がある。

◾️チャチャの収穫 / 田中和 ★★★⭐︎⭐︎
飼い猫のチャチャが拾ってくるガラクタ。ある日の深夜に得体の知れない持ち主が尋ねてきて……、という話。「家を出て蒸発しようとし、乗ったことにした飛行機が墜落して『どこにもいない人間』になった」という男の身の上、こないだ行った行方不明展のエピソードのような趣きがある。彼は果たして幸せだったのか。

◾️来歴不明の古物を買うことへの戒め / 雨宮町子 ★★⭐︎⭐︎⭐︎
ネットオークションで購入したジグソーパズルは過去や未来の陰惨な事件の絵柄、最後はパズルを組み立てた男達の死の姿を映し……という話。死の未来に引き寄せられて殺される、という流れとしては、ケネディ暗殺やシャロン・テート殺しみたいな過去の事件を出すよりは、パズル全部未来の余地に統一した方が一貫性が出た気が。

◾️フォア・フォーズの素数 / 竹本健治 ★★⭐︎⭐︎⭐︎
何百時間もかけて考えた難解なクイズを一瞬で台無しにされるの本当に嫌、という話。最低限の数学知識がないと読めすらしない問題作。logとかもう思い出せない。

◾️象牙の愛人 / 篠田真由美 ★★★⭐︎⭐︎
玩具は玩具でも大人の玩具。死んだ美しい青年に似せた象牙の人形と彼に狂わされた夫婦の話。官能韓流ドラマのような読み口。

◾️男の顔 / 田中文雄 ★★⭐︎⭐︎⭐︎
戦後の宇都宮、大衆映画好きな少年がミニ映写機に映った謎の男を見て……。ノスタルジックなミステリーだが、薄味。

◾️貯金箱 / 北原尚彦 ★★★★⭐︎
富豪の事業家のボッチャマが手にした貯金箱、母からの愛情と引き換えにコインを得られる呪われた玩具に魅せられた末に……。悪魔に手加減が無く、資産家の子息をきっちり地獄に落とす手際が見事。

◾️喇叭 / 浅暮三文 ★⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
異形コレクションの中でも随一の攻めた短編。孤独な初老の男に突如届いた怪しい紙切れに書かれた意味不明な問いかけの数々。世にも奇妙な物語辺りで
ドラマ化するポテンシャルを秘めていると思う。この★1は★1ではない。

◾️ぼくのピエロ / 安土萌 ★★★⭐︎⭐︎
殺人ピエロ界隈でも持ち主に献身的な部類に入る殺人ピエロ。少年が本当に欲しかったもの(両親の抹消含む)を全て差し出して絶命する殺人ピエロに全俺が泣いた。

◾️走馬灯、止まるまで / 久保田弥代 ★★★⭐︎⭐︎
ハードボイルドな探偵バディが、死者を《生きている》と錯覚させるミーム汚染機能付きの走馬灯に狂わされてゆく話。ゲ謎好き辺りにはブッ刺さりそうな中年男性の尊厳破壊。

◾️怪魚知音 / 飯野文彦 ★★★⭐︎⭐︎
親からの性虐待、恋人からの虐待を受けた孤独な人間が、錯乱して恋人を捌いてゆくーーーここまで読んで主人公が女だと思ったら自身のジェンダーバイアスを自省してほしい。人体損壊描写は信頼と実績の飯野先生節。

◾️タケオ / 太田忠司 ★⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
ぬいぐるみを嫌う男がぬいぐるみに呑まれてゆく話。オチの流れに力技感が強く、ノットフォーミー。

◾️人形の家 / 村田基 ★★★⭐︎⭐︎
フィギュア愛好家間のメールが闇を仄めかすモキュメンタリー短編。実際ジャンルが美少女寄りだと家庭との両立が困難だろうけど、ロボトミーみたいな電波に頼らず建設的なオタライフをエンジョイしていきたいものですね。

◾️愛されしもの / 井上雅彦 ★★⭐︎⭐︎⭐︎
死に瀕した少女と改造玩具の百鬼夜行。特に書くことがない。

◾️綺麗な子 / 小林泰三 ★★★★⭐︎
小林先生十八番の《生物と非生物》の狭間を抉る良作。Twitterに生息する自称夜職垢みたいなヤバい女の理屈もへったくれもない主張に自明と思っていた常識が脅かされる様は本当に厭。ペットも子供も世話が煩雑、自分を気持ち良くしてくれる可愛さだけ堪能したい、って理屈で作中世界は緩やかに滅ぶ訳ですが、令和6年の日本は大分それに近づいてきてる気がする。小林先生これ本当に四半世紀前に書いたの?

◾️救い主 / 田中啓文 ★★★★⭐︎
宇宙船からの救難信号をキャッチしたレスキューが見た凄惨な殺し合いの残滓、唯一の生き残りが語った顛末とは……。DEADSPACEみたいな出だしから始まりグチャドロ描写を経て意表を突く《転》からの「まあ、そうだよね……」という《結》。エログロなければ藤子F短編に載っててもおかしくないセンス・オブ・ワンダーな良SF。やっぱり誰か/何かを見た目だけでで判断しちゃいかん。

◾️青い月に星を重ねて / 浦浜圭一郎 ★★⭐︎⭐︎⭐︎
愛する双子と静かに暮らす楽園のような島、そこに流れ着いた見知らぬ男。色彩鮮やかな島の描写は綺麗。マトリックス空間で理想のスローライフを送る主人公を連れ戻す男、という流れは既視感が強く、のめり込むのは難しかった。

◾️未完成の怨み / 今野敏 ★★★⭐︎⭐︎
レア積みプラは呪われる、という話。モデラーには恐ろしい反面、大量にガンプラ寝かしてる転売ヤー呪い死んでくれねえかなと思わないでもなく。主人公が作り込んでいたMGのGP01、目の付け所が渋くて良いね。

◾️瑠璃色のびー玉 / 江坂遊 ★★★★⭐︎
高橋葉介作品に出てきそうな邪悪なびー玉売りが計算違いで返り討ちに合うショートショート。能力バトルにも参考にできそうなアイデアの勝利。

◾️オモチャ / 宮部みゆき ★★⭐︎⭐︎⭐︎
ビッグネーム参戦。死にゆく地方の商店街で相続のしがらみでおもちゃ屋の老人が擦り潰されるという宮部節の効いたエピソードなんだけど、淡々と進んで淡々と終わった。死後佇むじいさん、もうちょっとパニッシャー精神で住民に厄災招いたり頑張って欲しかった。

◾️女の館 / 菊地秀行 ★★⭐︎⭐︎⭐︎
宝石店を開いた3人の女起業家と、3人の間にちらつく男。女3人を手玉に取りながらつまらなくなったら殺すか捨てるパトロン、描写が淡白すぎてもうちょっと露悪的に振る舞ってくれないと濡れない。

◾️のちの雛 / 速瀬れい ★★⭐︎⭐︎⭐︎
戦中に学校行事で竹槍で突かれるなどされたアメリカ渡来の人形にまつわる昔話。こういう話を絶賛しそうな層が某前首相のお面をブルドーザーで踏む行為も絶賛、というダブスタクソ人間をSNSで見過ぎ、真面目に論評する気が起きない。



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